慢性骨髄性白血病の一部患者でのTKI投与中止は安全かつQOL向上に寄与

イマチニブ(販売名:グリベック)という薬剤は、かつては致死的血液腫瘍とみなされていた慢性骨髄性白血病(CML)を治療可能な疾患に変え、多くの患者はほぼ通常の寿命と等しく生きられるようになった。

CMLを治療するイマチニブとその関連薬はチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)と呼ばれる薬剤で、最近まで一生毎日服用しなければならないとされていた。服用により疲労、抑うつ、睡眠障害、下痢などの副作用が生じることがある。

2018年、2つの国際試験の結果に基づき、米国食品医薬品局(FDA)は、CMLに対するチロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブ(販売名:タシグナ)の推奨投与方法の更新を承認した。この更新によれば、ニロチニブ治療により寛解が3年以上続いているCML患者の一部は、安全に服用を中止することができる。ただし、腫瘍が再発していないかどうか綿密にモニタリングする必要がある。

今回、米国で行われた臨床研究の新たな結果から、ニロチニブに加えて、イマチニブおよび他の2種類のチロシンキナーゼ阻害薬についても上述の知見が確認された。また本研究は、チロシンキナーゼ阻害薬中止後に患者のQOLが改善することを初めて示した。研究対象患者の約3分の2が治療中止から3年後もCML寛解を維持しており、その多くは4年経過時点でも寛解を維持していた。治療に関連してよくみられる症状、特に疲労と下痢の改善を報告した患者が多数いた。

「CML患者は治療を中止すれば気持ちよく過ごすことができるだろうとわれわれは推測していましたが、それを裏付ける確かなデータが得られました」とKendra Sweet医師(モフィットがんセンター研究所)は述べる。同氏は本研究の治験担当医師ではないが、数名の患者を同研究に登録している。

「血中の白血病細胞数が非常に低い状態が2年以上続くという持続的な深い寛解状態にあるCML患者の場合、治療の中止は安全であり、医師は患者に(中止を試みるよう)勧めるべきです」と、本試験責任医師であるEhab Atallah医師(ウィスコンシン医科大学)は言う。

JAMA Oncology誌に11月12日に発表されたこの結果に基づいて、新たにCMLと診断された人々に対して、将来的には安全に薬の服用を完全にやめることも期待できると説明し、処方のとおり薬を毎日服用するよう促すことができるだろう、とSweet医師は述べている。

TKI中止後の生活

Life After Stoping TKIs(LAST:「TKI中止後の生活」の意)試験には、米国内14の大学医療センターおよびがんセンターからCML成人患者172人が登録された。参加者は、イマチニブ、ダサチニブ(販売名:スプリセル)、ニロチニブ、ボスチニブ(販売名:ボシュリフ)の4種類のTKIのいずれかでCMLが良好にコントロールされている患者であった。

この研究への参加要件として、患者はチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)を3年以上服用しており、分子遺伝子学的に深い奏効を2年以上維持していること、すなわち、CMLを引き起こす遺伝子変異のある細胞が血中にほとんどないことが検査で示される必要があった。

すべての参加者はTKI治療を中止し、研究者が3年以上経過観察を行った。患者に対して最初の6カ月間は月に1回、その後18カ月間は2カ月ごと、それ以降は3カ月ごとに血液検査を行ない再発の有無を調べた。

研究期間中の一定間隔で、疲労、抑うつ、下痢、睡眠障害、痛みなどの症状について報告するよう参加者に依頼した。

TKI治療を中止してから3年後、参加者の約66%(112人)は寛解を維持していた。治療を中止し続けた患者は治療中止後1年以内に、疲労、抑うつ、睡眠障害、下痢など、QOLに影響があるすべての症状に緩やかではあるが有意な改善がみられたと報告している。

多くの患者にとって、「日常生活の質が最も重要なことです」とSweet医師は述べる。

血液検査で疾患の再発が確認された患者についてはTKI治療を再開し、残りの研究期間中に経過観察を行った。治療を再開した患者全員が寛解に戻ったとAtallah医師は述べている。

9人の患者は寛解を維持していたにもかかわらず治療を再開した。これがこの研究で唯一「残念な」側面であるとSweet医師は言う。ほとんどの患者は、治療を中止することへの不安のため、あるいはTKI離脱症候群の一部である関節痛の一種を発症したためにTKI治療を再開していた。

「理由はわかりませんが、このような関節痛は(TKIを中止し続けた)患者の約30%に起こり、約6カ月で消失します」とAtallah医師は言う。

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分子遺伝子学的に深い奏効とは?

