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データの共有による小児がん医療の変革

  • 2019年9月12日
  • 発信元:米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

NCI Acting Director Douglas Lowy, M.D., speaking at the Childhood Cancer Data Initiative Symposium in Washington, DC.

―NCI 所長代理 Douglas Lowy氏、ワシントンDC で開催された『小児がんデータイニシアチブ シンポジウム』にて―

先月、私はNCIの同僚らと共に、データの共有と使用を強化することにより、小児がん患者の治療成績を改善する機会に焦点を当てたシンポジウムを開催した。ワシントンDCで開催されたこのシンポジウムには、250人を超える科学関係者やアカデミア、政府、産業界、擁護団体の指導者らが集まり、さらには700人がビデオ放映を視聴した。

参加者は3日間にわたって議論した。より包括的で有意義なデータセットを提供し構築することで、科学的な疑問へのより良い回答が得られたり、臨床ケアが改善したりする機会や、相互接続可能なデータ基盤開発の課題、データの収集と共有に関するポリシーについて議論した。

小児がんデータイニシアチブ(CCDI

以前の記事で示したように、小児や思春期および若年成人(AYA)世代のためのがん研究の進展を加速するために、政府は10年間で年間5,000万ドル(約55億円)を計上している。NCIは、政府の資金提供による小児がんデータイニシアチブ(CCDI)の計画を開始しており、小児がんの研究コミュニティが、データを収集、分析、および共有するためのより効率的な手段の開発について議論する重要な機会として、本シンポジウムを主催した。本シンポジウムへの支援や熱意は、印象的で心揺さぶるものであった。

本シンポジウムの来場者らは、4つに分けられた小グループのうちの1つに参加し、小児およびAYA世代のがん研究強化のためのニーズ、課題、および潜在的な解決策について議論した。4つの小グループでは、次の分野に焦点を当てた。

・治療の進歩に必要な科学的および臨床的研究データの優先順位付け

・臨床ケアおよび関連する研究の進展のための有意義なデータセットの作成

・異なる小児データを保存している施設間の連携を可能にするデータ基盤の構築

・データから知見を抽出するツールと方法の開発

大きく考える

会議中に多くの課題が明らかになったが、標準化されたデータや相互接続可能なデータ保存、およびデータ共有が必要かつ実現可能であるというコンセンサスが取れたことは、私にとって最大の励みになった。

患者の親であり、また擁護者でもあるAmanda Haddock氏は、この点を強調し、テクノロジーとデータサイエンスの分野で可能なことと不可能なことは急速に変化しているということを我々に思い出させてくれた。

彼女は、今日だけでなく明日何が可能かについて、大きな視野で考えるよう促した。

データを簡単に共有化できるようにする機会と責任

小児がんの研究コミュニティ全員に対し、患者と家族に代わってデータを管理する責任者という役割の重要性を思い出すよう促した講演者が何人かいた。実際に、収集したデータを豊富なリソースとして扱い、最大の利益をもたらすように展開する必要がある。

CCDIでは、データの収集や統合、また小児がん研究者と最年少の小児がん患者を治療する臨床医との間でのデータ共有を容易にするフレームワーク構築といった、新しいテクノロジーを活用するための大きな機会と責任を提示している。

小児がんやAYA世代のがんの擁護者らは、コミュニティとして、より速い進歩を遂げるにはデータを共有しなければならないことを先駆けて強調してきた。私は研究者として、この点で遅れを取っていると感じており、遅れを取り戻すことは我々の義務であると考えている。シンポジウムでは、特に小児がんおよびAYA世代のがんコミュニティにおいて、我々が自発的に計画を実行する用意があることを確認し、CCDIが提案する基本教義を共有できたと期待している。

同時に、小児がんデータの収集、標準化、集計、および分析を行う上で、実質的な障害が存在し、今後も存在し続けることを認識しなければならない。これらの障害により、データの共有が本質的に難しくなり、さらには、特定の施設では小児症例の総数が他のがん種と比較して少ないために、データを他と共有せず比較的孤立化してしまっている現状がある。

