OncoLog 2014年1月号◆医学の進歩が変える胆管癌治療

MDアンダーソン OncoLog 2014年1月号(Volume 59 / Number 1)

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医学の進歩が変える胆管癌治療

胆管癌で最も多い胆管細胞癌は、早期では臨床症状がほとんどない疾患である。患者の多くは病気が進行しており、予後は不良である。

実際、進行した胆管細胞癌患者の全生存期間は平均でわずか1年である。しかし、診断法、放射線療法、外科的切除術、分子標的薬療法の進歩によって、この疾患をもつ患者の予後は改善しつつある。

分類とステージ

胆管細胞癌は、解剖学的な部位に基づいて、肝内胆管癌、肝門部胆管癌、肝外胆管癌に分類される。腫瘍部位の重要性は、対がん米国合同委員会(AJCC)が2009年に策定した胆管細胞癌の病期分類第7版でのステージの大幅な変更に反映されている。テキサス大学MDアンダーソンがんセンター腫瘍外科部門准教授であるThomas Aloia医師は、この改訂版を作成した委員会に参加した。同医師によると、「この新たな分類体系では、3つのカテゴリを1つの疾患としてまとめるのではなく、各腫瘍部位の固有の特徴を認めています」。胆管細胞癌の部位の特定と正確なステージ判定は、可能な限り最善の治療を決定する上で重要である。

腫瘍の診断とステージの判定の精度を上げるために、1983年~2013年に放射線診断部門教授の任にあったChusilp Charnsangavej医師は、膵臓のマルチフェーズ薄層コンピューター断層撮影(CT)プロトコルを基にして、胆管細胞癌のCTプロトコルを作成した。Charnsangavej医師が工夫したのは、たとえば造影剤を急速注入(計120~150 mLの造影剤を4~5 mL/秒)することである。この胆管細胞癌CTプロトコルによって、従来よりもずっと鮮明な胆管のCT画像が得られる。

標準治療の選択肢

胆管細胞癌の治療は、腫瘍の大きさと部位、転移巣の有無、患者の全身状態によって判断する。最も重要なことは、根治的手術が可能かどうかである。

胆管細胞癌で推奨される初期治療は、可能であれば手術であった。しかし、外科的な切除が可能なのは胆管細胞癌のうちわずか10%である。

手術可能な肝内胆管細胞癌では、肝部分切除術または肝葉切除術が必要な場合がある。片側分枝の肝門部胆管細胞癌を切除するには、肝臓の一部、浸潤のある胆管、胆嚢を取り除くこともある。肝管の両側分枝に及んだ肝門部胆管細胞癌では、肝移植も妥当な選択肢である。時には、肝門部あるいは肝外胆管細胞癌を切除する際に、膵頭十二指腸切除(Whipple手術)が必要になることもある。

胆管細胞癌が完全に除去できない場合、胆管の開通を維持するために、閉塞した領域をバイパスして、ステントを留置することもある。「この疾患における主な死因の1つは、胆管の閉塞と制御できない感染によって二次的に起こる胆道性敗血症です」と消化器腫瘍部門准教授のMilind Javle医師はいう。「胆管細胞癌の患者は、胆管炎のような感染症のリスクがあり、胆道ステント管理に適切な注意を払う必要があり、消化管内視鏡検査の専門知識も必要です」。

胆管細胞癌の治療にはこれ以外に放射線療法と化学療法がある。切除不能の胆管細胞癌では、放射線療法、化学療法、あるいはその2つを併用する。切除可能な腫瘍の場合、手術の前に腫瘍を縮小させることを目的として術前に化学療法または放射線療法を実施することができる。ただし、術後の補助療法として行うほうが一般的である。

胆管細胞癌で最も一般的な化学療法のレジメンは、ゲムシタビンとシスプラチンまたはオキサリプラチンとを併用するものである。ゲムシタビンとカペシタビンの併用もよく行われる。一部の患者では、ゲムシタビン単剤での使用が適切な治療の選択となることもある。治療のモダリティにかかわらず、患者のその後の生存のために十分な肝機能が残るように、正常な肝組織に過度なダメージを与えないよう注意する必要がある。

術式の改善

血管を巻き込む胆管細胞癌は、従来は切除不能と考えられていたが、手術の進歩によって根治を目指す手術が可能になった。血管再建術の進歩によって、血管を含む拡大肝切除が実施できるようになった。

早期胆管細胞癌の患者のうちごく一部は肝移植の適応である。MDアンダーソンは、化学療法、放射線療法、疾患の外科的病期判定を受けるマルチモダリティ治療プロトコルに従って、該当する患者を選定するプログラムに参加しているMDアンダーソンで癌治療を行った後、患者はこの地域にある移植プログラムのいずれか1つの移植待機リストに入れられる。「肝移植の前に癌を治療することは、すべての基準を満たしている患者にとって大きな前進です」とAloia医師はいう。このプログラムは現在、早期胆管細胞癌の患者に重点を置いているという。早期胆管細胞癌は、移植後の予後がきわめて良好なためである。

放射線療法の進歩

過去5年間の放射線療法の技術的な進歩によって、放射線腫瘍科医が治療中の臓器の動きをコントロールできるようになった。
このような進歩によって、肝内胆管細胞癌の放射線療法は著しく向上した。MDアンダーソンの放射線腫瘍科医は、正確に腫瘍を標的とするための治療計画シミュレーションの指針となる胆管細胞癌の特別なCTプロトコルを使用している。

