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新型コロナウイルスに対する抗体が再感染を防ぐ可能性

  • 2021年1月11日
  • 発信元:米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

 Norman E. Sharpless医師

米国で新型コロナウイルス感染症ワクチンが届き始めると同時に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と免疫に関するNCI主導の研究から興味深いタイムリーなデータがいくつか浮上した。NCIの研究者らと共同研究者は300万人以上の実環境データを使用して、新型コロナウイルス感染歴を有する人はその再感染に対してある程度の防御効果を有するであろうことを突き止めた。

本研究結果から、新型コロナウイルスの再感染が比較的まれである理由が説明され、その出現以来、多くの人々が期待していたことが現実のものだと確認できるであろう。

NCI新型コロナウイルス感染症を研究している理由を不思議に思う人もいるかもしれない。2020年に入って、米国連邦議会は新型コロナウイルスに対する免疫応答研究を目的とする緊急支出として、NCI3600万ドル(約316億円)を計上した。本プロジェクトは、NCIが連邦議会の要請を受けて取り組んでいる新型コロナウイルスに関する多くのプロジェクトの1つである。

私が参加したNCI研究チームは、Lynne Penberthy医師・公衆衛生学修士NCIサーベイランス研究プログラム副プログラム長)が主導した。ヘルスケア・データ解析企業2社(HealthVerity社とAetion社)と民間検査機関(Quest社とLabCorp社)と共同で、私たちは300万人以上の血清学的(抗体)検査結果を得たが、これは米国で実施された民間による新型コロナウイルス抗体検査の50%以上に相当した。こうした検査結果のほぼ12%が抗体陽性で、 残りのほとんどの結果は陰性であった(1%未満は不確定であった)。

研究チームは次に、各集団のうち後に新型コロナウイルスの核酸(PCR)検査で陽性(新規感染を示す可能性がある)結果を示した人の比率を調べた。最初の抗体検査から90日以上後に、抗体陰性の人には、抗体陽性の人の約10倍の割合で、感染歴(PCR検査陽性)があったことが分かった。

防御効果は強力で、有効な新型コロナウイルス感染症ワクチンによる防御に匹敵する。ただ、ワクチン接種による防御は自然感染と比較してはるかに安全である。この結果から、広く利用可能な検査法により抗体検査結果が陽性の人は新型コロナウイルスに対する強力な免疫能を有し、将来の感染リスクが低いことが示唆される。

公衆衛生への影響

こうしたデータは公衆衛生上重要なので、本研究は査読中ではあるが私たちはその結果をプレプリント・サーバー(medRxiv)に投稿した。私たちの目標は、公衆衛生機関などがこの情報を精査し、他の研究と組み合わせて、政策設定に利用するよう検討できるように、できるだけ迅速にこの情報を公開することである。

抗体検査結果が陽性であることは再感染リスクが比較的低い予測となるという知見は、重要な意味を持ち、現業職員の職場復帰、通学、およびその他の活動の決定に影響を与える可能性がある。

こうした結果は新型コロナウイルス感染症ワクチン供給量が限られているときに、その接種を受ける人の優先順位の決定に使用されることはあるだろうが、人にワクチン接種の要求を思い止まらせるものではない。

各人による血清検査結果の使用法を巡る政策提言は、米国疾病予防管理センター(CDC)や州の公衆衛生機関によってもたらされる。現在のところ抗体検査結果を用いて、各人の行動、勤務状態、またはワクチンの割当てを決定することをCDCは推奨していない

本研究結果の解釈において厄介な問題は、新型コロナウイルス感染から回復した人が最大3カ月間ウイルス由来物質(RNA)を排出し続ける可能性である。こうした回復者はPCR検査でウイルス陽性であり続けても、他の人にウイルスを感染させる危険性は低いと一般的に考えられている。

こうした懸念に対処するため、本研究では最初の抗体検査から 90日以上(最大120日)後の新規感染の科学的根拠に焦点を当て、PCR検査結果が陽性であることが持続的なRNAの排出ではなく、新規感染である可能性を最大限に重要視した。