CCDIでは、これらの障害に対処し、理想としては克服することを目指している。

小児およびAYA世代がんのがんデータエコシステムの構築

複数のタイプの研究や臨床データを、収集し保存するより良い方法を開発することにより、研究者や臨床医がそれらをより使いやすくなる。理想的には、集積されたデータ内に、広範なオミクス(ゲノミクス、プロテオミクス、メタボロミクスなど)、画像データ、病理学、副作用、患者および介護者が報告する転帰など、長期的な期間をカバーし包括的かつ標準化された患者情報が含まれるよう整備したい。

また、データを連結させるフレームワークを構築する必要がある。複数の既存データや新しいデータとシステムを接続し、データを分析および共有するためのソフトウェアツールを提供する基盤を構築しなければならない。

これらの2つの視点を組み合わせ、より良いデータ収集と相互接続可能な蓄積データの構築を行うことにより、小児がんとAYA世代がんのがんデータエコシステムが作成され、データを有意義な方法で検出して使用できるようになる。

小児がんデータエコシステムが構築されれば、大きな利益が生まれるだろう。現在よりもはるかに多くの情報にアクセスすることができようになり、必要なデータを収集していなかったり、データへのアクセスが不足していたりするために、これまで答えることが非常に困難であった多くの質問に答えられるようになる可能性がある。この方法でデータを利用できるようにすると、早期診断や、毒性が低くより効果的な治療が行なわれ、最終的にはより良い治療成績が得られ、小児およびAYA世代がん医療の現状を変える力が加速されるだろう。

小児がんとAYA世代がんの医療を変えるロードマップ

シンポジウムで発表された多くの提案によって、小児がんを理解、予防、および治療する能力を高めるための包括的な患者データを効率的にまとめる方法が、コミュニティ全体に対して共有されるだろう。

NCIでは、今後数週間で、会議で議論された内容や、オンラインシステムを通じて提出されたアイデアを検討し、このイニシアチブの次のステップを計画する。

私たちはこの計画によって、効率的(コミュニティに既に存在するリソースを活用)かつ思慮深く(子どもたちやAYA世代、その家族を努力の最前線におく)前進することを約束する。

データ共有の文化を育むための協働

共有の文化を育てるという意味で、私はシンポジウムで、2019年9月1日から、TARGETイニシアチブの骨肉腫データを使用した広範な調査結果について、研究者への公開制限を解除すること発表した。

TARGETは、多国で共同して行っており、骨肉腫およびその他選択された小児がんの包括的なゲノム解析を実施する取り組みである。この取り組みで、これらのがんを引き起こす分子の変化を特定することで、これを標的とする新しい治療法の開発につながる可能性がある。これまで、各疾患の研究グループ内で主要な論文が公開されるまでは、TARGETデータ全体の公開を制限することが一般的な慣習であった。しかし良心に省みて、不確定な期間、公開を制限するのは良いことではない。

小児やAYA世代のがん患者の利益のため、がんコミュニティの皆さんには、今後数日、数週間、数か月後、データの使用と共有を促進するために何をするかを検討してもらいたい。私はこの会議からエネルギーと興奮を得ることができ、皆さんと一緒に大きな視野で考え、1つのチームとして前進し、より効率的かつ効果的に働くことを望んでいる。

ただし当然だが、NCIやがんセンター、地域病院、研究室および診療所のスタッフがこの変化に対して協調的な努力をしなければ、提案されたCCDIイニシアチブは成功せず、多くの小児およびAYA世代のがん患者の予後を改善するという目的は達成できない。

データの向こう側には実在する人がいる

データの統合、分析、共有を標準化するという目的を達成するには、文化を変えていくことはもちろん、深く長期的な努力やポリシーの変化が必要である。しかしながら、研究コミュニティは積極的に進める準備ができており、必ずや目的に到達できると私は信じている。

CCDIを前進させていく中で、これらのデータの向こう側には、実在の患者がいるという事実を見失ってはならない。私たちの目標は、単にデータを統合して共有することではなく、小児がんの理解を促進し、小児やAYA世代のがん患者の生活を改善することである。

翻訳河合加奈

監修辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター) 

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