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エキソソームが腫瘍の免疫システム逃避を助ける

腫瘍は、免疫応答を抑制するタンパク質をちりばめたエキソソームと呼ばれる小さな膜小胞を分泌して免疫系から逃れることが、新たな研究で確認された。重要だけれども知られていなかったであろう腫瘍の免疫系逃避経路である。

ペンシルバニア大学の研究者らが主導した研究によると、皮膚がんメラノーマの実験室モデルおよび同疾患に罹患した患者において、腫瘍細胞がPD-L1と呼ばれるタンパク質で被覆されたエキソソームを放出することが確認された。これらのタンパク質は、免疫細胞上のパートナー分子に結合して免疫細胞を不活性化する免疫チェックポイントタンパク質の一種である。

研究者らは、PD-L1が散りばめられたエキソソームを先制攻撃を行う無人機の一団に例えた。PD-L1は体内を移動し、免疫細胞、具体的には細胞傷害性T細胞として知られる免疫細胞が腫瘍に到達する隙を与えることなく、事前に腫瘍への攻撃を阻止するのである。

8月8日号のNature誌に発表されたこの研究の知見は、患者の血液サンプルでエキソソーム上のPD-L1を測定することが治療決定の指標になり得る可能性も示していると、本研究の共同研究者であるXiaowei Xu医学博士は述べた。

この研究の知見は新たな議論を導くものだが、PD-L1を有するエキソソームがメラノーマ患者の腫瘍に対する免疫応答にどの程度の影響を及ぼすかを判断するにはまだ時期尚早であると、ジョンズホプキンス大学Bloomberg-Kimmel Institute for Cancer Immunolog所属のSuzanne Topalian医師は話す。

その結論に達するには「まだまだ多くの疑問点が残っている」と、この研究に関与していなかったTopalian医師は言う。この研究には他の疑問点もある、とも付け加えた。

そのうちの1つが「これらエキソソームの表面に、他にどのようなタイプの免疫調節分子が存在するのか」という点だという。

 

エビデンスの跡をたどって

何年もの間、研究者たちは、エキソソームが細胞から廃棄物を運び出す分子ゴミ運搬車としての機能しか持たないと考えていた。しかし、エキソソームのような細胞外小胞が様々な生物学的プロセスに影響を与えていることが明らかになった、と米国国立がん研究所がん研究センターのJennifer Jones医学博士はいう。

「エキソソームが、がんや免疫システムに関して重要な役割を担っている」ということは研究者の間で少し前から知られていたものの、「どのエキソソームが何の役割を担っているのか、特定が困難でした」とJones医学博士は言う。

「各エキソソームの容量は一般的な細胞の100万分の1しかなく、現代の生物医学研究のツールのほとんどは、個々のエキソソーム内の積み荷の正確で機能的な解析には適していないのです」と同氏は述べた。

血液サンプル中にPD-L1や、がんや他の細胞によって放出される様々なタイプの小胞を発見した以前の研究に基づいて、ペンシルバニア大学のチームは広範なアプローチを用いて、これらの細胞からの放出物に含まれるPD-L1をより詳細に調べ、それらが免疫システムと腫瘍との関わりに影響を与えているかを調べた。

 

腫瘍細胞の表面とエキソソームについて

メラノーマは、特に強い免疫応答を誘発することで知られており、米国食品医薬品局によってメラノーマの治療用に複数の免疫チェックポイント阻害剤が承認されている。そこで研究者は、異なるメラノーマ細胞株を評価することから始めた。

開始後すぐ、発見内容に驚かされたとXu医師は言う。

研究者らは、メラノーマ細胞から放出されたエキソソームにPD-L1が含まれていることを確認した。さらに、転移したメラノーマ細胞由来のエキソソームは、はじめの、原発巣メラノーマ細胞由来よりもはるかに多くのPD-L1を含有していた。

驚いたのは、エキソソームの詳細な様子を得るために電子顕微鏡を使用したときだった。PD-L1タンパク質はエキソソームの内部には存在せずにタンパク質の表面に担持され、タンパク質の結合部分が腫瘍細胞同様、表面から突出していた。

「我々はこれを見て本当に興奮しました。というのも、それならば、エキソソームのPD-L1がT細胞と直接相互作用することが可能だからです」とXu医学博士は言った。

さらなる実験によってその可能性が確認された。研究チームは、エキソソームが細胞傷害性T細胞(がん細胞を直接的に死滅させるのに最も関与する免疫細胞)に結合し、T細胞の増殖とがん細胞への攻撃を防げることを示したのだ。

研究がメラノーマのマウスモデルを使った段階に移ったとき、研究チームは表面上にPD-L1を散在させたエキソソームも発見した。人間のがんに非常に模したメラノーマのマウスモデルを使用して、表面にPD-L1を有するエキソソームを注射すると、腫瘍がより速く増殖し、腫瘍およびその周辺のT細胞および他の免疫細胞の蓄積が減少した。

 

治療バイオマーカー?