集団レベルでの抗体検査は大規模集団の既感染率の調査に有用である(血清有病率調査)ことは、しばらく前から知られていた。しかし、抗体検査が特定の個人にとって有用かどうかは不明である。

つまり、人の抗体の状態は将来の感染リスクを予測できるのか。

また、利用可能な抗体検査はさまざまで、現在までに調べられた検査法の多くは、血清有病率調査のみに使用される研究用の検査法である。

そこで、もう1つの重要な問題は、Quest社やLabCorp社などの主要基準となる民間検査機関で使用される広く利用可能な検査法が、将来の感染リスクの評価に使用できるかどうかということである。本研究結果から、それが可能なことが示唆される。

実環境データを利用する

検出可能な抗体が感染症を防御するかどうか、またどの程度防御するかという問題に包括的に取り組むために、NCIは抗体の保有状況がわかっている大規模集団の感染率を監視する臨床試験を支援している。しかし、こうした「血清防御」試験は完了までに比較的長い時間を要し、明確な答えを得るのは数カ月先になるかもしれない。

そのため、私たちは本研究に実環境データの使用を決定した。実環境データを使用する手法は、臨床上の科学的根拠を提供するために慎重に策定された前向き試験ほど影響力や説得力があるものではない。しかし、(より多くの人を対象にできる)規模や(より迅速に完了できる)スピードなどの大きな利点がある。また臨床試験は通常、全集団を代表するとは限らない一部の人しか対象にしないが、この手法はより広範な集団の代表となる。

実環境データの使用により、民間検査機関、電子カルテ、および民間保険会社などの多くの情報源から収集した患者情報を集約・分析することで、臨床的疑問に対する解答の推測が可能になる。重要なことだが、実環境データは各人の健康情報のプライバシーを完全に保護し、「医療保険の携行と責任に関する法律」などの関連する患者プライバシー法に準拠する方法で使用される。

実環境データの使用は、研究結果を混乱させるバイアスの影響を受けることにもなる。

実例として、抗体検査が陽性であったことを知った人の中には、抗体陰性の人とは異なる行動をとる人がいたかもしれない。抗体陽性者は研究期間中に自分が防御されていると信じていた場合、社会的距離をとらない、または公共の場でマスクを着用しないといった、ウイルスに曝露する可能性を高める行動をとっていた可能性がある。こうした行動があったとすれば、本研究から推測される防御率は、実際のウイルス防御率を過小評価している可能性がある。

また、逆の方向に働いたバイアスの可能性もある。この問題の解決には、さらなる研究が必要である。

免疫はどのくらい持続するのか

これらのデータは興味深いとはいえ、本研究はいくつかの重要な疑問を残している。最も重要なことの1つは、免疫の持続期間である。

私たちは120日未満しか各人を追跡調査できなかった。またこれらの検査法で検出された抗体が直接防御しているのか、あるいは免疫の指標に過ぎないのかは分からない。 こうした疑問は、新型コロナウイルス感染症から回復したが、回復後に検出可能な抗体を有しない小規模集団にとって重要である。

とはいえ、これらのデータは他の研究結果と共に、新型コロナウイルスに感染することで再感染に対して強力な免疫能をもたらし、その免疫能は数カ月間以上持続することを示唆すると考えられる。また米国民全員が利用できる抗体検査により、大多数の患者で免疫能を確認できると私たちは確信する。

各人が感染後のリスクを適切に理解できるようにするために、NCIの研究者らは、米国連邦政府の他の機関(CDC、米国国立アレルギー感染症研究所など)ならびに、学術・産業界のパートナーと協力して、さらに研究を進めているが、こうした研究は今回の結果を基盤とすることになるだろう。

翻訳渡邊 岳

監修廣田 裕(呼吸器外科、腫瘍学/とみます外科プライマリーケアクリニック)

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