2011/04/19号◆スポットライト「創薬に向けた自然の神秘の探求」 | 海外がん医療情報リファレンス

2011/04/19号◆スポットライト「創薬に向けた自然の神秘の探求」

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2011/04/19号◆スポットライト「創薬に向けた自然の神秘の探求」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年4月19日号(Volume 8 / Number 8)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

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◇◆◇ スポットライト ◇◆◇

創薬に向けた自然の神秘の探求

サンゴ礁という競争の激しい環境に住む繊細なホヤや、固着生活をする海綿動物などの海洋性無脊椎動物は、身を守るための独創的な方法を見つけなければならない。一部の生物種では、有毒化学物質を蓄積することで生命を維持している。NCI-フレデリックにある Natural Products Branch(天然資源支部、NPB)の研究者は、このような海洋生物や他の植物、動物、微生物などから得られる化学物質を創薬目的で利用する方法を探っている。

薬剤開発における天然資源への関心は高まったりすたれたりが繰り返されてきたが、腫瘍学におけるその重要性は否定できない、と天然資源支部長Dr.David Newman氏は述べた。現在、癌の治療目的で承認された薬剤の半分以上が天然物かそのプロトタイプに由来している。

NCI-フレデリックの研究者らは、天然資源の生理活性のある毒性化合物を探し出し、必要に応じて複雑な分子構造を単純化しつつその効能を維持するようこれらの化合物を加工するのだ、とNewman氏は説明した。天然資源支部は他のNCIプログラム、学界や製薬業界の共同研究者、天然資源を供給する国の政府などと連携しており、共同研究者と共にどの段階でも製品開発に参加する。

生物製剤の探索

NCIのDevelopmental Therapeutics Program(創薬プログラム、DTP)に属する天然資源支部は50年以上前から存在している。化合物を収集し、抽出するプロセスは25年前にシステム化され、基本的にはそれ以来変わっていない(添付された動画を参照)。

海洋性無脊椎動物、植物、微生物などの生命体が世界中から採集されてNCI天然資源支部に送られ、ここでNCI-60パネルのヒト癌細胞株を用いたスクリーニングにより抗癌活性を有する化合物の探索が行われる。DTPにも管理されているこのNCI-60とは、白血病、黒色腫、肺癌、大腸癌、脳腫瘍、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、腎臓癌などのモデルとなっている60の異なったヒト腫瘍細胞株を用いて、合成および天然物のサンプルそれぞれの精査が可能なプロジェクトである。

抽出プロセスの最初の手順は、生命体を粉砕して抽出ラボに送ることで始まる。次に溶媒を加え、2種類の抽出物を作成する。片方は水溶性の化合物を含み、もう一方は非水溶性の物質を含む。Newman氏は、さまざまな本を所蔵する図書館のように、どの抽出物にも約50~100種類以上の化合物が含まれる可能性があると説明した。

「われわれは、どの本がどの標的について述べているのか、またどの本に物語があるのかわかりません」とNewman氏は述べた。研究室で抽出物をNCI-60パネルの細胞株でスクリーニングし、そのうち特に有望なものは抗癌作用の有無を調べるために、種々の動物モデルの腫瘍で実験する。

彼らが’当たり’の抽出物を見つけたら、分離を行う研究室に送り、化合物の図書館の中のどの本がその抽出物の生物学的な活性に関与しているかを同定する。研究者は、生理活性ドリブンのクロマトグラフィー(bioactivity-driven chromatography)と呼ばれるプロセスにより、個々の化合物を抽出物から分離する。化合物が純物質の状態になったら、最先端の計測技術で分析し、その化学構造を明らかにする。これには、化合物の大きさや分子量を調べる質量分析法、分子内の原子がどのように結合しているかを明らかにする核磁気共鳴分光法などが含まれる。

天然化合物の複雑性を解明する

天然由来の化合物は非常に複雑な構造をしていることが多い。約10年前にクロマトグラフィーをベースとする新たな分析技術が登場するまでは、1つの化合物を分離して同定するまでに6カ月から1年ほどかかることもあった。天然資源の研究はペースが遅いという批判があったと、Newman氏は説明した。現在、研究者は多くの場合1、2週間で答えを得ることができる。さらにこのような進歩によって、今日発見される物質は、より早く治療薬として開発および検証が可能となった。

【You Tube動画 Sarah Curry氏製作】

もう1つの障壁は、創薬プロセスを継続するためにはもととなる十分な資源を発見しなければならないことである。自然界から持続可能な資源の発見が必要であるため、研究者の焦点は海洋性無脊椎動物などの目に見える大きさの生物(マクロオーガニズム)から、研究室で培養可能で、大量の化合物を産生させるよう誘導し持続的な供給源となりうる微生物(マイクロオーガニズム)にシフトしてきた。

「これによって供給の問題は解決しましたが、本当に複雑な化合物の問題にはまだ取り組めていません」と、長年この分野の研究をしているユタ大学薬学部の学部長であるDr. Chris M. Ireland氏は述べた。

