標的化した放射線照射は脊椎へのがん転移による痛みを軽減

背骨(脊椎)に転移したがんによる痛みは多くの患者にとって大きな問題である。高精度かつ高線量の放射線療法が、一部の患者において進行がんの脊椎転移による痛みを和らげる非常に効果的な方法となり得るかもしれないことが、新たな知見で示された。

この臨床試験では、脊椎転移に対して体幹部定位放射線治療(SBRT)と呼ばれる放射線治療を受けた患者の約1/3において最長6カ月まで痛みがなくなったのに対して、痛みを治療するために従来型の体外照射治療を受けた場合には、痛みがなくなった患者はわずかに約15%であったことが示された。

「これは、痛みの軽減というわかりやすい形で転移がんの患者を助ける方法の一つです」と、この臨床試験を主導し10月26日に2020年米国放射線腫瘍学会大会でその成果を発表したトロント大学サニーブルック保健科学センターのArjun Sahgal医師は語った。

この臨床試験には参加しなかったNCI放射線研究プログラムのJeffrey Buchsbaum医学博士は、これらの結果がすべての脊椎転移患者に当てはまるわけではないことに注意を促した。一方で、脊椎のがんの数が限られている特定の患者にとっては、「体幹部定位放射線治療は新しい標準治療です」とも述べた。

痛み多き場所

原発巣から拡散したがんは、多くの離れた部位で転移がんが発生することがある。多くのタイプのがんにおいて骨はよくみられる転移部位である。

残念なことに、いったん骨に定着したがんは増大するにしたがい周辺の細胞を破壊するため、破壊的な痛みを伴う。脊椎の骨に増大するがんがある人にとって、高用量の鎮痛薬を用いたとしても、「その痛みは打ち勝ちがたいものです」とSahgal医師は述べた。

医師たちは、転移したがんを縮小させてそれらが引き起こす痛みを軽減しようと放射線治療を試みるだろう。しかし、従来型の放射線治療では、ほとんどの脊椎転移患者で痛みを効果的にコントロールすることができない、とSahgal医師は説明する。これは、がんからほんの数ミリしか離れていないところにある脊髄自体を傷つけることがないように、放射線量を比較的低くしなければならないためだ。

近年、体幹部定位放射線治療はがんをより正確に狙い定めることができるようになったため、脊椎を含む部位にほんのわずかで小さい転移がん(少数転移がん)のある患者に広く使用されるようになってきた、とSahgal医師はつけ加えた。いくつかの研究では、それら少数の転移がうまく治療できれば、患者は何年も何十年も生存できる可能性があることが示された。

予後が良好であるという理由から、少数転移がんの患者の方が進行がんの患者よりも体幹部定位放射線治療による恩恵を受ける可能性が高いと考えられていたが、体幹部定位放射線治療は従来型の放射線治療に比べて高額であるとともに脊椎にある種のダメージを与える危険性が高い、とSahgal医師は説明した。

しかし、進行がんや脊椎転移がんの患者に対する緩和治療として従来型放射線治療には限界があることから、研究者たちは、余命が限られている患者にも体幹部定位放射線治療がより良い選択肢ではないかと考えるようになった。

放射線量の増強

先行試験では、脊椎転移がんが3カ所以下の患者の脊椎の痛みを和らげるのに体幹部定位放射線治療と従来型放射線治療とに違いは示されていなかった。

しかし、先行試験と今回の試験ではいくつかの重要な違いがあるとSahgal医師は説明した。先行試験では低線量の体幹部定位放射線治療を1回だけ行った。今回の試験では、転移がんを破壊(焼灼)するのに十分であると考えられる高線量を総線量とした。体幹部定位放射線治療は2回に分けて行われたが、この方法は分割法と呼ばれる。

実験室実験では、高線量だけでなく分割法自体も放射線のがん細胞殺傷効率を高める可能性が示唆されている、とSahgal医師は述べた。

今回の新しい試験では、緩和的放射線治療の効果が服用している鎮痛薬によって覆い隠されることを確実に防ぐために、それぞれの患者が痛みの緩和のために必要としている鎮痛薬の量を考慮に入れた痛みの評価方法も用いた。「これは、われわれが患者の転帰を本当に改善できるかどうかを示すたいへんしっかりした方法です」とSahgal医師は説明した。

今回の新しい研究には、脊椎の狭い領域に3カ所以下の転移がんがあり、それが痛みの唯一の原因である約200人が参加した。いずれの参加者も、骨折のリスクを高め痛みの評価を難しくする背骨の不安定性について判定可能な徴候は示していなかった。