CML患者を治療する医師らが用いる定義によれば、分子遺伝子学的に深い奏効(MR4.0)とは、血中のBCR-ABLタンパクの値が治療開始前の1万分の1以下となることである。

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治療中止がうまくいく患者の予測

この研究では、患者から採取したの血液中の白血病細胞数を評価するために、2種類のFDA認可検査方法を用いた。1つは一般的に使用されている旧式の検査方法で、もう1つはまだ広く利用可能になっていない、感度が高く高価な新式の検査方法である。どちらの検査もポリメラーゼ連鎖反応(PCR)と呼ばれる技術を用いて、CMLの原因となる遺伝子変異、すなわち、2つの異なる遺伝子の融合であるBCR-ABLを検出する。

治療を中止した時点で両検査ともにBCR-ABLタンパクが検出されなかった患者は、寛解を維持する可能性がもっとも高く、治療を中止している3年間に疾患が再発する確率はわずか10%であることが判明した。対照的に、治療中止時に一方の検査で微量のBCR-ABLタンパクが検出され、他方の検査では検出されなかった患者においては、上記期間に疾患が再発する確率は50%~64%であった。

これらの「興味深い知見から(中略)、(分子遺伝子学的に)より深い奏効を示す患者ほど治療をうまく中止できる可能性が高いと言える」と、Theodore Braun医学博士とBrian Druker医師(オレゴン保健科学大学ナイトがん研究所)は、本研究の解説に記している。

しかし、デジタルPCRと呼ばれる高感度検査方法は「ごく一部の施設でしか実施できず、本研究は比較的小規模なものであったため」、今回の知見を検証し、より広範囲に適用可能とするためには、「さらに研究が必要である」とBraun医師とDruker医師は続けている。

CMLの治癒が最終目標

LAST試験の結果と、CML患者におけるTKI治療中止に関する最近の他試験の長期追跡調査の結果から、「寛解にある患者の大半は、特に3年間を乗り切れば、寛解を維持し続けるでしょう」とAtallah医師は述べている。

しかし、薬の服用をうまく中止でき、寛解を3年以上維持できるのは、CML患者の20%から25%程度にすぎず、これらの患者も密に経過を観察する必要があることには変わりがないとAtallah医師は言う。

「最終的にはCML患者の治癒が私たちの目標です」とAtallah医師は言う。治癒とは、理想として薬物治療を受けず疾患の徴候なく残りの人生を過ごすことを意味する。

LAST研究の共同研究者であるKathryn Flynn博士(ウィスコンシン医科大学)が主導した最近の研究の知見によれば、CML患者の大半は、治療をずっと続けることが治癒と同じであるとは考えていない。

Atallah医師によれば、日常生活の質に影響を及ぼす副作用に加えて、TKIを何年も服用し続けると腎臓、肺、肝臓に持続的な損傷を与える可能性がある。

また、健康保険に加入している患者であっても薬代が高額になることが多いため、経済的な悪影響も懸念される。

このような事情から、Atallah医師、Sweet医師、および米国内19の研究センターの研究員らは、H. Jean Khoury Cure CMLコンソーシアムを結成した。このコンソーシアムでは、患者の骨髄から白血病幹細胞を永久に除去する見込みのある薬剤の組み合わせなど、CMLに対する有望な新治療法を検証する予定である。

Atallah医師によると、TKI治療中止について残る重要課題は、治療をうまく中止できる患者とそうでない患者がいる理由、そして薬剤をうまく中止できる患者を早期に予測する方法を解明することである。一部の患者が安全にTKIを中止できる理由がわかれば、治療法の開発や改良にもつながる可能性があるとのことである。

翻訳担当者 山田登志子

監修 佐々木裕哉(白血病/MDアンダーソンがんセンター)

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