化学者の中には、組合せ化学(コンビナトリアルケミストリー)が産業界で軌道に乗り始めた1990年代に、天然物から得られた分子と類似した分子の「図書館」を作るのに、これを利用できると考えた人もいた。研究者は、組合せ化学のおかげで異なっているが構造的に類似する多数の化合物を作り出せるようになった。しかし、これはまだ天然物に見られる構造の複雑性と多様性を示すまでには至っていない。「しかし、組合せ化学がすばらしいところは、活性構造をつかんでそれを加工するところです」とNewman氏は述べた。

「それがまさにハーバード大学と、製薬会社であるエーザイ株式会社がハリコンドリンB(有望な抗癌作用を示した深海の海綿由来の天然化合物)を用いて行ったことなのです」と彼は続けた。

深海の海綿が抗癌剤を産み出した

抗癌剤のエリブリンメシル酸塩(商品名Halaven)はハリコンドリンBをモデルとしている。エリブリンは、微小管(細胞分裂中の染色体の移動を助ける細胞組織)の重合と分解を阻害する。ビンカ・アルカロイドやタキサンのような抗癌剤も微小管を阻害する。しかし、エリブリンにはチューブリンとの間にユニークな相互作用を有し、初期の動物実験において、エリブリンはその原型となる天然化合物のハリコンドリンBや、広く使用されるパクリタキセルよりも乳癌と肺癌に効果があることがわかった。

ほぼ30年におよぶエリブリンの研究の歴史は、有機合成化学の基礎研究に基づいている。1982年に日本の研究者が最初にハリコンドリンBを分離した時、このような複雑な化合物の合成バージョンを開発する見通しは当時の技術では不可能だとされていた。しかし1987年にハーバード大学、化学および化学生物学科の研究者である岸義人教授らがこの難題に取り組むことを決意した。

岸氏は、この化合物は、彼らが発見した新たな炭素-炭素結合形成反応の可能性を示すのにふさわしい候補であると考えた。また、ハリコンドリンBは一部のヒト腫瘍のマウスモデルで抗腫瘍活性を示していた。

1992年までに、ハーバード大学のチームはこの複雑な分子の全合成を達成した。「ハリコンドリンBの右半分が、われわれが探し求めていた(抗癌)特性を有することを偶然発見したので、特許の申請をしました」と岸氏は述べた。

岸氏はエーザイの化学者や生物学者と共に研究してハリコンドリンBの合成法を変化させ、最終的にエリブリンの合成法にたどりついた。この過程で彼らは200以上の誘導体を作り出した。「これまでにない複雑な構造のため、エリブリンの開発をさらに進めることについて、エーザイには内外から懸念がありました」と岸氏は説明した。

一方NCIフレデリックの天然資源支部の研究者は、ハリコンドリンBを産生する海綿から極めて少量採取される物質から、生理活性を有するこの化合物を分離する研究を独自に行っていた。その化合物はのちに初期の前臨床評価で承認された。

1998年にNPBとエーザイは双方の研究成果を統合し、エーザイの2種類の最良の合成化合物と、精製した天然ハリコンドリンBのうちいずれが動物モデルにおいてもっとも良い成績を上げるかを評価した。

「エーザイの1つの化合物が他の2つより優れており、NCIとエーザイは共同研究および開発契約を結び、第1相臨床試験が2001年に始まりました」とNewman氏が詳しく述べた。この有望な試験結果により、エーザイは本格的な臨床開発を始めることとなった。

去年11月にFDAは、2種類以上の化学療法を受けた後期の転移性乳癌患者の治療薬としてエリブリンを承認した。(詳細は2011年3月22日号癌研究ハイライト記事を参照)

海洋生物由来の薬剤の明るい未来

Newman氏とIreland氏は、ハリコンドリンBの構造が複雑なため、合成化学者は誰もエリブリンを産み出したこの化合物や、さらに言えば(もともとタイヘイヨウイチイの木から開発された)パクリタキセルの創薬を夢見ることなど「まったく想像もつかなかっただろう」と認めている。エリブリンは現在、非小細胞肺癌、前立腺癌、膀胱癌などの固形腫瘍の治療に使用できるかどうか、その可能性を試験中である。

しかしエリブリンは、海洋資源から作られた抗癌剤として承認されたものとしてはまだ2番目である。もう1つはトラベクテジン(商品名:Yondelis)で、2007年にEUによって軟部組織肉腫の治療目的で承認された。「これらの薬剤がほんのここ数年で出てきたという事実は、大きな進歩です」とIreland氏は述べた。「資源としての海洋生命体の未来は明るいでしょう」。

「自然がわれわれにユニークな化学物質を与えてくれるという実感があります」とIreland氏は述べた。「そして現在、われわれには自然が与えてくれた分子を収集し、その構造を最大限に利用して何世紀にも渡って存在する病気の治療薬を作るための手段があります」。

— Sarah Curry

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山本 容子  訳

橋本 仁(獣医学) 監修

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