新たなCOVID-19ワクチン(CoVac-1)はB細胞欠損がん患者を保護する可能性

ペプチド ワクチンはT細胞依存性免疫応答を誘導する

新型コロナウイルスに対する新たなワクチンであるCoVac-1は、多くの白血病患者やリンパ腫患者などのB細胞欠損患者の93%で、T細胞性免疫応答を誘導したことが、4813日に開催されたAACR年次総会2022で発表された。

「私たちが知る限り、CoVac-1は現在、免疫不全患者向けに特別に開発・評価された唯一のペプチド ワクチン候補です」とJuliane Walz医師(本研究の上級著者で、テュービンゲン大学病院(ドイツ)ペプチド免疫療法教授)は述べた。

COVID-19ワクチン接種は大多数の人に新型コロナウイルスに対する強い免疫応答を誘導する一方、承認済ワクチンは多くの免疫不全患者において有効性が低下していることを示している。血液がんの治療を受けている患者はこうした集団の1つである。その理由は、彼らの受ける治療レジメンは悪性細胞だけでなく、正常な免疫細胞、特にB細胞を損傷することが多いためである。

「臨床現場では、利用可能なCOVID-19ワクチン接種を受けても十分な液性免疫応答が得られないがん患者を多数見かけます。したがって、こうした患者はCOVID-19の重症化リスクが高いです」とWalz氏は述べた。

多くの化学療法薬や一部の免疫療法薬は、液性(抗体関連)免疫応答を担う免疫細胞であるB細胞を殺傷する。現在、承認済COVID-19ワクチンは液性免疫応答に著しく依存し、B細胞欠損患者ではこうした応答が損なわれる可能性がある。これを補う方法の1つが、もう1つの免疫細胞であるT細胞からの応答の強化である。

「新型コロナウイルスに対するT細胞免疫応答は、感染やワクチン接種後でも抗原抗体反応がほとんど生じないB細胞欠損患者にとって特に重要です。T細胞関連免疫は防御的抗ウイルス応答の発現に不可欠で、これまでの科学的根拠から、中和抗体が無くてもT細胞はCOVID-19と対抗できることが示されています」とClaudia Tandler理学修士(テュービンゲン大学大学院生、本研究を発表)は述べた。

T細胞を活性化するワクチンの設計には、新型コロナウイルス抗原、すなわち、免疫細胞を活性化できるウイルス タンパク質の小片を慎重に選択する必要があります」とTandler氏は解説した。現行のmRNAワクチンではスパイクタンパク質という単一のタンパク質の大きな断片を産生し、それを細胞が分解して抗原とすることができるが、Tandler氏らはウイルスの(スパイクタンパク質に限らず)さまざまな断片から6種類の特定の抗原を選択し、ワクチンを製造した。CoVac-1はペプチド ワクチンで、タンパク質をコードするmRNAではなく、タンパク質の断片を直接注入するものである。

「スパイクタンパク質に限定されるため、ウイルスの変異により効果が失われやすいmRNAワクチンやアデノウイルス ベクターワクチンと異なり、CoVac-1により誘導されるT細胞免疫はさまざまなウイルス タンパク質を対象にするため、はるかに強力で広範です」とTandler氏は述べた。

Walz氏らは以前免疫不全のない人を対象にCoVac-1の安全性と予備的有効性を検証し、CoVac-1被接種者全員が全身性副反応を最小限に抑えながら、オミクロン株や他の懸念される変異株に対する応答を含めた強力なT細胞応答を接種3カ月後も維持することを明らかにした。これらの結果は、免疫不全患者を対象にCoVac-1の有効性を検証する第12臨床試験の基礎となった。

本臨床試験の第1相試験で、白血病やリンパ腫患者12人を含む、B細胞欠損患者14人が参加した。これらの患者にCoVac-1を単回接種し、安全性と免疫原性を最長6カ月間観測した。注目すべきことは、本臨床試験参加患者の64%に承認済COVID-19ワクチン接種歴があるが、液性免疫応答が誘導されなかったことである。

CoVac-1接種から14日後に参加患者の71%でT細胞免疫応答が認められ、28日後には93%に上昇した。Walz氏らはCoVac-1によって誘導されたT細胞応答の有効性を評価し、その応答がmRNAワクチン被接種後のB細胞欠損患者で認められたスパイク特異的T細胞応答を上回ることを突き止めた。CoVac-1によって誘導されたT細胞応答は、新型コロナウイルス感染後に免疫不全でない人が得たT細胞応答をも上回った。

Walz氏らは現在、より多くの免疫不全患者を対象にCoVac-1を評価する 第3相臨床試験の準備を進めている。また、Walz氏は、この結果から、この新規ワクチンがB細胞欠損がん患者をCOVID-19の重症化から守れる ようになると期待している。

CoVac-1は現在承認されているワクチンで十分な免疫を得られない人でも、新型コロナウイルスのT細胞免疫を広くかつ長期間にわたって誘導するよう設計されているので、こうした高リスク患者をCOVID-19の重症化から守ります」とWalz氏は述べた。

本研究の限界は、参加患者数が比較的少なく、人種や民族の多様性が低いことである。

本研究の資金は、ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州科学・研究・芸術省、ドイツ連邦教育科学研究技術省、ドイツ優秀戦略によるドイツ研究振興協会、および臨床共同ユニット橋渡し免疫学から提供された。Walz氏はCoVac-1に含まれる新型コロナウイルスT細胞エピトープに関連する特許の発明者として記載されている。Tandler氏に開示すべき利益相反はないとしている。

翻訳担当者 (ポストエディット) 渡邊 岳

監修 喜安 純一、(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

白血病に関連する記事

意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果の画像

意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果

ダナファーバーがん研究所意図せぬ体重減少は、その後1年以内にがんと診断されるリスクの増加と関連するという研究結果が、ダナファーバーがん研究所により発表された。

「運動習慣の改善や食事制限...
【米国血液学会(ASH)】進行した急性骨髄性白血病に新規メニン阻害薬が有望の画像

【米国血液学会(ASH)】進行した急性骨髄性白血病に新規メニン阻害薬が有望

MDアンダーソンがんセンター特定の遺伝子変異を有する白血病に有望な効果が、MDアンダーソン主導の2つの臨床試験で示されるテキサス大学MDアンダーソンがんセンター主導の2つの臨床...
再発した白血病、リンパ腫にネムタブルチニブが有望の画像

再発した白血病、リンパ腫にネムタブルチニブが有望

オハイオ州立大学総合がんセンターオハイオ州立大学総合がんセンター・アーサーG.ジェイムズがん病院リチャードJ.ソロベ研究所(OSUCCC – James)の研究者らが研究している新しい...
初発AMLへの高用量シタラビン併用療法は安全かつ奏効を改善の画像

初発AMLへの高用量シタラビン併用療法は安全かつ奏効を改善

MDアンダーソンがんセンター初めて急性骨髄性白血病(AML)と診断された若くて体力のある患者には、通常、シタラビンとアントラサイクリンの化学療法が投与されるが、最近、シタラビンの高用量...