骨髄腫前段階から骨髄腫に進行する経過と新たな治療法

ダナファーバーがんセンターの研究者らは、血液のがんである多発性骨髄腫を考える上で非常に重要と考えられる研究成果を、2018年米国血液学会(ASH)年次総会(12月1~4日)で発表する。彼らの研究結果は、多発骨髄腫の前段階からの多発性骨髄腫発症に至る経過についての新しい知見をもたらし、新たな治療への道を示唆するものである。

関連した研究成果として、ワルデンストレームマクログロブリン血症の前病変をもつ人を、ワルデンストレームマクロブリン血症を発症する可能性に応じてグループ分けする新しいシステムも発表する予定である。

本研究の結果の実例

骨髄腫発症前段階の患者が骨髄腫に進行するリスクは免疫反応によって予測できる

骨髄腫発症前段階の人においては、症状が現われる前であっても、骨髄腫の発症に影響を及ぼすさまざまな変化が骨髄の免疫システム細胞に認められるとダナファーバーの研究者らは報告している。この知見は、骨髄腫前段階の人で初めて腫瘍細胞と免疫細胞との相互作用を詳細に調べたもので、今後疾患の進行の予測に関する検査や、新しい治療戦略に発展する可能性がある。

本研究では、健常者や意義不明の単クローン性高ガンマグロブリン血症(MGUS)患者、および症候性骨髄腫の前段階であるくすぶり型骨髄腫患者の、骨髄由来の個々の形質細胞や免疫系細胞でみられる遺伝子発現を解析した。この解析は各細胞のRNAの配列決定により行われたが、これは遺伝子の活動状態を検討するものである。

研究者らは、最も早期の前段階でも、骨髄内の免疫細胞の集まりである免疫微小環境が健常者とは劇的に異なっていることを見出した。たとえば、前段階の患者においては、形質細胞の表面分子が変化して免疫系による検出するのを困難にしているという変化があるだけでなく、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、T細胞といった免疫系細胞が流入していることも発見した。

「私たちは疾患早期の患者の、骨髄の微細環境に存在する免疫細胞の変化を初めて確認しました。これはMGUS期であっても同様でした」、と本臨床試験の責任医師であり、ダナファーバー血液がん進行予防センター共同所長のIrene Ghobrial医師は述べた。「さらに私たちは、免疫細胞の特定の変化も明らかにしました。将来、疾患の進行を予防および阻止するために実施される免疫療法においてこの変化は標的にできると考えられ、これにより骨髄腫を予防可能な疾患にできる可能性があります」。

3剤併用療法がハイリスクくすぶり型多発性骨髄腫患者の多くで奏効

ダナファーバーの研究者らによって主導された第2相臨床試験の最初の結果によれば、ハイリスクくすぶり型多発性骨髄腫(SMM)患者の大多数において、イグザゾミブ、レナリドミド、デキサメタゾンの併用療法が骨髄腫病変に著しい効果を示し、大きな副作用は認められなかった。

ハイリスクSMM患者29人が参加した臨床試験の中間結果は、12月3日(月)セッション 653で発表される。3種類併用のレジメンを3サイクル以上受けた患者では89%が治療に効果を示し、それは彼らの疾患の30%以上を低減させたことを意味する。これらの患者のうちの5人に、骨髄腫が検出不可能になることを意味する完全奏効が認められ、9人が非常に良好な効果を示したと判定された。2017年2月から2018年4月までに治療を開始したこれらの患者において症候性の骨髄腫を発症した者はいなかった。

併用療法の有害事象はほぼ軽微なものであった。この治療に最もよくみられた副作用は、軽度から中等度の疲労や発疹であった。重度(グレード3)の低ホスファターゼ血症(血中のアルカリホスファターゼ含有量が低いこと)が2人に発現したが、グレード3の好中球減少症(白血球細胞の数の減少)を認めたのは1人のみだった。

イグザゾミブは不必要なタンパクを破壊する細胞内の構造物であるプロテアソームを阻害する薬剤である。レナリドミドはさまざまなメカニズムで骨髄腫細胞を死滅させる。デキサメタゾンはコルチコステロイドである。

