子宮漿液性がんにアダボセルチブが高い奏効率を達成

腫瘍細胞のDNAに劇的な損傷を与える標的薬に関して、難治性の子宮がん患者を対象とする初めての臨床試験が行われ、約3分の1の患者の腫瘍が縮小したと、ダナファーバーがん研究所の研究者らが報告した。

2021年3月11日にJournal of Clinical Oncology誌に掲載された第2相試験の結果から、子宮がん全体に占める割合は約10%にとどまるものの、その死亡率は全体の40%にまで及ぶ子宮漿液性がん(USC)において、WEE1キナーゼを標的とする治療が強力かつ持続的な効果を示すことが明らかになった。

本試験には、プラチナ製剤を含む化学療法の治療歴がある35人の患者が参加した。参加者は、試験薬のアダボセルチブ(adavosertib)を定期的に経口で服用した。中央値5.9カ月の追跡調査では、評価可能な34人の患者のうち、完全奏効の1人を含む10人に腫瘍の縮小が認められた(奏効率約30%)。奏効は持続し、奏効期間の中央値は9.0カ月で、患者の47.1%は6カ月時点で無増悪のままだった。

「アダボセルチブは、この患者群において単剤で優れた効果を示しました」と、本研究の筆頭著者であるダナファーバーがん研究所のJoyce Liu医師・公衆衛生学修士は言う。「子宮漿液性がんのように、現行治療では限られた効果しか得られない疾患にとっては特に有望な結果です」。

アダボセルチブは、ある種のがん細胞の絶え間ない増殖過程に固有の弱点を利用する。がん細胞が休むことなく増殖すると、複製ストレスと呼ばれる状態が生じ、DNAを効率的に複製する能力が大きく損なわれる。細胞周期、すなわち細胞が成長し、DNAを複製し、2つの娘細胞に分裂するという入念に設計された過程には、必要に応じて周期を停止し、DNAを検査し修復するためのチェックポイントが複数存在する。一部のがんでは、遺伝子の突然変異その他の問題によってチェックポイントが機能しなくなり、その結果、DNAの損傷が蓄積されたまま周期が進行してしまう。

子宮漿液性がんはこのようながんの一つである。90%以上の症例において、細胞が成長する第一段階とDNA複製段階の間にあるチェックポイントで重要な役割を果たすTP53遺伝子に突然変異その他の異常が認められる。TP53遺伝子が機能しないと、細胞は重大なDNA損傷を抱えたままDNA複製段階に突入する。

TP53が機能しない場合、細胞周期においてさらに先にあるG2/Mというチェックポイントに過大な負担がかかる。G2/Mは、細胞周期の最終チェックを行って、2つの娘細胞に分裂する「有糸分裂」への移行を管理する。G2/Mに関与するタンパク質の1つを阻害してG2/Mの機能を妨げれば、腫瘍細胞に、生き残ることができないほどの重大なDNA損傷を負わせることができる。

これが、G2/Mチェックポイント制御に関わるタンパク質であるWEE1を標的とするアダボセルチブの戦略である。本剤に関しては、これまでに乳がんや卵巣がんなど他のがんの患者を対象とする試験が行われてきたが、子宮漿液性がん患者を対象としたのは本試験が初めてである。

本治療における主な副作用は、貧血、下痢、吐き気、倦怠感であった。

米国において、子宮内膜がんは婦人科がんの中で最も多く、女性のがん死亡原因の第6位となっている。2020年のアメリカがん協会の報告によれば、子宮内膜がんは、1970年代以降、米国で生存率が改善されていない数少ないがんの一つである。

本研究は、AstraZeneca Externally Sponsored Researchプログラムを通じて、AstraZeneca社より試験薬の提供および臨床試験への支援を受けた。

翻訳担当者 奥山浩子

監修 東海林洋子(薬学博士)

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