新たなCAR-T細胞は神経芽腫や固形がんに有望

マウスの神経芽腫瘍を消滅させるペプチド中心キメラ抗原受容体(PC-CAR)細胞が作製された。来年には臨床試験を実施できるかもしれない。

「次のステップは、PHOX2B PC-CARの臨床試験を2022年の後半には実行に移して、神経芽腫に対するPC-CARをさらに開発すること、また他の重要な小児がんにおけるPC-CARによる治療標的を発見することです」と、フィラデルフィア小児病院のJohn Maris医師はロイター ヘルスに電子メールで回答した。

PHOX2Bは、神経芽腫の依存遺伝子および転写調節因子であり、同病院で同定され、機能が解明されている。

現在、このアプローチはヒトへの臨床試験の準備が整っているが、「約100人の患者向けに臨床で使用可能な水準のPC-CARを作製する必要があり、それには約1年かかります。細胞の製造は高価で時間のかかる工程なのです」とMaris 医師は語る。

Nature誌に掲載されているように、Maris医師らは、神経芽腫細胞からMHC分子を分離して、神経芽腫に特有なペプチドを特定した。同氏らは、腫瘍に不可欠な遺伝子由来ペプチドのうち、免疫系に関与する可能性があるペプチドを優先的に選択した。

その結果、QYNPIRTTFと呼ばれる、PHOX2Bに由来する未変異の腫瘍特異的ペプチドを突き止めた。その後、QYNPIRTTFを標的とするPC-CARを作製して、これらPC-CARがさまざまなHLA型に発現するペプチドも認識できることを計算モデルにより示した。つまり、この治療法は、多様な遺伝系統の患者に適用できることを意味する。

その後、このPC-CARをマウスで実験したところ、神経芽腫瘍が完全に退縮した。

著者らは、「これらのデータが示唆するとおり、ペプチド中心CARは、免疫治療標的を大幅に拡大して非免疫原性細胞内がんタンパクまで含むようになり、従来のHLAによる制約を打破して、こうしたCAR-T療法で利益が得られる患者集団が増加する可能性がある」と述べている。

Crystal Mackall医師(スタンフォード大学スタンフォードがん細胞治療センター長、パーカーがん免疫療法研究所所長)は、本研究についてロイター ヘルスに電子メールで次のようにコメントした。

「本アプローチは非常に斬新で、今回発表されたデータは、がんにおいて過剰発現するが細胞膜上には表在しない非変異分子も、CAR-T細胞は標的とすることができるという概念を実証しています。

これら新たなPC-CARにおいては、従来の主要組織適合複合体(MHC)の制限を受けないようですが、完全にMHC拘束性から自由なわけでもありません。MHC分子がどの程度奏効に寄与して、PC-CARの利益を受ける集団の拡大につながっているのかをより深く理解するには、さらに研究が必要です。

本研究ではPC-CARががん特異的に作用する根拠が得られましたが、人工T細胞受容体で腫瘍関連ペプチドを標的とするいくつかの試験で、毒性の問題が過去に発生していることを考えると、交差反応による毒性の可能性を注意深く監視する必要があります。

今回の研究は、斬新性と、がん免疫療法の標的対象を拡大できる潜在的な可能性がきわめて興味深いものです。しかし、斬新であるということは、十分解明がなされていないということです。このプラットフォームを用いてさらに研究を重ねて、安全で効果的な免疫療法としての信頼性が高まることを期待しています」。

ウィスコンシン大学マディソン校Paul Sondel医師(小児血液・腫瘍・骨髄移植部門研究部長、UWCCCがん免疫学・免疫療法ワーキング グループ共同責任者)は電子メールで次のようにコメントしている。

「このアプローチ、ならびに今回示された詳細な事例は、T細胞に注入できる受容体をあらゆるがん患者から作製することができ、正常細胞を損傷することなく自分のがん細胞を特異的に認識して破壊する能力をもたせることが可能であると示唆しています。

この斬新で独創的な戦略は、もし他の固形がんに汎用化できれば(合理的だと考えられるが)、HLA分子がわずかに発現している、事実上あらゆるタイプのがん細胞を特異的に認識して破壊する能力を備えたがん反応性免疫細胞の作製につながる、有望な道筋を示しています。

まず重要なのは安全性、続いて有効性についての研究が必要です。生体内での有効性を得るには、この新規のPC-CAR-T細胞を別の免疫調節療法と併用し、生体外で強力にがん細胞を死滅させるCAR-T細胞が、生体内でも固形がんに効果を発揮する能力を引き出す必要があるでしょう。

こうした次のステップが不可欠ではありますが、将来のがん治療に影響を与える可能性を示唆している点が、この新研究の強みです」。

出典: https://go.nature.com/3EVZpqX  Nature誌オンライン版2021年11月3日

*サイト注:参考動画「CAR-T細胞を作れ!がん免疫治療を加速化(米国国立がん研究所)

翻訳担当者 佐藤美奈子

監修 田中謙太郎(呼吸器内科、腫瘍内科、免疫/九州大学病院 呼吸器科)

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