小児がん頭部放射線治療後の脳卒中リスク増加に遺伝子変異が関与

 一般的な一塩基多型(コモンSNP)が、脳原発がんの治療に頭部放射線治療(CRT)を受けた小児がんサバイバーにおける脳卒中発症リスク増加に関与していることが、3月29日〜4月3日に開催された2019年米国がん学会(AACR)年次総会で発表された。

「われわれは、頭部放射線治療歴のある小児がんサバイバーにおいて、脳卒中リスクを高める遺伝的危険因子を特定しました」と、聖ジュード小児研究病院の臨床研究科学者であるYadav Sapkota博士は述べた。「われわれの研究結果は、脳卒中の発症リスクが非常に高いサバイバーを適切に特定し、そのリスクを最小限にするための介入戦略を立てる助けとなります」と述べた。

脳原発がんの治療に、脳への放射線治療である頭部放射線治療を受けた小児がんサバイバーは、脳卒中を発症するリスクが高くなるとSapkota氏は述べた。頭部放射線治療を受けていないサバイバーと比較すると、30〜50グレイ(Gy)の照射を受けた場合では脳卒中の発症リスクが6倍に、さらに50Gy以上の照射を受けた場合では脳卒中の発症リスクが11倍になることがこれまでの研究で示されていると、彼は付け加えた。「しかし、他の臨床因子や人口統計学的因子では説明しきれない脳卒中リスクの差が、同じ線量の頭部放射線治療グループ内にあるようです」と、Sapkota氏は言及した。「このことは、頭部放射線治療歴のあるサバイバーの脳卒中発症リスクに影響を与える遺伝的素因が存在する可能性をわれわれに示しています」と述べた。

脳卒中リスクに関連した一塩基多型(コモンSNP)(ここでは研究対象の5%以上で発現しているものと定義する)を特定するため、Sapkota氏らは、St. Jude Lifetime Cohort study (SJLIFE)で脳原発がんの治療に頭部放射線治療を受けた小児がんサバイバー 686人について、全ゲノム配列データの解析を行った。この解析に用いたサバイバーは全てヨーロッパ系人種であった。このうち116人(17%)が臨床的に脳卒中を発症したと診断された。

多変量解析の結果、頭部放射線治療歴のあるサバイバーが脳卒中を発症する可能性は、5p15.33に位置するコモンSNPを有する場合、有しないサバイバーの3倍近くになることを著者らは見出した。放射線の線量が、SNPと脳卒中発症リスクの関連性に影響を与えるとみられた。25〜50Gyの放射線治療を受けたサバイバーでは、SNPを有すると脳卒中を発症するリスクは5倍近くになったが、25Gy未満または50Gy超の放射線治療を受けた患者では、 SNPを有する場合の脳卒中発症リスクはおよそ3倍であった。

「われわれは、中程度の線量での放射線治療後に脳卒中を発症するリスクに対して、最も著しい影響を与えるのはコモンSNPであることを明らかにしました」とSapkota氏は言及した。「50Gy以上の放射線治療を受けたサバイバーでもなお、SNPを有する場合、脳卒中のリスクが高くなっているが、われわれは高線量の放射線によって遺伝的な影響が変化したと推測している」と述べた。

研究者らは、SJLIFE試験の2つの独立したサバイバーグループにおいてこの結果を再現した。このグループは、頭部放射線治療を受けたアフリカ系のサバイバーと頭部放射線治療を受けていないヨーロッパ系のサバイバーからなる。「再現解析の結果は、頭部放射線治療と遺伝的因子が組み合わさることで、小児がんサバイバーの脳卒中発症リスクが大幅に増加することを示唆しています」と、Sapkota氏は述べた。「頭部放射線治療歴があり、この遺伝的多型を保有しているサバイバーは、定期的な検査と診察を受けることで、介入可能な循環器系のリスクを最小限にすることができます」と付け加えた。

この試験はサンプルサイズが小さいため、追加コホートでの検証が必要であるとSapkota氏は述べた。頭部放射線治療歴のあるサバイバーにおける、コモンSNPと脳卒中リスクの関連メカニズムに関する知見を得るには、機能的実験も必要であり、その結果から、介入治療をベースとした有望な方策がわかるだろう。

本研究は、 米国国立がん研究所、ALSACおよびthe fundraising and awareness organization of St. Judeの助成を受けた。Sapkota氏は、利益相反がないことを宣言している。

翻訳担当者 田村克代

監修 河村光栄(放射線科/京都医療センター)

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