小児・若年成人の脳腫瘍放射線治療後の内分泌機能障害リスクが判明

脳腫瘍に対する放射線療法において確認された年齢依存性の線量反応、および放射線療法後の内分泌機能障害
脳腫瘍への放射線療法を受けた小児および若年成人患者において、内分泌機能障害はよくみられる遅発作用であり、将来の罹患率と治療費に大きく関わる問題であるが、線量および患者年齢に応じて内分泌機能障害を発症する実際のリスクについてはほとんどわかっていない。

米国オハイオ州シンシナティ市のシンシナティ医科大学およびシンシナティ小児病院メディカルセンターに在籍する筆頭著者Ralph E. Vatner氏らによると、小児および若年成人の脳腫瘍患者に関して、視床下部および下垂体への放射線療法の線量反応を明らかにするデータは今のところほとんどない。

研究者らは、Journal of Clinical Oncology誌2018年8月号に掲載された記事で、この患者集団における視床下部および下垂体への放射線治療線量と内分泌機能障害の関係を詳述した研究結果を報告した。

本研究では、2003年から2016年までに実施された3件の前向き研究の線量データと臨床データについて分析が行われた。

研究対象となったのは、脳腫瘍に対して陽子放射線治療を受けた0.1歳から26歳の小児および若年成人であった。分析では、成長ホルモン、甲状腺ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、および性腺刺激ホルモンの治療後の欠乏を、臨床的および血清学的に決定した。こうした欠乏の発生率をカプラン・マイヤー法により推定するとともに、全ての内分泌機能障害に対する放射線量の関係を明らかにするため、多変量モデルを構築した。

放射線療法は成長ホルモン産生に影響を与える可能性が最も高い
研究対象となった患者222人のうち、130人(68.8%)が髄芽腫に対し全脳全脊髄照射とブースト照射を受けた。56人が領域放射線療法を受け、そのうち26人(13.8%)は上衣腫、14人(7.4%)は低悪性度神経膠腫に対する治療であった。

合計189人の患者について保険統計解析による評価を行い、31人(14%)がベースライン時のホルモン欠乏、2人(0.9%)が追跡不十分のために保険統計解析から除外された。追跡期間中央値は4.4年(範囲、0.1〜13.3年)であった。

追跡期間中、何らかのホルモン欠乏の発生率は48.8%であった。各ホルモンの欠乏発生率は、成長ホルモン37.4%、甲状腺ホルモン20.5%、副腎皮質刺激ホルモン6.9%、性腺刺激ホルモン4.1%であった。

サイロキシン(主な甲状腺ホルモン)、副腎皮質刺激ホルモン、性腺刺激ホルモンそれぞれの欠乏発生率において、年齢群による有意差は認められなかった。しかし、成長ホルモン欠乏発生率は6歳から10歳の患者で高く、この年齢層より低年齢層および高年齢層の患者での発生率を上回っていた。

照射線量および治療時の年齢の両方が、その後の内分泌機能障害の発症可能性に影響する
照射放射線量と患者の治療開始年齢の両方が内分泌機能障害の発生に経時的に影響を及ぼしていた。内分泌機能障害発生率は、視床下部および下垂体への線量中央値40 GyRBE以上の患者で最も高く、20 GyRBE以下の患者で最も低かった。

放射線治療開始時の患者年齢でデータを階層化すると、6歳から10歳の間に治療を受けた患者は、治療開始時に6歳未満であった患者よりも内分泌機能障害を有する割合が高いことがわかった。治療時に10歳以上であった患者は、ホルモン欠乏発生率が最も低かった。

脳への放射線療法後の内分泌機能障害に及ぼす線量および年齢の影響をわかりやすくするために、研究者らは以下の例を示した。視床下部および下垂体へ20 GyRBEを受けた5歳の患者が、内分泌機能障害を発症する確率は40%、5年以内に成長ホルモン欠乏症を発症する確率は30%であった。これに対して、同じ線量の治療を受けたた15歳の患者では、内分泌機能障害を発症する確率は23%、5年以内に成長ホルモン欠乏症を発症する確率は5%に過ぎなかった。

結論
著者らは、視床下部および下垂体の照射線量と内分泌機能障害との関係が治療に重要な指標となると指摘した。彼らは、陽子放射線療法または強度変調光子放射線療法などの最新の放射線療法で視床下部および下垂体を識別し回避することができる方法について説明し、これらの技術によって内分泌機能障害のリスクを低下させることができると示唆した。このことは、小児脳腫瘍に対する陽子放射線療法または強度変調放射線療法の使用のさらなる裏付けとなる。

彼らはさらに、線量反応関係は年齢に依存しているため、成人患者のデータを小児および若年成人患者に適用することは不適切であるとした。

研究者らは、小児および若年成人の脳腫瘍患者に関して、治療時の患者の年齢、視床下部および下垂体への放射線量に応じて、成長ホルモン、甲状腺ホルモン、コルチゾールおよび性ステロイドの欠乏発症リスクを予測するモデルを提示した。

彼らは、これらのデータから、最新の放射線療法技術の使用により下垂体および視床下部への線量の最小化が裏付けられると示唆する。

さらに、脳腫瘍の放射線療法後の内分泌機能障害リスクを予測する上で有用な臨床的ツールとなり得るモデルも提示している。

開示
外部資金の開示はない。

参考文献:Vatner RE, Niemierko A, Misra M, et al. Endocrine Deficiency as a Function of Radiation Dose to the Hypothalamus and Pituitary in Pediatric and Young Adult Patients With Brain Tumors. J Clin Oncol; Published online 17 August 2018. DOI:  10.1200/JCO.2018.78.1492

翻訳担当者 山田登志子

監修 河村光栄(放射線腫瘍学、画像応用治療学/京都医療センター放射線科)

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