KRAS阻害薬ソトラシブが一部の進行膵臓がん患者に有望

ASCO専門家の見解

「膵臓がんは治療が最も困難ながんの1つであり、KRAS変異については最近まで “創薬不可能 “と考えられてきました。今回発表されたデータでは、ソトラシブ(販売名:ルマケラス)が将来、治療抵抗性のKRASG12C膵臓がんに対する標的治療の選択肢となる大きな可能性が示されました。この結果がさらに、膵臓がんやその他のがんに対する新しいRAS阻害剤の開発への扉を開くことになると期待しています」と ASCOの膵臓がん専門家である公衆衛生学修士Kimmie Ng医師は述べている。

膵臓がんは、がん関連死の原因のトップである。生存率を向上させるための研究が数十年にわたって行なわれてきたにもかかわらず、その進展は限定的であり、現在、1次および2次化学療法後に増悪した膵臓がん患者に対してFDAが承認した治療オプションは存在しない。2022年2月15日のASCO総会(ASCO Plenary Series session)で発表された研究によると、ソトラシブはKRASG12C変異のある転移を有する膵臓がん患者において有効であり、忍容性も良好であるという。

ソトラシブは不可逆なKRASG12C阻害剤であり、がん細胞の増殖に必要な特定の酵素を阻害することでがん細胞を死滅させると考えられている。KRASG12C変異を有する肺がんに対しては有効であることがすでに認められ、治療薬としてFDAの承認も得ている。

転移を有する膵臓がんの約1~2%にKRASG12C変異がある。このタイプの膵臓がんに対する治療の選択肢は限られており、ほとんどの場合、細胞毒性のある化学療法剤の併用療法が行なわれる。しかし、1次、2次治療の後に増悪した場合、その後の生存率を向上させる治療法はない。研究者によると、新たに転移を有する膵臓がんと診断された患者の予測生存期間は6-12カ月であり、1次、2次治療の後でがんが増悪すると、生存期間は6カ月未満であることが多い。

CodeBreaK100は、KRASG12C変異を有する進行固形がん患者を対象に、ソトラシブの有効性と安全性を評価する国際共同単群第1/2相試験である。本試験には、少なくとも1回の全身療法を受けたことのある患者、そして利用可能な従来の治療法に適応や忍容性のない患者が対象として含まれている。主要評価項目は客観的奏効率(ORR)、副次評価項目は、奏効期間(DoR)、病勢コントロール率(DCR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)である。

試験ではステージIVの膵臓がん患者38人にソトラシブが1日1回投与された。ほとんどの患者(79%)が事前に2ライン以上の治療を受けていた。治療期間の中央値は4.1カ月、追跡期間の中央値は16.8カ月で、8人(21.1%)の患者に部分奏効が確認された。病性コントロール率 (DCR)は84.2%、PFSの中央値は3.98カ月、OSの中央値は6.87カ月であった。

ソトラシブの忍容性は良好で、致命的な有害事象や治療中止に至った治療関連事象はなかった。

「治療選択肢が限られ、医療ニーズが満たされていない膵臓がん患者にとって、これは有望なデータです」と筆頭著者であるデューク大学メディカルセンター腫瘍内科医のJohn H. Strickler氏は述べている。

翻訳担当者 岩佐薫子

監修 泉谷昌志(消化器がん、がん生物学/東京大学医学部附属病院 消化器内科)

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