ダーモスコピーによるメラノーマの早期発見

MDアンダーソン OncoLog 2018年4月号(Volume 63, Issue 4)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

MDアンダーソンの医師らは、医療へき地の臨床医らがダーモスコピーを使用して不要な生検を回避できるよう指導している。

ダーモスコピーと呼ばれる低価格の診断技術は、悪性の皮膚病変、特に早期診断が生存のカギとなるメラノーマ(悪性黒色腫)の診断に有用である。しかしながら、ダーモスコピーの所見を理解するために十分な専門知識と経験を持つ医療提供者のほとんどは大きな皮膚科プログラムに所属しており、医療へき地では専門家不足のため患者に用いることができない。この格差を解決するために、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの皮膚科医らは電子通信を使用して、皮膚がんのスクリーニングにダーモスコピーを使用できるよう、医療へき地の皮膚科研修医を遠隔指導している。

「ダーモスコピーにより医師の皮膚病変の評価能力は大幅に向上し、その病変に生検が必要かどうかを適切に判断することができます」と、皮膚科准教授Kelly Nelson医師は語った。Nelson医師はMDアンダーソンでの診療にダーモスコピーを使用しており、その専門技術を共有するために遠隔指導プログラムを主導している。

ダーモスコピーとは

「ダーモスコピーはメラノーマや非メラノーマの皮膚がんの診断の正確性を高める、比較的簡単に扱えて安価なツールです」と、Nelson医師は語った。

ダーモスコピーでは、臨床医はダーマトスコープと呼ばれる明るい照明付きの手持ち式10倍拡大鏡を使用して皮膚病変を評価する。ダーマトスコープは血管や色素沈着の詳細なパターンを鮮明に示し、色や形の不均整さや乱れのような悪性のサインだけでなく、普通の皮膚病変の特徴も理解しやすくする。瘢痕化や線維化、炎症に関係する、過渡期の構造と呼ばれる病変部の皮膚構造を照らすには、通常の可視光でなく偏光を使用することも可能である。

ダーマトスコープによってより鮮明な画像が得られるだけでなく、医師が後に参照することができる質の高い写真を撮ることができる。「皮膚がんの診断能力の向上には、標準的な臨床写真だけでなく、何か予期しなかったことが起こったときにそれまでの記録を参照できるように、一連の臨床ケアにおける観察をダーマトスコープによる撮影で微視的に捉えることが必要です」とNelson医師は語った。

より良い皮膚病変の評価技術により、より適切な皮膚生検の選択が可能になる。特にダーモスコピー技術を熟練することで正常な皮膚細胞増殖の生検回数を減らすことが可能になり、それによって傷跡や患者の不安、経済負担を軽減できる。ダーモスコピーにより、生検が必要な部位とその病変に対する最も適した生検技術を選択することができる。

Nelson医師は、広範囲に赤く腫れた非悪性の皮膚細胞増殖を切除することについては、適切な医療ケアであると言及した。「ダーモスコピーの目的は良性の皮膚増殖切除を完全になくすことではありません。医師が確実ではないという理由で生検を行う病変部を減少させるために、診断全般の正確性を向上させることです。」

ダーモスコピーにおける遠隔指導の役割

ダーモスコピーを診療所に導入するためには教育が必要である。MDアンダーソンのMelanoma Moon Shotプログラムは、コミュニティヘルスケアアウトカム講座(ECHO)プロジェクトと呼ばれる遠隔指導を通じて、ダーモスコピーの技術共有を主導している。ECHOプロジェクトは2003年にニューメキシコ大学で始まり、2014年にMDアンダーソンに導入された。このプロジェクトでは、MDアンダーソンの専門家と医療へき地の医療提供者をパートナーとして組み合わせ、がん医療に関する様々な内容を遠隔で指導している。(Useful Resources: Videoconferences Allow Collaboration in Cancer Prevention, Treatment, Survivorship, OncoLog, January 2018 参照)

現在、ECHOプロジェクトはNelson医師らによる毎月の教育講演という形式で、テキサス州の6つとミズーリ州の1つの皮膚科研修医のプログラムで、メラノーマの早期診断教育を提供している。それぞれの講義はダーモスコピーに関する特定のトピックに重点が置かれ、その講義の効果はそれぞれのセッションの前後に、参加者に一連のダーモスコピー画像を用いた小テストに回答してもらうことによって評価管理されている。

「我々皮膚科医はパターン認識を通じて学ぶため、たくさんの写真を見ます。我々は特殊なタイプの病変について医師が記憶から参照できる資料を提供しようとしています」とNelson医師は語った。