「ハイリスクSMM患者への早期介入は、この症候型骨髄腫への進行を遅らせたり予防したりする効果があり、良いアプローチであることが示されてきました」、とASH2018年次総会で本臨床試験の結果を発表するダナファーバーのMark Bustoros医師は述べた。「私たちはこのアプローチを、利便性の高い薬剤を用いた薬の併用療法によって拡大したいと考えています。ハイリスクSMM患者は、短期間に進行する危険が高いのですが、それにもかかわらず無症候性で、それぞれの生活があり仕事もしています。この経口薬剤の組み合わせによる治療方法により治療効果と利便性の両方を提供できるようになります」。

「50%を超える完全寛解や良好な奏効率など、忍容性良好な経口薬剤の組み合わせによる治療を受けたハイリスクくすぶり型骨髄腫患者で初めて高い奏効率を確認しました」、とGhobrial医師は述べた。「私たちは、近い将来このアプローチが、疾患の進行のリスクが高くかつ早期介入により利益を得るくすぶり型骨髄腫患者の治療の基盤になるのではないかと信じています」。

多発性骨髄腫の創薬ターゲットとしてID2関連経路を同定

多発性骨髄腫に関する創薬ターゲットを探索する研究で、有望な新しい候補を発見した。ダナファーバーの研究者により主導された研究で、骨髄腫細胞ではinhibitor of DNA binding 2 (ID2)というタンパクが腫瘍細胞の増殖を抑制するのに役立つことが見出された。骨髄腫細胞においてはID2に対応する遺伝子発現が低下したり、ID2タンパクの産生が低下したりしていることが明らかになった。新しい標的療法は、ID2生産を異常なほどに低く押さえ込んでしまうタンパクの働きを阻止することで、腫瘍細胞増殖にブレーキをかける機能を回復させることが可能になる。

研究者らは正常形質細胞と360人の骨髄腫細胞でのID2(さらにIDタンパクファミリーにあたる他の3種)の遺伝子発現を比較し、骨髄腫細胞でID2の発現が明らかに抑制されていることを発見した。また骨髄腫細胞株でID2が過剰に発現させると細胞増殖率が著しく低下した。

研究者らは次にID2が抑制される原因となるメカニズムを調査した。一連の実験で、骨、軟骨、支持組織、脂肪細胞などのさまざまな骨格成分のもととなる骨髄間質細胞が骨髄腫細胞と相互作用し、ID2生成を低下させる可能性があることを発見した。

「この研究で、遺伝子がおとりのように働き、他のターゲットとなる遺伝子の機能を増大させるメカニズムを新たに確認しました」、とダナファーバー・ジェロームリッパー多発性骨髄腫センターの基礎・相関科学分野トップで本研究の責任著者Nikhil Munshi医師は述べた。「この研究は理解が進んでいない骨髄腫の分子のメカニズム解明の手がかりとなり、新たな治療方法の開発につながる可能性があります」。本研究の筆頭著者はルボウ骨髄腫治療研究所、ダナファーバーのジェロームリッパー多発性骨髄腫センター、およびイタリア・ミラノのビタサルートサンラファエル大学を兼担するTommaso Perini医師である。

多発性骨髄腫のリスクが高い患者のスクリーニング研究を開始

ダナファーバーの研究者らは、新たな研究に参加する患者を探している。この研究は、the Stand Up To Cancer Multiple Myeloma Dream Teamの一部として資金提供を受けており、多発性骨髄腫の前段階にいる人々を特定し、彼らの健康状態を追跡することを目的としている。PROMISEという名のこの研究は、意義不明の単クローン性高ガンマグロブリン血症(MGUS)やくすぶり型多発性骨髄腫などの前段階から症候性骨髄腫への進行の過程に発生する分子生物学的な変化を追跡するのに役立つ。またこの情報は、疾患の進行を防ぎ患者の生存を改善させる薬剤の開発において重要となるだろう。

