抗ウイルス薬バルガンシクロビルを投与した膠芽腫患者では生存期間が大幅に改善

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頻用される抗ウイルス薬であるバルガンシクロビル(Valcyte)が膠芽腫患者の生存期間を延長する可能性があることが、New England Journal of Medicine誌に掲載された。

膠芽腫は、原発脳腫瘍で最も頻度が高く致死性腫瘍である。この腫瘍は神経系の細胞で最も数が多い膠細胞から発生する。膠細胞はニューロン(脳、脊髄および神経の間で活動電位を伝達する細胞)が働きやすいよう支持する機能を発揮する。

膠芽腫の治療では、外科手術後に放射線療法および化学療法を行うことが多い。しかし、これらの介入にも関わらず、大半は疾患が再発し患者の多くが診断後1年足らずで死亡することになる。このように予後が不良であるため、研究者らは本疾患の新規治療法の探索を続けている。

バルガンシクロビルはAIDS患者におけるサイトメガロウイルス(CMV)の眼感染の治療に用いられる経口抗ウイルス薬である。CMVはよくあるウイルス(成人の80%もが40歳までに感染する)で、健康な免疫系を保持している人には通常何の害も及ぼさない。研究者らの発見によると、CMVは大部分の膠芽腫患者の腫瘍細胞内にとどまっていることから、何らかの方法で癌に寄与していることが示唆される。このウイルスが必ずしも癌の原因であるというわけではないが、癌の増殖速度を速める可能性がある。

研究者らは、単一の病院で膠芽腫の標準療法(外科手術および化学療法)に加えてバルガンシクロビルを投与された患者50人から得たデータを分析した。次にこの50人を、同じ病院でほぼ同時期に膠芽腫の治療を受けた患者137人と比較した。この対照群は標準治療を受けたが、バルガンシクロビルは投与されなかった。

その結果、バルガンシクロビル投与群では生存率が著しく高いことが判明した。2年後の時点で、バルガンシクロビル投与群の62%がなお生存していたのに対し、対照群の生存率は18%にすぎなかった。バルガンシクロビル投与群の全生存期間の中央値は25.0カ月であったのに比べ、対照群では13.5カ月であった。

バルガンシクロビルによる治療は長期になるほど、より良好な結果が得られるようである。バルガンシクロビルを最低6カ月間投与された患者40人における2年生存率は70%であり、生存期間中央値は30.1カ月であった。最初の6カ月に引き続きバルガンシクロビルによる治療を受けた25人の患者群では生存率の最高値が達成され、2年生存率は90%、全生存期間中央値は56.4カ月であった。

これらの結果は平均生存期間が1年である疾患としては驚くべきものである。研究者らはこのように高い生存率にもかかわらず、選択バイアスが関与していることはあまり考えられないと述べた。また今回の結果から、膠芽腫患者に感染したCMVを標的とするランダム化試験の実施が正当化されると述べた。

参考文献:
Söderberg-Nauclér C, Rahbar A, Stragliotto G. Survival in Patients with Glioblastoma Receiving Valganciclovir. New England Journal of Medicine. 2013; 369: 985-986.


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翻訳担当者 吉田 文

監修 西川 亮(脳・脊髄腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)

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