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不安神経症とうつ病はがん死のリスク上昇と関連

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不安神経症とうつ病はがん死のリスク上昇と関連

英国医療サービス(NHS)

「うつ病は、高いがん死亡率と関連する」とインディペンデント紙が報道した。イングランドとスコットランドのデータを解析したところ、精神的苦痛とがん死との間に関連性が認められた。この関連性は、喫煙などの精神的苦痛以外の因子を考慮した後でも依然として認められた。

 

しかし、精神衛生上の問題を抱える人の多くが、がんを発症する、あるいは精神的苦痛ががんを誘発するという意味ではない。

 

研究者らは、精神的苦痛を有する人のうち、大腸がん(最も一般的ながんの1つ)で死亡したのは8%にすぎなかった、と語る。

 

精神的健康が、がん死リスクに影響を及ぼし得る理由は多い。研究者らは、たとえば喫煙や運動との関連性など、これらの理由についても考慮するよう試みた。しかし、がんの症状について相談する決断など、それ以外の因子についての情報はなかった。精神的苦痛を有する人は、 診断が遅れるか、治療を遵守する傾向がより低い可能性がある。

 

がんとの生物学的関連性があると考えられるものには、心理的ストレスによる体内の炎症レベルの上昇などがある。

 

本試験が提起する重要な点は、身体的健康と精神的健康は根本的なレベルで関連しているという点である。精神的不健康は身体的な影響を及ぼす可能性があるが、またその逆もあり得る。

 

うつ病と不安神経症は、治療が可能であり治療すべき疾患である。あなたやあなたの知人が精神的苦痛に悩まされているならば、かかりつけ医に相談してください。

 

研究の出典

本試験はUniversity College London、エディンバラ大学(Edinburgh University)、およびシドニー大学(the University of Sydney)の研究者らにより行われた。本試験は特定の出資を受けていない。本試験は、論文審査のあるBritish Medical Journal (BMJ)誌で公表された。この公表はオープンアクセスなので、オンライン上にて無料で読むことができる。論文ページへ

 

メールオンライン紙、サン紙、およびインディペンデント紙は、本試験についておおむね正確な報道を行ったが、不安神経症とうつ病はがんの大きな危険因子であると示唆しており、この報道は本知見を誇張する傾向にあった。

 

デイリー・テレグラフ紙は、「診断結果に心を痛めた人はがんで死亡する可能性が32%高くなる」また「前向きでいることが、がんと闘う最善の方法であろう」と述べており、本試験について完全に誤解していた。

 

しかし、本試験では、がんの診断を受けていなかった人の精神的健康を調べており、平均で10年間の追跡期間中に彼らががんにより死亡する可能性について記録した。デイリー・テレグラフ紙が報道するように、対象の診断に対する反応、あるいは彼らが「心を痛める、あるいは引きこもる」かどうかについて、本試験では調べていなかった。また、「前向きでいることが、がんと闘う最善の方法であり得る」という主張は、がんで死んだ人が「十分な努力をしなかった」と暗示しているために、無神経でかつ侮辱的であると言ってよい。

 

4つのメディア支局すべてが、ニュース記事の挿絵として「ヘッド・クラッチャー(head-clutcher)」の写真(両手で頭を抱えている人の画像)を用いた。Time to Change(精神的健康の汚名返上に取り組む団体)は、メディアに対し、精神的健康に関する記事の挿絵に、お決まりのものではない他の画像の使用を要求してきた。

 

このような画像は、うつ病と不安神経症は顕著な身体的症状を呈す、あるいは病的な思考パターンを呈す可能性のある疾患という間違った印象を強めてしまう。多くの場合、いずれかの症状を呈する人は、他人からは健康にみえることがある。

 

研究の種類

本試験は、16の前向きコホート研究から得たデータのメタ解析である。16の前向きコホート研究はすべて、ある時点での精神的健康を調査し、その後どの種のがんで死亡したかを含め、対象に起きたことについて平均で10年間にわたり追跡調査を行った。

 

この種類の試験では、因子間の関連(この場合では、精神的苦痛と後のがん死との関連)を示すことができるが、ある因子が他の因子の原因となることについては明らかにはできない。

 

研究内容

研究者らは、イングランドとスコットランドの16歳以上の成人を対象とした16の地域ベースの研究から得た個々の患者データを利用した。本試験は、1994~2008年の間に行われ、対象者にさまざまな質問を行い、心理的苦痛に関する質問票も取り入れた。また、対象者に自身の記録とがん死登録 (cancer death registry )(スコットランドではがん診断登録[cancer diagnosis registry])との関連付けを行ってもよいかどうか尋ねた。