この研究は以下の2つのグループを対象とする。いずれも45歳から75歳の患者が対象で、1つは多発性骨髄腫リスクが高い患者を対象とする研究、もう1つは骨髄腫の前段階と確認されている患者を対象とする研究である。

・アフリカ系アメリカ人。彼らは白色人種の3倍MGUSを発症しやすい。
・一親等親族(父母、きょうだい、子ども)に多発性骨髄腫のような形質細胞性疾患患者がいる人。

参加者はオンラインの健康調査票に回答した上で、解析のための血液サンプルを定期的に提供し、その都度健康状報を報告する。血液検査で骨髄腫前段階と確認された患者には、血液・腫瘍の専門医への受診を手配する。そのような患者は3~6カ月毎に健康状態の報告と血液サンプルの提出を行い、この結果に基づいて疾患の進行を防ぐことを目的とする臨床試験の適格患者となる可能性がある。これらの血液検体は疾患が進行するリスクなどの関連が示唆される分子生物学的特徴を解析するために使用される。

「われわれの願いは、疾患の前段階病変をスクリーニングにより早期に同定することで、症候性骨髄腫への進行を示す分子生物学的な特徴を理解し、「慎重な経過観察」に代わる治療法を開発して骨髄腫を予防可能な疾患にすることです」と、本臨床試験の責任医師であるGhobrial医師は述べた。

臨床試験への参加は、まずオンラインか郵送で連絡のこと。採血のために指定場所へ出向く必要がある。試験は各の患者の地域の検査所で行われる。試験へのサインアップは、www.promisestudy.orgを参照。

リスクに基づいたくすぶり型ワルデンストレームマクログロブリン血症患者の分類システムの開発

ダナファーバーの研究者らは、くすぶり型ワルデンストレームマクログロブリン血症(SWM)患者数百人のデータを解析し、SWM患者がワルデンストレームマクログロブリン血症(WM)を発症するリスクはどの程度(低・中・高)あるかを判定するためのリスクモデルを考案した。

このシステムにおいて、患者のリスクは①骨髄におけるリンパ形質細胞浸潤、②血清免疫グロブリンM値、③β2マイクログロブリン値、④アルブミン値の4つの項目を用いて評価される。これらの評価項目に基づき患者を3つのリスクグループに分類することで、患者のモニタリングの質が向上する。重要なことは、この4つの項目を用いて早期介入により利益が得られるであろうハイリスク患者を同定できることであると研究者は述べた。

ワルデンストレームマクログロブリン血症は、低悪性度の非ホジキンリンパ腫で、モノクロナールIgMタンパクの過剰産生に関連するリンパ形質細胞性リンパ腫である。ワルデンストレームマクログロブリン血症は無症候性の病態であるSWMに続いて起こることが多い。「WM患者は貧血、末梢神経障害、出血を始めとしていくつかの症状が通常発生します」、と本試験を主導し、最終結果をASH年次総会で発表するBustoros医師は述べた。「SMW患者のおよそ3分の2は症状のある段階に進行します。4つのバイオマーカーで高めの値を示すことは、数年以内に症候性疾患へ進行するという重大なリスクと関連していました。私たちは、このモデルをウェブサイトのオープンアクセスアプリケーションとして提供しますが、それにより腫瘍内科医がケアの質を向上させ、稀少な悪性疾患である本患者のマネジメントの助けとなる可能性があります」。

「このモデルは、ダナファーバーのSWM患者439人に基づき作られたもので、メイヨークリニックとギリシャのアテネ大学の 2件のコホート試験で検証されています」。「このモデルは、高い精度でリスクの程度を分類できる、強力な予測指標です」と本試験の筆頭共著者であるダナファーバーのRomanos Sklavenitis Pistofidis医師は述べた。

「私たちはこのモデルが、疾患の進行リスクが高い患者を同定する手助けになり、その患者が注意深く経過観察を受け、臨床試験を介して早期に治療を受けることにより利益を得られることを願っています」、と本試験の統括著者であるGhobrial医師は述べた。

ASHでのダナファーバーの活動の詳細はこちらのサイトを参照のこと。

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 佐々木裕哉(血液内科/横須賀米国海軍病院)

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