次に研究チームは、メラノーマ治療歴のある患者から採取した血液サンプルを観察したが、そこでもPD-L1でコーティングされたエキソソームが確認された。彼らはまた、乳がんおよび肺がん治療歴を有する患者から採取した血液サンプル中にPD-L1を保有する細胞外小胞(最も一般的にはエキソソーム)を確認した。

彼らの研究は興味深い可能性を示唆しているとXu医学博士は言う。つまり、エキソソーム上のPD-L1レベルに基づき、チェックポイント阻害薬に応答する可能性が最も高い患者を同定したり、それら薬物に対する同患者の応答を追跡するのに使用できるという可能性である。

例えば、PD-L1の免疫細胞結合パートナーであるPD-1を阻止するチェックポイント阻害剤ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)を用いてメラノーマ治療を受けた人々の血液サンプルを分析した。腫瘍がその薬剤に最もよく応答した患者は、応答しなかった患者よりもはるかに治療前におけるエキソソームのPD-L1レベルが低かった。逆に、治療前におけるエキソソームのPD-L1のレベルが最も高かった患者は、低かった患者と比べて転帰が悪かった。

しかし、治療開始後に測定されたエキソソームPD-L1レベルは様子が違った。治療開始後3〜6週間の期間に大きな増加がみられた患者は、小さい増加がみられた患者に比べ、腫瘍サイズの縮小がずっと大きかった。

矛盾した知見のように見えるものの、生物学的には理にかなっている、とXu医学博士は言う。

「これは、2つの異なるプロセスが進行していることを意味します」と彼は説明する。

治療前は、エキソソームのPD-L1レベルが腫瘍の大きさや疾患の程度を反映しやすい。つまり、血中PD-L1が高い場合、腫瘍が多く、予後不良との関係性があることを意味する。

ペムブロリズマブでの治療後は、「(治療に奏効した患者における)エキソソームPD-L1の急速な増加は、T細胞が活性化されていることを意味し、IFN-γのようなサイトカインをより多く分泌する」という。サイトカインは、免疫システムを刺激することができるシグナル伝達分子である。

実際、メラノーマ細胞株では、IFN-γで細胞を治療するとエキソソームPD-L1が増加することが示された。そして患者サンプルの分析で、エキソソームPD-L1レベルがIFN-γレベルにあわせて増加や減少する傾向があることを見出した。

 

課題はまだある

ペンシルバニア大学のチームは「生物学的プロセスに影響を及ぼすエキソソーム集団の非常に多様なレパートリーの中で、重要なエキソソーム集団の1つを特定した」とJones医師は言う。「これらの非常に小さな小胞をより詳細に研究するためには、新しいツールや新しいアプローチが必要です」

メラノーマや他多くのがん種の患者から採取したより多くのサンプルを使った研究や、腫瘍生検から得られたPD-L1と腫瘍から放出されたエキソソームを密接に比較する研究など、もっと研究を進めることが必要であるとTopalian医師は強調した。

例えば、Topalian博士らの研究室の研究では、表面上に相当量のPD-L1を発現する腫瘍細胞を有するのは人間のメラノーマの約40%に過ぎないことがわかっている。将来の研究では、腫瘍に含まれるPD-L1量とエキソソーム上のPD-L1量との間に相関があるか、同じ患者から採取して調べるべきだと述べた。

また、メラノーマ患者の血液中に大量のエキソソームPD-L1が存在するということは、それら患者において「免疫抑制に全体的な影響を及ぼしている」ということを示唆しているという。 「ただ、ステージ4メラノーマ患者大半の免疫が抑制されているという証拠はない」と彼女は述べた。

翻訳関口百合

監修花岡秀樹(遺伝子解析/イルミナ株式会社)

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