 

心理的苦痛に関する質問票に記入した対象者の記録および、がん登録制度への参加に合意した対象者の記録を検討し、精神的苦痛とがん死との間に関連性があるかどうかについて確認した。

 

この質問票(精神健康調査票あるいはGHQ12)は、対象が不安神経症あるいはうつ病の症状を有しているかどうかについて評価するために、12の質問を行っている。回答によって対象を4群(全く症状が認められない~症状レベルが高い)に分類した。しかし、この分類は不安神経症あるいはうつ病の診断をするものではない。

 

研究者らは、程度の差はあるものの特定の種類のがんが、精神的健康に関連しているかどうかの検証を望んでいた。そのために、全がん死についての解析だけではなく、登録したがん種それぞれ(50件以上の死亡が発生した場合)についても解析を行った。

 

可能性のある交絡因子を考慮するために数値を補正した。交絡因子は下記の通りである。

  • 年齢
  • 性別
  • BMI
  • 学業成績
  • 喫煙
  • アルコール摂取

さまざまな感度分析を行い、未診断のがんにより対象の精神的苦痛が引き起こされた可能性を回避する目的で、5年以内に死亡した対象を除外した。

 

結果

精神的苦痛が最高レベルの対象は、最低レベルの対象と比較した場合、次の原因で死亡した傾向が強かった。すなわち、

  • 大腸がん(ハザード比 [HR] 1.84, 95% 信頼区間[CI] 1.21 to 2.78)
  • 前立腺がん(HR 2.42, 95% CI 1.29 to 4.54)
  • 膵がん(HR 2.76, 95%Ci 1.47 to 5.19)
  • 食道がん(HR 2.59, 95%CI 1.34 to 5)
  • 白血病(HR 3.86, 95% CI 1.42 to 10.5)

 

全種類のがんを合わせて検討すると、精神的苦痛レベルが最高の対象は、がんで死亡する可能性が32%高かった(HR 1.32, 95% CI 1.18 to 1.48)。

 

肺がんおよび喫煙に関連するがんは、かつて研究者らが喫煙の影響について補正を行っていたものの、精神的苦痛に関連がなかった。

 

結果の解釈

研究者らは、この知見は、「がんの原因(因果関係)およびがんの進行における心理的苦痛に対する理解を進める上で重要であろう」と語る。この結果において、心理的苦痛により特定のがん種による死亡の可能性が予測できることが示されるが、このことは不安神経症とうつ病が、がんの直接の原因であることを意味するわけではない、とも語る。

 

また、喫煙や肥満と比較した場合、がん死の予測因子としては、精神的苦痛の「感度」は低い、とも語る。しかし、特定のがんを発症するリスク、あるいはがんを克服した時期を調べる目的では、心理的苦痛は1つの危険因子として考えることが出来る、とも語る。

 

結論

このような試験は、精神的健康上の問題を有する人およびその家族や友人にとって苦痛であり得る。不安神経症やうつ病は一般的な疾患ではあるが、その患者ががんを発病、あるいはがんにより死亡するということではないと指摘することは重要である。精神的健康上の問題によりがんのリスクが高まる可能性はあるが、がんのリスクは複雑である。がんのリスクには、遺伝子、環境、および生活習慣などの多くの因子が含まれる。

 

本試験によって、精神的苦痛ががんの原因、あるいはがん死の原因であるかどうかについては分からなかった。精神的苦痛はそれ以外の交絡因子を反映している可能性がある。たとえば、精神的不健康である人は食生活が貧しい可能性があり、食生活はがんに関連している。あるいは、精神的苦痛は身体的不健康の結果である可能性がある。そして、身体的不健康は、それ自体でがん死の可能性を高める可能性がある。

 

たとえ、精神的苦痛とがんに因果関係があるとしても、このことはさまざまな理由から起こっているかもしれない。精神的健康ががんに及ぼす直接的影響についての理論には、通常、われわれをがんから守るホルモンおよび免疫系に対しストレスが及ぼす影響が含まれている。しかし、がん検診を受診の有無などの挙動因子は、精神障害が、がんを克服する可能性に対して間接的な影響を与えうることを示している。

 

がんとの関連性とは無関係に、不安神経症およびうつ病はかなりの苦痛を引き起こす重篤な疾患である。

 

話し合い療法および薬物療法などの治療が有用であり、多くの人の役に立っている。

 

後になってから治療ががんの見込みに影響を及ぼす可能性があろうとなかろうと、精神衛生上の問題を相談することは、それ自体に価値がある。

 

原文掲載日

翻訳三浦 恵子

監修太田真弓(精神科・児童精神科/さいとうクリニック院長)

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