化学療法を受けているがん患者のCOVID-19感染リスクは高くない可能性

パンデミック中のがん治療中断を最小限に抑えられる可能性を示す研究結果

化学療法を受けているがん患者は、積極的治療を受けていない患者と比較して、COVID-19感染リスクが高くなかった、と2月3日から5日に行われた米国がん学会(AACR)バーチャル会議「COVID-19とがん」において発表された。

「がん患者はCOVID-19感染リスクが高いとの懸念から、昨年のパンデミックの始まり以来、がん診療の現場は大きく変化しました」と、コロンビア大学バゲロス医科大学院およびニューヨーク・プレスビテリアン病院の内科レジデント3年目のMonica F. Chen医師は述べている。

パンデミックによって、外科手術は延期となり、治療レジメンは外来受診回数を最小限とするよう変更され、臨床試験への登録も減少してきている。そこで、Chen氏らは、人口統計学、臨床診療、がん種、治療に関連するどんな因子が、がん患者のCOVID-19発症に影響を及ぼすのかを明らかにしようとした。

「化学療法を含めた積極的がん治療中の患者のCOVID-19感染リスクは高くはなく、驚くことに、COVID-19感染陽性と判定される割合において、治療中の患者は、治療を受けていない患者よりも低いことがわかりました」とChen氏は述べている。

「COVID-19のパンデミック中は、臨床現場で適切な予防策を講じて、命を救うがん治療の中断を最小限に抑えるべきであると本研究は示しています」と同氏は加えた。
 
Chen氏と指導医のKatherine Crew医師らは、2020年3月1日から2020年6月6日までにニューヨーク・プレスビテリアン病院とコロンビア大学アービング医療センター(ニューヨーク市)でCOVID-19感染判定検査を受けたがん患者を対象に、後ろ向きコホート研究を行った。その結果、COVID-19検査を受けた患者1,174人のうち、317人(27%)が陽性であった。最近がんの診断を受けた患者が約27%、病勢進行期の患者が56.7%、過去1年以内に積極的がん治療を受けた患者が56.7%であった。

一般集団と同様に、がん患者においても高齢、少数人種・民族、肥満はCOVID-19と関連していたとChen氏は指摘している。ヒスパニック系以外の白人患者と比較して、黒人患者は2.2倍、ヒスパニック系患者は2.7倍、COVD-19陽性判定となる割合が高かった。

化学療法を受けているがん患者は、いかなる治療も受けていないがん患者と比較して、COVID-19感染の割合が35%低かった。化学療法を受けている患者は寛解期にある患者と比べて、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保、フェイスマスクの着用、手指の衛生管理に一層の注意を払っている傾向が高く、その結果、感染者数が少ないのではないか、とChen氏は推測している。「いずれにしても、化学療法を受けている患者のCOVID-19感染リスクが高くなかったことがわかり、安心しました」とChen氏は付け加えた。

先行研究と一致して、COVID-19陽性と判定されたがん患者の死亡率は陰性判定のがん患者よりも高かった。

本研究の限界としては、研究が後ろ向きのものであったことが含まれる。都市部の高度学術医療センター1施設のみで得られた結果は、他の母集団には一般化できない可能性がある。また、一般的COVID-19検査では、入院患者については全員対象として実施したが、外来患者は症状のある場合しか検査を実施していない為、選択バイアスが生じた可能性がある。この研究では併存疾患による調整をしていない。患者はCOVID-19診断後、最長6カ月間追跡したが、長期的影響はまだ不明である、とChen氏は述べている。

本研究は米国国立がん研究所の資金提供を受けた。Chen氏は利益相反はないと宣言している。

翻訳担当者 山本哲靖

監修 廣田 裕(呼吸器外科、腫瘍学/とみます外科プライマリーケアクリニック)

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