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小児脳腫瘍の一部には化学療法よりもダブ+トラ標的療法が有効

新しい臨床試験の結果によれば、低悪性度グリオーマ(神経膠腫)と呼ばれる脳腫瘍の小児の一部には、新たな標準治療ができるかもしれない。この試験では、安全性に加え、腫瘍を縮小させて進行を抑制する効果について、ダブラフェニブ(タフィンラー)とトラメチニブ(メキニスト)の併用のほうが標準化学療法よりも優れていた。

この研究の対象となった患者全員のがん細胞には、BRAF V600変異という遺伝子変異が認められた。また、全員が手術で摘出できないか、手術後に再発したがんであった。

ダブラフェニブとトラメチニブは標的療法と呼ばれ、特定の遺伝子やタンパク質が変化したがん細胞を攻撃する治療薬である。ダブラフェニブは、BRAF遺伝子に特定の変異がある細胞を標的とし、変化したBRAFタンパク質が増殖シグナルを送るのを阻止する。トラメチニブは、そのようなシグナルの伝達を促すタンパク質の活性を阻害する。

標的療法を受けた患者と化学療法を受けた患者の治療結果には「顕著な有意差」がみられたと、同研究の主任研究者であり、カナダのトロント市にあるThe Hospital for Sick ChildrenのEric Bouffet医師は述べている。

標的療法の併用のほうが、腫瘍が縮小した患者の数が多く、腫瘍の増殖が抑制された期間が約3倍長かった。また、標的療法を受けた小児患者では、重篤なものを含め副作用の発現も少なかった。Bouffet 医師は、6月6日、2022年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で第2相ランダム化試験の結果を発表した。

セントジュード小児研究病院の小児グリオーマ専門医で、この研究には参加していないMelissa Hudson医師は、「この研究の結果は、いくつかの理由から非常に素晴らしく、期待が持てます」と話す。

ひとつには、子どもの脳腫瘍のなかで最も多いのが低悪性度グリオーマであること、とASCO年次総会でこの結果が発表された際にHudson医師は述べた。また、グリオーマが増殖する脳内の部位のため、手術で摘出できないことが多い。さらに、化学療法は多くの子どもたちに後々まで健康問題を引き起こすと説明した。

「ですから、化学療法よりも安全で効果的な標的療法ができるとなれば、胸が踊ります」とハドソン医師は話した。

低悪性度グリオーマ

グリオーマ(神経膠腫)は、脳や脊髄に発生する腫瘍である。小児がグリオーマと診断されると、腫瘍に「悪性度」を示す言葉が付く。低悪性度グリオーマは、高悪性度グリオーマよりも増殖および周囲への進展が遅い傾向にある。

手術で摘出できない、あるいは手術後に再発した低悪性度グリオーマの子どもたちには、化学療法と放射線療法が標準治療となっている。低悪性度グリオーマの子どもたちのほとんど(85%~96%)が診断後10年以上生存しているが、神経障害、内分泌障害、学習障害、不妊など、治療による厳しい長期的な副作用に悩まされることがある。

低悪性度グリオーマの「サバイバーにみられる長期的な治療関連の晩期障害を最小限に抑えられる治療法を見つけ出す努力が大切です」と、この研究に関与していないNCIのがん治療・診断部門のMalcolm Smith医師が述べた。

グリオーマの生物学的特徴に関する最近の発見が、いくつか新しい治療法のアイデアに結びついた。特に、複数の研究から、低悪性度グリオーマ小児患者の15%~20%では、腫瘍にBRAF V600変異があることがわかり、BRAFや一緒に作用するタンパク質を抑える標的療法の臨床試験につながった。

2019年、Bouffet医師らは、低悪性度グリオーマ小児患者の一部では、ダブラフェニブによって腫瘍が縮小することを示した。同じ頃、BRAF V600変異がある成人の皮膚がん、甲状腺がん、肺がんに対して、ダブラフェニブにトラメチニブを追加すると、ダブラフェニブ単独よりはるかに効果が高いことが大規模臨床試験で明らかになった。

そこでBouffet医師らは、低悪性度グリオーマの小児を対象とする小規模な臨床試験でこの併用療法を試行し、この治療法が安全であることを確認した。

それが今回の大きな試験につながり、Bouffet医師は、これは「低悪性度グリオーマの [小児] 患者を対象に、標的療法と化学療法を比較した史上初のランダム化比較試験」であると指摘した。

