tebentafuspは転移ぶどう膜メラノーマの全生存期間を有意に延長

免疫チェックポイント阻害薬を含む既存の標準治療と比較して、二重特異性融合タンパク質tebentafusp(テベンタフスプ)を用いた治療では転移性ぶどう膜メラノーマ(悪性黒色腫)患者の死亡リスクがほぼ半減したことが第3相臨床試験結果で示された。本知見は、4月10日~15日に開催されたAACRバーチャル年次総会2021第1週に発表された。

Jessica Hassel医学博士(ハイデルベルグ大学病院皮膚科皮膚腫瘍学准教授、国立腫瘍疾患センター皮膚腫瘍学部門長、ドイツ)は、「ぶどう膜メラノーマは全体的にはまれな疾患であるが、成人の目のがんでは最も多く、メラノーマ全体の約3~5%を占めている」と述べている。「ぶどう膜メラノーマの予後は、転移後の生存期間中央値が1年未満ときわめて悪く、現在、この侵襲性の強いがんに対する標準治療法はない」。

テベンタフスプは、2つの標的を認識する二重特異性融合タンパク質であり、一つの標的はメラノーマ細胞に、もう一つの標的はT細胞に存在する。

「テベンタフスプは、腫瘍と免疫細胞との間に橋をかけ、免疫細胞が腫瘍を攻撃できるようにする」とHassel氏は説明している。テベンタフスプの片方の端が、メラノーマ細胞に発現するgp100タンパク質の一部を認識する。

この認識は、高親和性T細胞受容体(TCR)結合ドメイン全体で起こり、HLA-A*02:01と呼ばれる特異的なHLA(ヒト白血球抗原)型を用いて腫瘍細胞が提示するgp100抗原を標的とする。

Hassel氏の説明によれば、テベンタフスプのもう一方の端は、結合したT細胞を活性化し、gp100発現メラノーマ細胞を攻撃するよう仕向ける。

TCR結合ドメインは、HLA-A*02:01に存在する特異的なgp100由来ペプチドのみを認識するため、テベンタフスプは、このHLA型の患者の治療に限り使用することができるとHassel氏は述べている。

HLA型は、ぶどう膜メラノーマ罹患が最も多い白人によくみられ、白人の約50%がこのHLA型を発現しているという。

Hassel氏らは、治療歴のないHLA-A*02:01陽性の転移性ぶどう膜メラノーマ患者378人を対象に、一次治療として、テベンタフスプと試験担当医師が選択した治療とを比較した。

患者を2:1の割合で、テベンタフスプを投与する群(252人)と、試験責任医師が選択した薬剤を投与する群に割り付けた。後者の群で投与された薬剤は、チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ、103人)、イピリムマブ(販売名:ヤーボイ、16人)、化学療法薬ダカルバジン(7人)であった。

主要評価項目は、ランダム化2群間の全生存期間(OS)であった。

追跡期間中央値14.1カ月後、テベンタフスプ投与群の患者では死亡リスクが、試験担当医師による選択治療群の患者と比較してほぼ半減した。

さらに、1年後の推定全生存率は、テベンタフスプ群で73.2%であったのに対し、試験担当医師による選択治療群では58.5%であった。

無増悪生存期間には統計学的に有意な群間差(HR: 0.73)が認められたが、全生存期間と比較するとはるかに小さかった。

RECIST基準に基づく奏効率は、テベンタフスプ群では9%(完全奏効1人、部分奏効22人)、試験責任医師選択治療群では5%であった。

12週間後に腫瘍の大きさに変化が認められない(安定)患者を含めた病勢コントロール率はそれぞれ、46%、27%であった。

部分奏効、安定のいずれにも該当せず、増悪がみられる患者は「増悪の最良効果」と呼ばれるが、一般に治療による効果が望めないと考えられている。

「しかし、驚いたことに、『増悪の最良効果』を示した患者に限定した画期的なDay 100 解析では、依然として、テベンタフスプ群の方が、試験担当医師による選択治療群よりも全生存期間が長かった」とHassel氏は述べている。

免疫チェックポイント阻害薬は転移性ぶどう膜メラノーマに広く用いられているが、皮膚メラノーマとは対照的に、効果はきわめて低い。

この違いは、一つには、ぶどう膜メラノーマが、腫瘍遺伝子変異量が少ないがんに属しており、変異量が少ないためにT細胞認識機能が損なわれることがあるという事実から説明がつくのではないかとHassel氏は述べている。

「テベンタフスプは、gp100を発現する細胞を標的とするようにT細胞を仕向け、それによってgp100を発現するぶどう膜メラノーマに対する免疫応答を活性化する機会を得る」。

テベンタフスプ治療に伴う有害事象は予測可能かつ管理可能であり、治療中止率は、テベンタフスプ群の方が試験担当医師の選択治療群よりも低かった(2%対4.5%)とHassel氏は述べている。

「現在、ぶどう膜メラノーマに対する標準治療がないため、テベンタフスプはぶどう膜メラノーマ患者にとって実地医療に変化をもたらす治療になる可能性がある」とHassel氏は述べている。

テベンタフスプの大きな限界は特異的なHLA型を有する患者にしか使用できないことだという。
「この特定の表面タンパク質を持たない患者のニーズは未だ満たされていない」。

This study was sponsored by Immunocore.
Hassel is a consultant for Pierre Fabre, Sanofi, Sun Pharma, Merck Sharp & Dohme Corp., Immunocore, Bristol Myers Squibb, and Novartis.
She has received payment for talks from Bristol Myers Squibb, Merck Sharp & Dohme Corp., Roche, Novartis, Pfizer, Sanofi, and Almirall.
Hassel has received research funding from Bristol Myers Squibb, Immunocore, Roche, Novartis, BioNTech, Regeneron, Merck, Genentech, 4SC, and Philogen.

翻訳担当者 渡邉純子

監修 中村泰大(皮膚悪性腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター 皮膚腫瘍科・皮膚科)

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