今後の取り組み

MDアンダーソンのECHOプロジェクトは今後ますます多くの皮膚科研修医指導プログラムと提携する予定であると、Nelson医師は語った。また、この取り組みでは他のプログラムが単独で行うことができる教育内容を作成しようとしている。

また、次の2~3年の間の取り組みの中に、かかりつけ医師のためのオンラインのダーモスコピーカリキュラムもある。Nelson医師は、忙しい医師でも効率的に学べ、皮膚診断を行うスキルを向上させるのに有効なカリキュラムを構想している。

「テキサス州とそれ以外の地域でもメラノーマの死亡率を改善するために、かかりつけ医のメラノーマスクリーニング技術をサポートできるよう、彼らとの関係を構築することが必要です」とNelson医師は語った。

写真キャプション】

左:患者の左上腕にうっすら見えるわずかなピンク/茶色斑は色素性基底細胞がんまたは早期のメラノーマを示唆した。
右:ダーモスコピーにより、5時方向に色素網の蓄積を伴う全体的に組織の乱れた病変と、中央に様々な大きさと色の小球を伴うピンクの領域を確認した。ダーモスコピーの所見は早期のメラノーマを示唆するもので、これは切除生検によって確定された。写真はKelly Nelson医師により提供された。

For more information, contact Dr. Kelly Nelson at 713-792-6800 or kcnelson1@mdanderson.org.

For those interested in the application of communications technology in dermatology, MD Anderson will host the 7th World Congress of Teledermatology November 17–18, 2018. For more information, call 713-794-1724 or visit https://teledermatology2018.info.

The information from OncoLog is provided for educational purposes only. While great care has been taken to ensure the accuracy of the information provided in OncoLog, The University of Texas MD Anderson Cancer Center and its employees cannot be held responsible for errors or any consequences arising from the use of this information. All medical information should be reviewed with a health-care provider. In addition, translation of this article into Japanese has been independently performed by the Japan Association of Medical Translation for Cancer and MD Anderson and its employees cannot be held responsible for any errors in translation.
OncoLogに掲載される情報は、教育的目的に限って提供されています。 OncoLogが提供する情報は正確を期すよう細心の注意を払っていますが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターおよびその関係者は、誤りがあっても、また本情報を使用することによっていかなる結果が生じても、一切責任を負うことができません。 医療情報は、必ず医療者に確認し見直して下さい。 加えて、当記事の日本語訳は(社)日本癌医療翻訳アソシエイツが独自に作成したものであり、MDアンダーソンおよびその関係者はいかなる誤訳についても一切責任を負うことができません。

翻訳担当者 中村 奈緒美

監修 前田 梓 (医学生物物理学/トロント大学)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

皮膚がんに関連する記事

進行メラノーマに初の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法をFDAが承認の画像

進行メラノーマに初の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法をFDAが承認

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ米国食品医薬品局(FDA)は30年以上の歳月をかけて、免疫細胞である腫瘍浸潤リンパ球(tumor-infiltrating lymphocy...
進行メラノーマにペムブロリズマブ投与後わずか1週間でFDG PET/CT検査が治療奏効を予測かの画像

進行メラノーマにペムブロリズマブ投与後わずか1週間でFDG PET/CT検査が治療奏効を予測か

米国がん学会(AACR)ペムブロリズマブの単回投与後のFDG PET/CT画像が生存期間延長と相関する腫瘍の代謝変化を示す 

ペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)の投与を受けた進行メ...
MDアンダーソンによるASCO2023発表の画像

MDアンダーソンによるASCO2023発表

MDアンダーソンがんセンター(MDA)急性リンパ性白血病(ALL)、大腸がん、メラノーマ、EGFRおよびKRAS変異に対する新規治療、消化器がんにおける人種的格差の縮小を特集
テキサス大...
軟髄膜疾患のメラノーマに対する免疫療法薬の画期的投与法は安全で有効の画像

軟髄膜疾患のメラノーマに対する免疫療法薬の画期的投与法は安全で有効

MDアンダーソンがんセンター
髄腔内および静脈内への同時投与により一部の患者の転帰が改善
髄腔内(IT)の免疫療法(髄液に直接投与)と静脈内(IV)の免疫療法を行う革新的な方法は、安全であり、かつ、転移性黒色腫(メラノーマ)に起因する軟髄膜疾患(LMD)患者の生存率を上昇させることが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者による第1/1b相試験の中間解析によって認められた。