NCI臨床試験プログラム改革の概要

米国国立がん研究所(NCI)ニュース

原文掲載日 :2014年4月4日

臨床試験改革の必要性

臨床試験は、科学的発見を癌予防や治療に変化させる重要なステップである。米国国立癌研究所(NCI)は半世紀以上に渡って、国内や世界中の臨床試験を支援してきた。臨床試験とそれに参加する患者は、国家的癌プログラムに欠くことのできない要素である。 NCIの援助を受けて臨床試験を行っている団体で現在進行中の改革について概説する。

共同グループ

米国内の主要な臨床試験団体である、臨床試験共同研究プログラム(Clinical Trials Cooperative Group Program)はこれまで発展してきたが、その基本的なデザインは55年間ほとんど変化がないままである。 癌についての科学的理解の進歩に合わせて臨床試験のペースを維持しなければならないという認識のもと、米国医学研究会(Institute of Medicine:IOM)は2010年、NCIの要望で臨床試験をより効率的にデザインし、総括し、実行するために必要なシステムの改革の枠組みを報告した。

IOMの報告書と全米の臨床研究者の助言をもとに、NCIは新たにNational Clinical Trials Network(NCTN)を組織した。 NCTNは、これまでよりグループ数を減らし、一つ一つを大規模な研究者グループとし、効率よく資源を分配することにより癌の臨床試験のスピードと効率を向上させる。 NCTNは新しいネットワークの臨床試験グループの業務や統計解析に対する補助金の援助のほか、中央化された治験審査委員会(IRB)への資金、相補的な試験(バイオマーカー、画像、生活の質に関する試験の資金提供プログラムを通じて)への資金、Lead Academic Participating Site(LAPS)やIntegrated Translational Science Awards(ITSA)などNCTNのために創設された補助制度への資金、本ネットワークの基盤(薬剤提供や規制に対する措置)を支援する追加契約への資金を提供する。

現在のNCIの活動のための予算状況(2010年度予算よりも低いが適切なレベル)にもかかわらず、臨床試験に対する金銭的な支援は十分保てている。 2013年度予算では、今回の国家的臨床試験プログラムを、予算執行差し止め手続き(sequestration)に関わらずいかなる予算削減をも受けない分野であるとNCIが特定した。 今年度(2014年)予算では、臨床試験に対する資金レベルは2013年度と同じである。

NCTNに対する正式な助成は数週間以内に実行される予定である。 NCTNが臨床試験を施行できる限度は、より高額になる必要経費、および生物医学分野のインフレーションにより制約される大規模なプログラムを支援することの難しさを反映したものになるだろう。 資金提供される試験数やネットワークにおける総組み入れ人数(介入試験で約17,000人、腫瘍をスクリーニングする分子バイオマーカー試験で約2,500人)はこれまでよりも少なくなるだろう。 これらの優遇処置は、臨床試験を開発し実施している学術団体に、患者一人当たりに支払われる償還金をより高額で提供するために必要であり、このことはIOMの報告書でも推奨されている。(償還金は、ネットワークを通じて臨床試験に組み入れられた50%の患者において、一人当たり4,000ドルであり、以前は2,000ドルであった。)

コミュニティに基づいた臨床試験

NCIは、癌患者のほとんどが治療を受け、その後も継続的に診療を受けているコミュニティでの臨床癌研究にも数十年にわたり注力してきた。 Community Clinical Oncology Program(CCOPs)、Minority-based Community Clinical Oncology Program(MCCOPs)、NCI Community Cancer Centers Program(NCCCP)などのプログラムを利用して、NCIは最新の臨床研究を全米で利用できる方法を新たに開発し、維持してきた。

コミュニティでの診療が臨床試験への窓口となっていることは、ほとんどの患者が診療を受ける場面で有望な新しい治療を試すために必要不可欠な意味合いを持つ。 腫瘍学の進歩速度は速いので、コミュニティでの診療も迅速に適応しなければならず、コミュニティでの臨床試験の実施方法の変革が必須である。そこでNCIはいくつかの既存のコミュニティに基づいたプログラムを、NCTNを通じて利用可能な知的資源、実施資源の恩恵を受けられるように、NCI Community Oncology Research Program(NCORP)に統合しようとしている。

NCORPはNCI NCTNの欠くことのできない構成要素としてデザインされている。 NCORPは個々の患者の生活するコミュニティでの癌の制御、予防、検診、治療、診療提供に関する臨床試験へのアクセスを提供することになる。NCORPは、計画段階での多くの部署からの助言どおり、CCOPs、MCCOPs、NCCCPを通じて以前に出資された機関や新しく出資された施設のいくつかより構成される予定である。

NCORPへの移行中、NCORP助成制度とうまく競合する既存の機関で混乱が起こるのを避けるため、期限の2014年9月までにほとんどの助成制度について案内出来ると考えている。 NCORPの助成制度とうまく競合しない既存の機関は、業務を円滑に中止するための支援を受ける予定である。 これまでのNCIの活動と同様に、今回の再編成によりどの患者も試験から除外されることはなく、既存の試験への登録は継続される。 NCIの長期的目標が、コミュニティに基づいた強力な臨床研究のプログラムを維持することであるということに変わりはない。

詳細は以下サイト
http://www.cancer.gov/newscenter/newsfromnci/2014/NCTNlaunch

原文

翻訳担当者 野長瀬祥兼(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

監修 原野謙一(腫瘍内科/日本医科大学武蔵小杉病院 )

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