新たな循環腫瘍DNA解析技術によるがんゲノムの探究

がん早期発見のための血液検査に向けた最初の一歩

ASCOの見解

「循環腫瘍DNA分析の用途の可能性について有望な報告が続いています。この方法が、がんの早期発見のための確立された技術となるにはまだ時間がかかりそうですが、この研究はそうした方向への重要なステップです」とASCOエキスパートのJohn Heymach医師は語った。

進行した乳がん、肺がん、前立腺がん患者124人が参加した試験において、新しい高強度ゲノムシーケンシング法が循環腫瘍DNAを高率で検出した。患者の89%において、腫瘍で検出された1つ以上の遺伝子変異が血中でも検出された。この方法で、腫瘍検体中に認められた合計627個の遺伝子変異(73%)が血液検体中にも認められた。

本試験は、本日の記者会見で取り上げられ、2017年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。

高強度シーケンシングを用いて血流中の循環腫瘍DNAからがんを検出するこの革新的な方法は、早期にがんを検出する検査の開発の先駆けとなる。

本試験で使用した高強度シーケンシング法は、比類のない広さと深さを合わせもつ。非常に広範囲のゲノム(508の遺伝子の200万個以上の塩基対つまりゲノムの文字であるA、T、C、G)を高精度(ゲノムの各領域を60,000回読み取る)でスキャンし、他のシーケンシング法の約100倍のデータが得られる。この大量のデータは、がんの早期検出のための血液検査の開発に貢献するだろう。

しかし、この方法はリキッドバイオプシー(市販の検査も含む)とは異なる。リキッドバイオプシーは、疾患の経過観察や、承認済の薬剤の適応や臨床試験への適格性のために“意味のある”遺伝子異常の検出が目的で、すでにがんと診断されている患者のゲノムのほんの一部の特性しかわからない。

「私たちの発見は、高強度循環腫瘍DNAシーケンシングが可能であり、腫瘍組織検体がなくても臨床診断のための貴重な情報を得ることができること示しています」と、ニューヨーク州ニューヨークのスローン・ケタリング記念がんセンター(MSKCC)の腫瘍内科医および内科指導医でこの研究の主執筆者であるPedram Razavi医師は述べた。「本試験は、がんの早期検出のための血液検査の開発プロセスにおける重要なステップでもあります」。

循環腫瘍DNAとは、死にゆくがん細胞が血液循環中に放出する遺伝物質の微小片を表す。循環腫瘍DNAから腫瘍ゲノムの全体像を描くために、科学者らは各小片を“読み取り”、これをパズルのようにつなぎ合わせる。循環血液中に存在するDNA断片(セルフリーDNA)の大半は正常細胞に由来し、腫瘍細胞由来の循環腫瘍DNAはそのごく一部にしか過ぎない。

本試験について

転移性乳がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、または去勢抵抗性前立腺がんの患者161人から、血液および組織検体をあらかじめ採取した。腫瘍またはセルフリーDNA(訳注:細胞から放出され血液中に“フリー”の状態で存在するDNA断片)検体の遺伝子解析の結果が得られなかった患者37人は除外した。両者の比較検討が可能な124人について、腫瘍中の遺伝子変異と、血液検体から得た循環腫瘍DNAの変異とを比較した。

腫瘍組織の分析にはMSK-IMPACT™を用いた。これは410個の遺伝子を診断する検査で、患者のがんについての詳細な遺伝子情報が得られる。各血液検体について、血液の液体部分である血漿と血球成分を分離した。その血漿から抽出したセルフリーDNAと、これとは別に白血球ゲノムについて、高強度508遺伝子シーケンシング検査を用いて配列決定した。

「血中で腫瘍DNAを見つけるのは、干し草の山の中から針を見つけるようなものです。DNA断片100個あたりに含まれる腫瘍由来の断片は1つあるかないかで、残りは主に骨髄細胞などの正常細胞に由来します」とRazavi医師は語った。「セルフリーDNAと白血球細胞DNAを合わせて解析すると腫瘍DNAの同定感度が非常に高くなり、同じ領域のシークエンシングを何度も行うディープシークエンシングも希少な腫瘍DNA断片を見つける上で役に立ちます」。

