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米国国立衛生研究所が33種のがんの徹底したゲノム解析を完了

NCI(米国国立がん研究所)ニュースリリース

米国国立衛生研究所(NIH)による助成を受けた研究者らは、「PanCancer Atlas(汎がんアトラス)」という詳細なゲノム解析を完了させた。PanCancer Atlasは、33種類のがんを示す10,000以上の腫瘍から集めた臨床分子情報のデータセットに基づいている。

 

「本プロジェクトは、10年以上の革新的研究の集大成です」とNIHの所長であるFrancis S. Collins医学博士は述べた。「この解析により、ヒトの体内で腫瘍がどのように、どこで、なぜ発生するのかというこれまで未知であったことが解明され、それによって、情報に基づいたより良い臨床試験や今後の治療が可能になります」。

 

PanCancer Atlasは、一連のCell誌に掲載された論文27報の論文集として出版され、The Cancer Genome Atlas(TCGA、がんゲノム・アトラス)の研究業績をまとめたものである。TCGAは、ともにNIHに属する米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)および米国国立がん研究所(NCI)が主導、助成した多機関共同研究である。総額3億米ドル以上の資金提供を受けたこのプログラムには、北米全土にわたる25以上の機関の研究者150人以上が関わった。

 

「TCGAは、幅広いがん種にわたり、がんを分子レベルで特徴づける、この規模では初のプロジェクトでした」とNHGRIのゲノム科学局ディレクターであり、TCGAのNHGRIチームリーダーであるCarolyn Hutter医学博士が述べた。「10年前のプロジェクト開始当初は、規模も現在ほどのものではありませんでしたし、提案されていた種類の特性評価や解析を実施することさえできませんでした。非常に意欲的なプロジェクトでした」。

 

「PanCancer Atlasの取り組みは、過去10年間でTCGAが出版した30報以上のがんに特化した論文を補完し、2013年に出版された、以前のPanCancer Atlasの業績を拡大しました」とNCIのTCGAプログラムオフィスのディレクターであるJean Claude Zenklusen医学博士は述べた。

 

本プロジェクトは、がんゲノムシークエンスのみならず、遺伝子・タンパク質発現プロファイルの研究、それらと臨床データや画像データとの関連付けなど、さまざまな種類のデータ解析にも注力した。

 

PanCancer Atlasは大きく3つのカテゴリーに分けられ、それぞれのトピックの主要な知見をまとめる要約論文で構成される。3つの主要トピックは起始細胞、発がんプロセス、発がん経路である。複数の掲載論文では、これらのカテゴリー内での個々のトピックにおける詳細な調査が報告されている。

 

第一の要約論文では、分子クラスター形成という技術を用いた一連の解析からの知見を要約している。分子クラスター形成技術では、発現する遺伝子、腫瘍細胞における染色体数異常、DNAの修飾などのパラメータで腫瘍を分類する。この論文の知見から、腫瘍型はそれらの細胞のうち起始細胞となり得る細胞によって集合体を形成すると考えられ、このことから、腫瘍の原発組織ががん特性にどのように影響するかの理解が進み、さまざまながん種に対してより特化した治療が可能になる。

 

第二の要約論文では、がんの発生および増悪につながるプロセスに関するTCGAの知見を幅広い観点から示している。特に、著者らはその知見が3つの重要な発がんプロセスを特定したことに言及した。そのプロセスとは、生殖細胞系列(遺伝的)および体細胞系(後天的)の両方の変異、腫瘍の原因となるゲノムおよびエピゲノムが遺伝子・タンパク質発現に及ぼす影響、そして腫瘍細胞と免疫細胞の相互作用である。これらの知見により、さまざまながんに対する新たな治療法や免疫療法の開発優先が進むであろう。

 

最後の要約論文では、細胞周期進行、細胞死、細胞増殖を制御するシグナル伝達経路でのゲノム変化に関するTCGAの研究について詳述し、さまざまながんにわたって上記プロセスの類似点と相違点を明らかにしている。これらの知見はがんの潜在的脆弱性の新たなパターンを示しており、併用療法および個別化医療の開発に役立つと思われる。

 

PanCancer Atlasを構成する論文の全コレクションは、cell.comのポータルサイトで入手可能である。
さらに、過去10年間の長きにわたるTCGAの取り組み完了を受けて、3日間のシンポジウム「TCGAの遺産:がんにおける複数のオミクス研究」が2018年9月27~29日ワシントンD.C.で開催される。シンポジウムでは、PanCancer Atlasに焦点を当てたセッションを交えて、今後のがんの大規模研究について議論する。このシンポジウムでは、がんのゲノム構造に関する最新の進歩について特集し、治療標的に向けた近年の進展について紹介する。

 

画像キャプション:健康な細胞(ピンクの部分)に囲まれた増殖するがん細胞(紫の部分)、循環系を通じて体内の他の場所に広がる原発性腫瘍のイラスト  画像著作権:Darryl Leja氏[米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)]

翻訳太田奈津美

監修高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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原文掲載日

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