ダブラフェニブとトラメチニブの併用試験

この試験には、低悪性度グリオーマの1歳から17歳までの小児100人以上が参加した。ダブラフェニブとトラメチニブの製造元であるノバルティスが本試験の資金を提供した。

試験参加者は、ダブラフェニブとトラメチニブ、または化学療法薬のカルボプラチンとビンクリスチンのいずれかを受けるように無作為に割り当てられた。

化学療法を受けている間にがんが悪化した場合、参加者は標的療法の併用に変更することができたとBuffet医師は説明した。

この標的療法は通常どちらも錠剤であるが、この研究では新しい液剤が使用され、年齢の低い子どもでも服用しやすくなったと同医師は述べた。

腫瘍が縮小するか完全に消失する反応を示した患者は、標的療法群で47%であったのに対して、化学療法群では11%にとどまった。さらに、標的療法では、患者の腫瘍が抑制された期間が長く、その中央値は、化学療法群の7カ月に対して20カ月であった。

化学療法よりも安全

ダブラフェニブとトラメチニブを服用した患者に最も多くみられた副作用は、発熱、頭痛、嘔吐であった。Bouffet医師はいずれの副作用も「管理可能である」と説明した。

標的療法群では、化学療法群に比べ、重篤な副作用が認められた患者(47%対94%)や副作用により治療を中止した患者(4%対18%)が少なかった。

本試験の研究チームは、標的療法の長期的な安全性を引き続き観察しているとBouffet医師は加えた。

「ダブラフェニブやトラメチニブなどの標的療法は、治療による長期的な影響を軽減する可能性がありますが、その確認のために、ダブラフェニブとトラメチニブの投与を受けた子どもたちを何年も追跡して観察する必要があります」と、Smith医師が話した

Hudson医師は、この標的療法による治療法のほうが長期的には安全であるという結果になるのを期待していると話す。

「このような標的療法によって、子どもたち個人に合わせた治療が可能となり、QOLを維持した長期生存(QOS)の向上が期待されます」。

BRAF遺伝子変異がある腫瘍に限定

「低悪性度グリオーマの患者なら誰でも使える治療法ではないことに留意することが非常に重要です」とBouffet医師は強調する。腫瘍にBRAF V600変異がある子どもたちにしか適用されません」。

バイオマーカー検査や分子検査と呼ばれる遺伝子検査の一種により、患者のグリオーマにBRAF遺伝子変異があるかどうかを判定できる。

この研究は、低悪性度グリオーマの子どもたちにとって、診断されたらできるだけ早くバイオマーカー検査を受けることがいかに重要かを示しているとBouffet医師は述べた。

今年3月、NCIは、グリオーマなど中枢神経系腫瘍の若年患者にバイオマーカー検査を提供するプログラム、Molecular Characterization Initiativeを立ち上げた。Children’s Oncology Groupと提携している病院で治療を受けている患者であれば検査を受けることができる。詳細は、Molecular Characterization Initiativeのウェブサイト(原文)を参照のこと。

高悪性度グリオーマに対する標的療法

ダブラフェニブとトラメチニブの併用は、高悪性度グリオーマの小児にも効果があるかもしれないことを同じ研究から得られた他の結果が示唆している。同研究では、初回治療後に再発した高悪性度グリオーマで、BRAF V600変異がある患者41人を対象とした。

参加者全員が標的療法の併用治療を受けた。参加者の56%で腫瘍が縮小または完全に消失し、その場合、中央値で22カ月間は腫瘍が再び増殖することはなかった。これに対し、高悪性度グリオーマの標準治療では、腫瘍の縮小がみられる患者は通常20%未満である。

全体として、参加者の腫瘍には、中央値で9カ月間進行が認められなかった。また、ほぼ3年後の時点でも参加者の半数が生存していた。ロンドンのグレート・オーモンド・ストリート小児病院の主任研究者であるDarren Hargrave医師は、通常、高悪性度グリオーマの子どもたちで診断後2年以上生存するのは35%未満であると述べた。

日本語記事監修:永根基雄(脳神経外科/杏林大学医学部 )

翻訳担当者ギボンズ京子

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