画像誘導放射線治療および陽子線療法によって、胃腸など感受性の高い近傍の器官を温存し、肝臓をできるだけ残しながら高線量の放射線を胆管細胞癌に照射することが可能になる。MDアンダーソンがんセンターは、放射線治療中に画像を撮影するCTスキャナーを治療室に持つ数少ない研究機関の1 つである。これにより、臓器の動きを確認し、線量分布をリアルタイムに特定できる。

Javle医師と、放射線腫瘍学部門教授Christopher Crane医師は、切除不能な胆管細胞癌患者において、化学療法の後に画像誘導高用量放射線治療を加える群と、化学療法のみの群を比較する、先頃承認された第3相試験を主導する。Crane医師によると、この試験はマサチューセッツ総合病院と共同で実施し、米国国立衛生研究所(NIH)のP01助成金から資金援助を受けた第2相試験の結果に基づいている。マサチューセッツ総合病院では、同様の患者コホートに画像誘導陽子線治療を行った。「3週間の陽子線治療で主病巣のほとんどは、上手くコントロールされました。第3相試験がこの結果を裏付けてくれることを期待しています」。この試験では強度変調放射線治療(IMRT)と陽子線療法を使用する。MDアンダーソンとその他の施設で間もなく患者の登録が開始される。同医師は、この新しい技術に期待している。「切除不能な肝内胆管細胞癌に高線量の放射線治療を行うと、劇的な延命効果をもたらすようにみえます。しかし、この治療は注意深く行う必要があります」。

Crane医師とAloia医師が最近新たに開発した技術は、胃の近くに切除不能な胆管細胞癌がある患者への放射線治療を可能にする。従来このような患者は、胃に与えるダメージが大きすぎるために放射線治療を受けられなかった。新しい方式では、胃と肝臓の間に外科的にスペーサーを挿入し、腫瘍に対して高線量の放射線を安全に照射するのに十分な距離(約1インチ:2.54㎝)をとる。

胆道癌カンファレンス
テキサス大学MDアンダーソンがんセンター腫瘍外科部門准教授であるThomas Aloia医師は、2014年1月15日からサンフランシスコで開催される、胆管細胞癌、胆嚢癌を含む胆道癌を専門とした最初のコンセンサス策定会議を主催する。この会議は、主要な3つの団体(米国肝胆膵学会議(Americas Hepato-Pancreato-Biliary Association)、外科腫瘍学会議(the Society of Surgical Oncology)、消化管外科学会(the Society for Surgery of the Alimentary Tract))の代表が集まり、胆管細胞癌の集学的治療について議論し、現時点での治療ガイドラインを策定する予定である。

分子標的薬療法の進歩

「胆管細胞癌は、解剖学的な部位によって多様なだけでなく、遺伝子レベルでも多様性があります」とJavle医師はいう。「MDアンダーソンでは、胆道癌の根絶に取り組む臨床医、研究者、アドボケートで構成される胆道癌作業部会を設立しようとしています。われわれの研究の焦点は、可能性のある分子標的薬療法があればそれを評価することです」。

この作業部会の研究の多くは、臨床的に胆管細胞癌に関連する遺伝子変異を判別することにある。たとえば胆管細胞癌患者の30%にKRAS遺伝子の変異がみられる。一部の分子標的薬療法はこの遺伝子に変異のある患者では効果が低い。Javle医師によると、KRAS変異を持たない大多数の胆管細胞癌患者は、セツキシマブ、エルロチニブ、あるいはEGFR経路を直接標的とする治療の候補となり得る。胆管細胞癌患者を対象としたこのような分子標的薬療法の早期試験で有望な結果が得られている。

Javle医師は、胆管細胞癌における他の癌関連遺伝子の研究がこの疾患の患者の治療の指針となるという。彼のグループは、ERBB2、BRAF、FGFR遺伝子に加えて、BAP1、ARID1A、PBRM1などクロマチン修飾に関与する遺伝子に変異を発見した。遺伝子変異の発見によって、標準治療に分子標的薬療法を追加して治療できるサブタイプの胆管細胞癌を持つ患者を特定できるかもしれない。

Javle医師はいう。「どのような多様な遺伝子型が存在するかを特定し、その多様な遺伝子型に合わせて個別に治療法を調整できれば、将来この疾患の生存曲線を変えることができるかもしれません」。

MDアンダーソンは、胆管細胞癌のより良い治療の選択肢を探求するために国際的な研究グループと連携しようとしている。Global Academic Programsイニシアチブを通じて、MDアンダーソンの研究者とその国際的な共同研究者らは、組織バンク、化学療法感受性試験、分子遺伝学的プロファイリングを研究している。たとえば、Javle医師はチリとタイの研究機関と協力している。MDアンダーソンの研究者たちは、海外の医療機関とチームを組んで胆管細胞癌と闘う共同戦略を策定している。

胆管細胞癌の研究に連携が不可欠であるように、チームワークはこの疾患の患者を治療するための鍵となる。
Javle医師はいう。「この疾患の治療は複雑であり、経験豊富な集学的なチームによる3次癌センターで治療するのが最善だと私は考えています。われわれが必要としているのは、熟練した消化器内視鏡専門医、手術の経験豊富な外科医、この複雑な癌に最適な治療を可能にする画期的な放射線療法なのです」。

— Jill Delsigne

【画像キャプション訳】
左:肝内胆管細胞癌のCT画像(放射線治療前)
右:放射線治療後の同じ患者の画像。均一な濃い灰色は壊死した腫瘍組織を表す。周囲の正常組織は放射線によるダメージを受けていない。
 

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翻訳担当者 月橋純子

監修 畑 啓昭(消化器外科/京都医療センター)

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