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進行胆道がん治療の「大きな一歩」

医学研究がただ一つの結論に至ることはほとんどない。最終的な答えや決定的な解決がないこともよくあり、科学は進化し続け、それに伴ってやるべきこと、理解すべきこと、調査すべきことが増え続けている。

しかし、時として、蓄積された知見が実際に医療行為を変えてしまうような転換点を迎えることがある。

胆道がん治療の方法を変えてしまうような臨床試験の結果を、キャンサーリサーチUKの研究者チームが10年前に発表した。The Advanced Biliary tract Cancer (ABC)-02試験はこの種の臨床試験として最大規模のものであり、ゲムシタビンとシスプラチンの新しい併用療法がゲムシタビン単剤療法に比べて生存期間を向上させることが示された。

このゲムシタビンとシスプラチンとによる併用化学療法は、胆道がん患者での一次治療として、今日まで世界中で行われている。しかし、最初の臨床試験結果の発表から10年を経て、ABC-06という追跡研究では、この一次治療の恩恵を得られなくなった進行胆道がん患者に対する化学療法選択肢を探すために、研究をさらに推し進めている。

そして再び、最新の臨床試験結果が治療方法に変化をもたらし、進行胆道がん患者に対して広く受け入れられる新しい標準治療が提供されることとなった。

The Lancet Oncology誌に掲載された最新論文の筆頭著者であるAngela Lamarca医師とJuan W Valle教授に、胆道がんを専門とする研究者らが目指す次のステップと患者に対するその影響について聞いた。

進行胆道がんに対する選択肢

「胆道がんはたいへんまれであり、ABC-02試験の発表以後、治療方法を変えるような新しい化学療法選択肢が全体的に不足していたことが長年の課題でした」と、Lamarca医師は述べる。

しかし、それも変わりつつある。

 胆道がんとは?

胆道がんには、胆管がん、胆嚢がん、十二指腸乳頭部がんが含まれる。これらのタイプのがんはきわめてまれであり、英国における毎年の新たな症例数は、胆嚢がんが約1,100件、胆管がんが約1,200件である。

「現在、胆道がんの研究は非常に盛んで、その多くが精密医療と新しい標的治療に焦点を当てています」。精密医療に焦点が当てられるのは、がんに特定の突然変異がある患者の中に、新しい治療法でうまく治療できる患者が一定の割合で存在することを研究者らが発見したためであると、Lamarca医師は説明する。

精密医療は非常に希望が持てる方法だが、誰にでも使えるわけではなく、「現実には、精密医療は胆道がんと診断された患者のごく一部にしか使えないことが問題です」。

英国が主導する進行胆道がんワーキンググループのチームは、異なる手法をとるために(Valle教授が主導する)ABC-06試験を企画した。この試験では、化学療法による一次治療にもかかわらずがんが進行しており、新しい治療選択肢をぜひとも必要とする患者に焦点を当てている。

そこで、Valle教授らは、FOLFOXとして知られる既存の化学療法がこのグループの患者に対する有効な治療選択肢となりうるかどうかを確認することに着手した。

「FOLFOXは非常によく知られた併用化学療法であり、長年にわたりがん治療に使われてきました。私たちは、このような状況(化学療法による一次治療にもかかわらず進行した胆道がん)においてこの治療法が有効かどうかまったく知らなかったのです」と、Valle教授は言う。

しかし、キャンサーリサーチUKとStand Up To Cancerから一部資金提供を受けたABC-06試験により知見が得られた。試験結果によれば、二次化学療法がこのグループの患者に有益であることを示唆するエビデンスが得られた。

臨床試験はどのように行われたのか?

