研究ハイライト2021/10/20:慢性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、濾胞性リンパ腫、大腸がん、早期子宮頸がん

白血病治療、治療反応の予測因子、検診率の差、子宮頸がん治療後の妊娠に関する新たな知見

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトでは、MDアンダーソンの専門家によって先頃発表された基礎研究、トランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)、臨床がん研究の一端を紹介する。最新の研究成果として、慢性リンパ性白血病(CLL)および急性骨髄性白血病(AML)に対する新たな標的療法、濾胞性リンパ腫治療後の生存予測、チェックポイント阻害薬に対する急性骨髄性白血病の反応についての理解、大腸がん検診にみられる差、早期子宮頸がん手術後の妊娠可能性が挙げられる。

微小残存病変陰性の慢性リンパ性白血病患者に対する標的薬併用投与中止の可能性

イブルチニブ(販売名:イムブルビカ)+ベネトクラクス(販売名:ベネクレクスタ)の併用投与により慢性リンパ性白血病(CLL)患者の転帰が改善することが確認された。イブルチニブなどのBTK阻害薬は投与を継続すれば良好な病勢コントロールを維持できる一方で、一定期間の投与により効果が得られる治療法が求められている。第2相CAPTIVATE試験がWilliam Wierda医学博士主導のもと行われ、慢性リンパ性白血病患者を対象に一次治療(イブルチニブ+ベネトクラクスの併用投与)を一定期間行った後に、微小残存病変(MRD)に基づき投与を中止した症例を評価した。微小残存病変の陰性化が確認できた患者をイブルチニブまたはプラセボのいずれかの単剤群に無作為に割り付け、投与を継続したところ、1年後の無病生存率に群間差がみられなかった(両群とも95%)ことが報告された。この結果は、この治療方法に従い一定期間投与を行えば、投与中止後も長期にわたり臨床的意義のある寛解が得られる可能性があることを示している。詳細についてはJournal of Clinical Oncology誌を参照。

RUNX1変異型急性骨髄性白血病に併用療法が有望

RUNX1遺伝子に変異がある急性骨髄性白血病(AML)患者は、野生型のRUNX1遺伝子をもつ患者よりも予後不良であることが多い。Kapil Bhalla医師主導で行われた培養による機序試験では、変異型RUNX1を発現するAML細胞が野生型よりも、タンパク質合成阻害薬であるオマセタキシン(販売名:SYNRIBO)およびBCL2阻害薬であるベネトクラクス(販売名:ベネクレクスタ)に高い感受性を示した。そこで、Bhallaらは、オマセタキシンにベネトクラクスまたはBET阻害薬(Bromodomain inhibitor)を組み合わせる併用療法について検討した。その結果、単剤療法と比べて併用療法ではin vivoにて相乗的な抗AML効果がみられ、動物実験モデルにおいて生存率の改善が得られた。以上の知見から、オマセタキシンを含む併用療法がRUNX1変異のある急性骨髄性白血病患者に有効である可能性が示唆される。詳細についてはBlood誌を参照。

病勢進行を濾胞性リンパ腫患者生存の臨床的予測因子として検証

初回治療の化学免疫療法を開始後24カ月以内に病勢進行を認める濾胞性リンパ腫(FL)患者は転帰が芳しくないことが、これまでの試験や研究で示唆されている。Christopher Flowers医師らは濾胞性リンパ腫患者を対象としたランダム化臨床試験13件の統合解析を行い、化学免疫療法開始から24カ月後の病勢進行(POD24)を検証し、臨床成績に照らして解析した。その結果、化学免疫療法開始後にPOD24を呈した患者では全生存期間の改善がみられないことがわかり、また、病勢進行が、β2-マイクログロブリンの高値や濾胞性リンパ腫国際予後指標(Follicular Lymphoma International Prognostic Index:FLIPI)での高リスクのような臨床的予測因子として特定された。今後の予後予測モデルは、患者転帰をさらに正確に予測するためにPOD24に対し臨床的および分子レベルの予測因子を取り入れることが必要であり、今回得られた知見がそのモデルの構築に役立つと考えられる。詳細についてはBlood誌を参照。

PD-1阻害薬に対する急性骨髄性白血病患者の反応についての理解

急性骨髄性白血病(AML)患者は、チェックポイント阻害薬による治療に対し十分反応しない(中等度)ことが多い。Hussein Abbas医学博士、Andy Futreal博士、Naval Daver医師主導のもと、研究チームは、治療に対する反応または抵抗性を予測するバイオマーカーを特定できるかを検証した。方法として、アザシチジンとPD-1阻害薬の併用治療に反応を示した後に再発した急性骨髄性白血病患者、および同治療に反応しなかった急性骨髄性白血病患者から骨髄細胞を採取し、シングルセルRNA解析とTCRプロファイリングを同時に実施した。その結果、急性骨髄性白血病に関連するT細胞のサブセットが、PD-1阻害薬での治療後に患者間で極めて不均一になっていることが明らかになった。T細胞のレパトアが、病態が安定しているまたは治療に反応した患者では拡大し、治療に抵抗性を示した患者では縮小していたのである。ここで得られた知見は、適応T細胞の可塑性がPD-1阻害薬での治療に対する急性骨髄性白血病患者の反応に影響を与えることを示しており、急性骨髄性白血病を標的とした新たな免疫療法の戦略開発に役立つことが考えられる。詳細についてはNature Communications誌を参照。

都市部に在住しない女性は大腸がん検診率が低い傾向

がん検診は生存率の向上につながることが示される一方、集団背景による死亡率の差は埋まっていない。調査によると、都市部に比べて、定期検診で予防できるがん種に罹患する割合が高い地方の集団では、がんによる死亡率が依然高いことがわかっている。この調査では、Cancer Center Catchment Areas InitiativeにおけるNCI(米国国立がん研究所)Population Health AssessmentにてRural Workgroupに属するSanjay Shete博士らが、米国の11州に住む女性2,897人について乳がんおよび大腸がんの検診率を分析した。その結果、大腸がん検診に関する指針を遵守し最新の検診を受けていた女性は都市部では82%、地方では78%であり、両者に有意差がみられた。その一方で、最新の乳がん検診については両集団とも同程度(81%)であった。この知見から、公衆衛生的介入することで改善できる可能性がある。詳細についてはJAMA Network Open誌を参照。

妊孕性温存手術後の早期子宮頸がん患者に初回妊娠早産の高い可能性

子宮頸がん患者の大半が生殖可能年齢に診断を受けるため、妊孕性を温存できる治療法を求める早期がん女性の数は増加している。外科的選択肢として子宮頸部円錐切除術、ループ式電気円錐切除法(LEEP)、子宮頸部切除術といった術式が特定の患者で広く施行されているものの、妊娠を望む患者は半数に満たないことから、産科的リスクは十分に検討されていない。Alejandro Rauh-Hain医師と研究チームは、地域住民を対象とした試験で、早期子宮頸がん患者について、妊孕性温存手術後の初回妊娠の有無を評価した。その結果、子宮頸がんに対し子宮頸部円錐切除術またはループ式電気円錐切除法の施行後3カ月以上を経て妊娠した女性で、早産および新生児罹病の発生率が2倍にのぼることが明らかになった。ただし、子宮頸がんに対する妊孕性温存手術後の妊娠で、妊娠32週以前の早産、死産、帝王切開、胎児の発育不全、母体の重度罹患の割合が増加することはなかった。詳細についてはObstetrics & Gynecology誌を参照。

翻訳担当者 伊藤美奈子

監修 佐々木裕哉(白血病/MDアンダーソンがんセンター)

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