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がん患者が語る診療記録(カルテ)閲覧の重要性

  • 2020年12月14日
  • 発信元:米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

がん患者は診察の内容を要約した診察記録(カルテ)を電子媒体で閲覧できることが有益であると考えていることを、研究者らが明らかにした。腫瘍医やその他の医療提供者らは、患者が診療記録を閲覧することが重要であると認めているが、彼らの見解は患者の見解とは多少異なる傾向にあることが調査結果により明らかになった。

医師、看護師、およびその他医療提供者らは患者の電子カルテにメモを作成し、患者との会話など重要な情報を文書化している。このメモには、検査結果、診断、治療の選択肢も含まれる。

近年、患者がこれらのメモを閲覧できる病院や医療システムの数が増加した。このメモは患者も閲覧可能とした「オープンノート(Open Notes)」として知られる。また2021年4月から、新たな連邦規則によって患者による診療記録の閲覧が増加することが見込まれる。

新たなデータ分析として、臨床医と患者に対して行ったウェブ調査がある。調査の結果、患者に診療記録の閲覧を可能とすることが得策という見解を抱いた割合は、がん臨床医では70%であったのに対し、がん患者では98%にのぼった。 この知見は10月8日付のCancer Cell誌に報告された。

また患者は臨床医よりも、自分の診療記録を閲覧することで次の予約の準備がうまく整うなど大きな利点があると回答する可能性が高いことを、研究者らが明らかにした。

調査対象のがん患者ほぼ全員の賛成意見と、事前調査に参加した他の患者の見解には一貫性がみられると、ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターの研究責任者Liz Salmi氏の研究により明らかにされた。

「すべての患者が自分のメモを読むとは限りませんが、患者は自分のメモを読むという選択肢があることに好意的です」と、オープンノートプロジェクトの一員であるSalmi氏は研究チームの他のメンバー数名とともに述べた。

本プロジェクトは2010年にベズ・イスラエル・デアコネス・メディカルセンターおよびハーバード大学メディカルスクールの医療関係者らによって開始された。このプロジェクトでは、患者に診療記録を閲覧するよう促し、かつメモの共有に伴う患者、家族、および臨床医間のコミュニケーションにもらたす効果についての研究を行っている。

「一部の臨床医とがん患者の見解に相違があったことに驚きはありません」と、米国国立がん研究所(NCI)のがん対策・人口統計学部門にあるヘルスケアデリバリー研究プログラムのGurvaneet Randhawa氏(医学博士、公衆衛生学修士)は述べた。 彼は本研究には携わっていない。

「臨床医に患者とメモを共有するよう求めることは比較的新しい習慣であって、これまでの習慣とは逆行しています」と、Randhawa医師は述べた。「このため、患者とメモを共有することに消極的な臨床医が存在することが想定されます」と同氏は続けた。

一方、研究によると、患者の多くは、診療記録を見直すことができれば自身の治療への理解をさらに深めることができると考えている。

「多くの患者は診察に緊張し、悪い知らせを伝えられた時は特に、医者が特定の診察中に何を言ったのかを思い出すことが困難な場合があります。診察中にメモを取れなかったり怯んでいる患者にとって、診療記録は有意義なものと言えます」と、自身も脳腫瘍のサバイバーであるSalmi氏は述べた。

 がん患者とその臨床医に注目する

オープンノートのデータベースによると、米国にある250を超える医療機関では近年、患者との診療記録の共有を開始した。

メモを読んだ患者らは、自分の健康や病状への理解がさらに深まった、受診への準備が充実した、自分自身の管理が向上したと報告し、服薬順守状況が改善したようであった。

これまでの研究では、オープンノート導入後の患者と臨床医の全体的な反応の違いが示されていたが、がん患者とその臨床医の具体的な見解についてはほとんど知られていない。

実際今回分析を行ったきっかけの一つは、Salmi氏と同僚が専門家会議でオープンノートについて発表した際の腫瘍医らの反響であった。

「発表の際会議に参加した患者は、診療記録の多くを閲覧できることに非常に前向きな反応を示しましたが、腫瘍医らは団体としてさらに躊躇いを示しました」とSalmi氏は述べている。