患者の腫瘍にはさまざまな遺伝子変化があるかもしれない。一つの腫瘍の異なる部分には異なる変化があるかもしれず、同様に、腫瘍が体内に広がっている場合には異なる部位に異なる変化があるかもしれない。このような理由から、ゲノムの非常に広い領域の配列決定は、腫瘍に含まれる遺伝子変化の数の多さと多様性を明らかにするために非常に重要である。

主な知見

患者の89%で、腫瘍で検出された1つ以上の遺伝子変化が血中でも検出された(転移性乳がん患者で97%、NSCLC患者で85%、転移性前立腺がん患者で84%)。腫瘍組織内のほぼすべてのがん細胞に存在するすべてのゲノム変化(クローン性変化)とがん細胞の一部のみに存在するすべてのゲノム変化を含めて、全体として、上述した3疾患の腫瘍の組織検体から検出された遺伝子変化は合計864個で、そのうち血液中でも検出されたものは627個(73%)であった。

重要なことに、腫瘍組織の分析から得られる情報があらかじめなくても、組織中で検出された“意味のある”変異(承認済みあるいは臨床試験で検討中の分子標的治療の適応となる遺伝子変異)の76%は、血液中でも検出された。

「この分野の過去の研究では主に、循環腫瘍DNAの中の特定の変化を同定するために、腫瘍組織シーケンシングから得られた情報を用いることに重点が置かれていた。今回の方法では、腫瘍組織からの情報がなくても、ゲノムの広い範囲から循環腫瘍DNAの変化を高い信頼性で検出することができる」とRazavi医師は述べた。すでに、ごく一部のがん遺伝子を標的とする循環腫瘍DNA検査が治療法を決定するためのルーチン検査として使用可能となっているが、もっとたくさんのがん遺伝子をカバーできれば、この高強度シーケンシング法によってがんの早期発見のための検査を開発できるかもしれない。

次のステップ

本試験で使用した高強度シーケンシング法は研究プラットフォームであって、患者用に市販することを目的としたものではない。この検査法の現在の性能と能力を明らかにするために、この検査法をまず、循環腫瘍DNAの特性がすでに解明されている進行がんで検証した。

「本試験は、がんの早期発見のための血液検査としていずれ用いられることになるであろう将来の検査の技術開発について情報提供します。がんのスクリーニング検査を受けている患者の腫瘍組織は入手できないので、組織の分析結果が事前にわからない状態で循環腫瘍DNAの変化を検出する必要があるでしょう」とRazavi医師は語った。

リキッドバイオプシーの利点

ゲノム変異はひとつの腫瘍内であっても場所によって異なることがあり、がんが体内に広がっていれば臓器によっても異なる可能性がある。循環腫瘍DNA検査では、原発巣と転移巣を含めたすべての遺伝子変化を“ひとまとめに要約して”知ることができる。これに対して組織生検では、一般に腫瘍のほんの一部分しか採取せず、がんの進展の鍵となる遺伝子変化を見逃す場合もある。

リキッドバイオプシーのもう一つの利点は、リアルタイムでゲノム変化を捕えられることで、治療計画を立てる際に従来行われてきたような組織生検を追加する必要がない。ゲノム変化は、がんの増殖、拡大とともに進化する。新たに加わった変化ががんの再発や治療抵抗性の原因となる可能性もある。リキッドバイオプシー検査に必要なのは採血だけである。採血は一般に安全で繰り返し行いやすく、新たな変異の出現を追いかけるのに適している。

本試験はGRAIL, Inc.社から一部資金提供を受けた。

要約全文はこちらを参照のこと。

翻訳担当者 粟木 瑞穂

監修 田中 文啓(呼吸器外科/産業医科大学)

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原文掲載日 

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