半数の参加者に2回の体幹部定位放射線治療で合計24Gy(Gy:放射線量の標準的な単位であるグレイ[Gray]の略)の放射線を照射した。残りの半数には、5回に分けて20Gy(従来型放射線治療で安全と考えられる最大線量)の標準放射線を照射した。

痛みの緩和が倍に

治療の3カ月後において、脊椎の痛みがなくなったと報告した人は、体幹部定位放射線治療を受けたグループでは35%であったのに対して、従来型の放射線治療を受けたグループでは14%であった。

この効果は長続きした。治療後6カ月の時点でも痛みがなかったのは、体幹部定位放射線治療を受けたグループでは32%であったのに対して、従来型の放射線治療を受けたグループでは16%であった。

「これは患者にとって大きな利益です」とSahgal医師は語った。「痛みの軽減がより長期間続いたのです」。

両グループにおいて、治療6カ月後の脊椎不安定性の測定値はほぼ同じであった。圧迫骨折のリスクも両グループで同じであり、重度の骨折のリスクも最小限であったと研究者たちは報告した。照射線治療による脊髄のダメージも報告されなかった。

さらに限界を超えて

「高線量の方が良いのは驚くことではありませんが、その高線量を安全に照射できるようになったのは、最新の体幹部定位放射線治療技術のおかげです」とBuchsbaum医師は述べた。「要するに、注意深く患者を選び高線量を照射することで期待通りの結果が得られたということです」。

「今後、臨床医はすべての脊髄転移患者にではなく、脊髄転移が限られている患者にこの治療を施すことが重要です」と付け加えた。

「この治療法は、(残念ながら大部分の患者がそうですが脊椎の)いたるところに痛みがある患者には適しません」とSahgal医師も同意する。「しかし、転移が脊椎のある領域に限定され、その位置にピンポイントの痛みがあるような患者は、まさにこの治療の恩恵を受けるでしょう」。

Sahgal医師のグループは、脊椎体幹部定位放射線治療の限界を広げていくことで、脊椎への転移数が限られている患者をより多く救えないか試験したいと考えている。彼らは、28Gyを2回に分けて照射する方法と、「超高線量」である24Gyを1回だけ照射する方法を試して、いずれかの方法が今回の臨床試験で見られた安全性のレベルを保ちつつ、より多くの患者の痛みを緩和できないかどうかを確認したいと考えている。

体幹部定位放射線治療により、例えば腕や肋骨といった脊椎以外の骨に転移したがんによる痛みも緩和できないかどうかを確認する臨床試験も計画している、とSahgal医師は説明した。

「うまく行くことを示唆するデータはありますが、証明する必要があります」。もしそのようなことが可能であれば、「骨転移患者にとって状況は一変するでしょう」。

翻訳担当者 伊藤 彰

監修 松本 恒(放射線診断/仙台星陵クリニック)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

がん緩和ケアに関連する記事

慢性疼痛を持続的に軽減するスクランブラー療法の画像

慢性疼痛を持続的に軽減するスクランブラー療法

ジョンズホプキンス大学ジョンズホプキンス大学の疼痛専門家2名が共著した新たなレビュー論文で、非侵襲的疼痛治療法であるスクランブラー療法が、慢性疼痛のある患者の約80%から90%で有意に...
がん性疼痛へのオピオイド利用に人種格差の画像

がん性疼痛へのオピオイド利用に人種格差

終末期が近い黒人およびヒスパニック系がん患者は、痛みをコントロールするために必要なオピオイド薬を入手する確率が白人患者よりも低いことが、新しい研究結果で明らかになった。

2007年から2019年...
ステロイドはがん患者の呼吸困難の緩和に最適か?の画像

ステロイドはがん患者の呼吸困難の緩和に最適か?

進行がん患者には、生活の質を損なうさまざまな症状が現れる。呼吸困難といわれる呼吸の障害に対しては、症状を緩和するため副腎皮質ステロイドという薬剤がしばしば処方される。 しかし、進行がんにより引き起こされる呼吸困難を対象としたステロイドの臨床
デキサメタゾンはがん患者の呼吸困難緩和に投与すべきではない【MDA研究ハイライト】の画像

デキサメタゾンはがん患者の呼吸困難緩和に投与すべきではない【MDA研究ハイライト】

デキサメタゾンはがん患者の呼吸困難緩和のためには投与すべきではないとの試験結果 がん患者の呼吸困難や息切れを緩和するための全身性コルチコステロイド使用を支持するエビデンスは今のところほとんどない。David Hui医師が率いる研究チームは、