「新たな研究にあたり、両者の反応のずれや、両者の見解の着地点がどこにあるのかをさらに調査したかったのです」と、彼女は続けた。

この問題を探索するために、臨床医と患者を対象とした2つのオンライン調査から得られたデータより分析を行った。ボストン、シアトル、ペンシルバニア州の農村部にある3つの医療制度で研究者らによって実施され、外来の専門医すべてにおよぶ臨床医の少なくとも4年分のメモが共有された。

分析は、腫瘍学の分野に携わる96人の臨床医(約50人の医師を含む)および約3,400人のがん患者からの回答を対象に実施した。

調査に参加した臨床医らは、調査前の1年間に少なくともメモを1つ作成しており、これを患者が閲覧した。患者の大半は65歳以上の高齢者で、白人、女性、高卒以上の学歴で、英語を主言語としていた。

臨床医の懸念に対応

分析に参加した患者のより多くが臨床医よりも、オープンノートには大きな利点があると考えている傾向にあった。例えば、メモが患者の受診の準備に役立つと少なからず認めていた臨床医は28%であったのに対し、オープンノートが受診の準備に重要であると考えていたがん患者は56%であった。

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診療記録の閲覧を拡大

21世紀治療法(The 21st Century Cures)の健康情報の閲覧に関する法律が2021年4月5日に施行される。この法律の目的は、スマートフォンのアプリなどを利用して患者が無料かつ便利に健康情報の閲覧をできるようにすることである。診療記録には以下の共有項目を必須とする。

・相談の記録

・退院要約

・病歴および身体検査所見について

・画像について

・検査報告について

・病理報告について

・手順書

・進捗記録

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調査の質問には、メモが一般向けの文章ではなく専門用語が含まれている可能性があるため、患者がメモの内容を理解しているかなど、臨床医の間で懸念されている事項も盛り込まれた。

しかし、メモを読んで混乱するだろうと回答した臨床医は44%であったのに対し、実際にメモを読み混乱したと回答したがん患者はわずか4%であった。

臨床医の間では患者がメモを理解していないと心配するのも無理はない、とRandhawa医師は述べた。「一つの解決策として、よりわかりやすい言葉でメモを書くことです。またはメモを理解しやすくなる電子ツールを患者に提供する必要があります」と続けた。

その他臨床医の間で共通している懸念として、メモを読んだ患者が回答に時間を要するような疑問を抱くことが挙げられる、とSalmi氏は述べた。しかし、この懸念は調査結果からは実証されなかった。がん患者のわずか23%が、過去12カ月にメモに記述されていることについて診察室に問合せしたことがあったと回答した。腫瘍内科医の89%はそのような問合せはあまりないと報告している(40%は一度も問合せを受けたことがなく、49%は月に1回の問合せを受けたか一度も受けなかった)。

より良いコミュニケーションの必要性

この新たな研究は、より良いコミュニケーション、病気の知識、およびがん患者とその介護者の支援に対する幅広いニーズの一端を担っている、とRandhawa医師は述べた。

「この研究は、がんと診断されたばかりで自分の病気に関する情報を十分に理解できていないか、病気を受け入れることができない患者にとっては、特に重要なことです」。

がんの診断とその治療は、「患者を怯ませることが多い」とRandhawa医師は続けた。「患者が自分の診療記録を閲覧できるようにすることでコミュニケーションの改善を図ることは有用ですが、それだけでは不十分です」と述べた。

さらに必要なことは、がんの治療を患者中心のものにすることであると続け、「患者の経時的に変化する治療の目標や要求を理解し、その内容をもとに治療計画を設計する必要があります」と述べた。

「そのためには、患者とがん医療チームとの間で良好なコミュニケーションの構築が必要で、患者の希望に基づいて治療プランを適応させる必要があります。また、これは患者と医療提供者の間で意思決定を共有する必要があることも意味します」と述べた。

オープンノートプロジェクトのこれまでの研究では、オープンノートが患者と臨床医の関係の強化に役立つことが示唆されている、とSalmi氏は述べた。「臨床医に対する患者の信頼を高めるような、何か透明性のあるものをみつけました」。

翻訳原 久美子

監修東 光久(総合診療、腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)

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