臨床試験に必要な症例数を集めるために、研究チームは全英20施設からデータを集めた。ゲムシタビンとシスプラチンによる治療を受けたにもかかわらずがんが増殖した162人の患者が試験に参加した。

「私たちは162人の患者を対象とし、81人ずつを2つの群に割り付けました」と、Lamarca医師は説明する。一方のグループはFOLFOX治療を受け、他方のグループは、試験実施時の英国における既治療患者に対する標準治療を受けた。これは、積極的症状緩和として知られている(化学療法は行わない)。

積極的症状緩和群は化学療法を受けなかったが、何の治療も受けなかったわけではないと、Lamarca医師は述べる。「私たちは毎月検診を行い、患者は全員、具合が良かったとしても来院しました。そうすることで、私たちは、がん関連の合併症を早期に発見し、積極的にそれらを管理することができました」。

この試験では、両群の患者が合計12カ月間にわたり追跡調査された。そして、患者登録から5年後に結果が判明した。

結果を詳しく見る

「結果の解釈はとても複雑です。しかし、着目すべき主な知見は、FOLFOXを使うことで全生存期間が改善したことです」と、Valle教授は述べる。

結果の解析が難しいのは、積極的症状緩和法を受けた患者の平均全生存期間が5.3カ月であったのに対して、FOLFOX治療も受けた患者では6.2カ月であったためである、とValle教授は説明する。

この差は大きくないようにみえるが、FOLFOX群では治療開始1年後の生存者数が2倍であった。

FOLFOX投与を受けた患者の半数以上(51%)が6カ月の追跡調査時に生存していたのに対して、積極的症状緩和法だけを受けた患者では36%が生存していた。そして1年後の追跡調査時点では、FOLFOX群の26%が生存していたのに対し、対照群では11%が生存していた。

全生存率の中央値(平均値)だけに注目するのではなく、長期にわたる全生存率にも着目することを忘れてはならないと、Lamarca医師は述べる。

「これらの結果は、化学療法(FOLFOX)群の一部の患者が、積極的症状緩和法を受ける対照群の患者に比べて長期的に治療の恩恵を受けることができ、6か月後および12カ月後でも生存している可能性のあることを示しています」。

Lamarca医師らにとっての次の課題は、一部の患者は化学療法に非常によく反応するのに対してそうでない患者もいることの正確な理由を解明することである。

大きな一歩

Lamarca医師は、今回の結果とそれが進行胆道がん患者の実際の生活に与える影響について楽観的である。「FOLFOXは、いくつかのガイドラインが『可能性』として言及しているにもかかわらず、真に強力なエビデンスがない治療でしたが、ABC-06試験で得られた高いレベルのエビデンスにより、世界的に認められた標準治療へと変わりました。そして今や、二次治療の最も信頼のおける選択肢と考えられています」。

しかし、希望が持てることは多くあるものの、Valle教授は、まだやるべきことは多くあり、「私たちはもっと良い化学療法の選択肢を探さねばなりません」と慎重な姿勢を崩さない。

今回の結果により、腫瘍医は、以前にはわかっていなかった事実や数字を用いて、十分な情報に基づき患者と会話できるようになったが、FOLFOXによる二次治療を受けるかどうかは最終的には患者が決める、とValle教授は付け加える。

「毒性があることや、追加の通院が必要であることを理由に、治療を受けたくないという患者もまだいるでしょう。全生存期間の改善効果が限られているため、この治療は自分には向かないと言う患者もいるかもしれません」と、Lamarca医師は言う。

「しかし、少なくとも今は、患者の意思決定を支援するための情報が揃っています」。

ABC-06試験で得られた結果は、FOLFOXがすべての患者に対する正解ではないが、進歩であることを証明している。

「これは一歩前進に過ぎないかもしれません。進行胆道がん患者が化学療法から受ける恩恵をもっと改善しなければなりませんが、正しい方向への重要な一歩であることに変わりはありません」と、Lamarca医師は話を締めくくった。

翻訳伊藤彰

監修加藤恭郎(緩和医療、消化器外科、栄養管理、医療用手袋アレルギー/天理よろづ相談所病院 緩和ケア科)

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