心停止後進行がん患者の生存率の低さ、終末期ケア意思決定の一助に

病院の新しいデータが進行がんのケアプランニングに役立つかもしれない。

ASCOの観点

「この研究は、医師は患者と終末期ケアについて早い段階の率直な話し合いをする必要がある、という事実を強固にしました。進行がん患者でも蘇生を試みることが適切な場合もあるが、患者はすべての事実を知り、前もって自分自身の選択肢を理解するべきです。このようなデータを提示することができれば、時にはつらく感じるような患者やその家族との話し合いに、より大きな本質を与えられるのです」。

研究者らは、入院中に心停止を起こした進行がん患者の生存率は進行がんではない患者の約半分であることを見出した。本研究の進行がん患者は、進行がんでない患者よりも心停止を起こした際に「蘇生不要」指示を示すことが多かったが(55.6%対43%)、これでは生存率の差を十分に説明できない。この新しい研究は、本日Journal of Oncology Practice (JOP)誌に掲載される。

「進行がんの診断を受けることは、重大な決断を下さねばならず、患者とその家族が直面する可能性のある状況のうちの最もつらい場面の一つです。信頼でき、かつ根拠に基づいた情報が、患者、特に効果的な長期間の治療の選択肢を持たない患者が蘇生について決断するのに役立ちます」と、本研究著者でロチェスター大学心臓血管内科フェロー、公衆衛生学修士、Jeffery Bruckel, 医師は述べた。

研究について

研究者らは全米369病院の成人患者47,157人の記録を調べた。彼らは米国心臓協会の“Get With The Guidelines—Resuscitation”に登録され、2006年4月から2010年6月の間に病院で心停止を起こした患者である。後ろ向きコホート試験では、自己心拍再開(ROSC)した割合と生存退院した患者の割合を進行がん患者と進行がんではない患者で比較し、蘇生の質と生存を評価した。コホートの総合解析では、他の蘇生指標に加えて蘇生処置の時間も比較した。

主な知見

これまでの研究では進行がん患者の生存を評価したが、心停止後の生存を全国的な大規模コホート試験で評価したものはない。本研究は、この問題を幅広く見る方法の一つであり、その結果は、厳格に標準化された登録を使用することによってさらに強化されたものになっている。

概して本研究により、進行がん患者は入院中の心停止後の生存退院率が進行がんではない患者に比べで低いことがわかった。

・未調整の自己心拍再開率は進行がん患者で57.5%、進行がんではない患者で63.0%、生存退院患者は9.6%対19.2%であった。

・全体で29,329人(62.2%)の患者は自己心拍再開をとげ、8,431人(17.9%)は生存退院した。

・入院中に心停止を経験した47,517人の患者の中で、6,585人(14.0%)が心停止時には進行がんの診断を受けていた。

・進行がん患者は進行がんではない患者よりも自己心拍再開到達の見込みが7%低い(52.3%対56%)。

・さらに進行がん患者は進行がんではない患者よりも生存退院の見込みが45%低い。

次のステップ

本研究の著者は研究推進のための次のステップは、入院中に心停止を経験した患者の診断されたがんの種類と治療計画のデータを集めることであると確信している。Bruckel医師はさらにこのデータを患者はどのように感じるか、そして患者と医師の両者が意思決定に際してこのデータをどのように用いているかを知ることが重要であると考えている。

「終末期ケアの大きな要素には患者と家族の意思決定が含まれており、その多くは私たちが行う日常的な話し合いによって進められています」とBruckel医師は述べた。「すべての患者が詳細な情報を求めているわけではありません。しかし知りたいと思う患者にとっては詳細な情報を提供することが大切です。われわれが知っていることを伝えることが重要なのです」。

本記事は、Journal of Oncology Practice 誌上に近く公開の特別シリーズEthics in End-of-Life Care(終末期ケアの倫理)の一部である。

翻訳担当者 白鳥理枝

監修 小杉和博(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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