小児の癌免疫療法:成人に対する手法とどう異なるのか?

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多くの場合、成人にとって有効な癌免疫療法に手が加えられて、小児に対して実施される。小児用に開発された新規治療法はほとんどない。そもそも成人の癌患者人口に比較して、小児の患者数が少ないためである。2013年、14歳以下の小児において癌と診断されるのは11,630人と予測され、対して成人の場合は160万人を超えると予測されている。

米国国立癌研究所(NCI)で小児腫瘍科長を務めるCrystal L. Mackall医師によれば、「小児期の癌に対する進歩といえば、現代医学によるサクセスストーリーのひとつを示しています。小児癌は60年前には一様に致命的でしたが、現在では癌と診断された小児の75%以上が治癒に至っています。とはいえ、1歳を超える小児にとって、癌が疾患関連死の主な原因であることに変わりはなく、小児癌の標準療法に付随する晩期合併症は相当なものです」と述べている。高リスク小児患者(疾患のステージが進行してから診断される場合を指す)の転帰は、極めて不良なままである。

Mackall医師によれば、1960年代から2000年頃までに小児癌の治療は目覚ましい進歩を遂げたものの、小児癌患者の生存率は過去10年で横ばいであり、これは特にユーイング肉腫などの固形癌に罹患する小児に顕著である。とりわけ懸念されるのは費用で、初期治療の毒性によって引き起こされる他の癌など治療の晩期合併症に対して、患者の健康を長期維持するために必要となる。生存率が75%前後で推移しているという事実にも関わらず、癌サバイバーの3分の2は晩期合併症を伴い、そのうち3分の1は重度である。

こうした課題に挑むため、研究者らは単独投与または標準化学療法、放射線療法や手術との併用投与のいずれかによる新たな免疫療法を開発してきた。免疫療法といえば、幅広く研究されてきた取組みがある。癌ワクチンの使用である。2010年、米国食品医薬品局(FDA)は、いずれの癌種にも対応する初のワクチン、Sipuleucel-T(商品名Provenge)を前立腺癌に対する治療として承認した。これにより、前立腺癌患者の生存期間を延長するが、腫瘍の退縮を起こさないため、多くの小児癌にみられるように、進行性で癌の増殖速度が速い場合には、適用されない可能性がある。そのため、臨床医らは、癌ワクチンが予防的投与か、補助療法(一次療法に続いて投与、または上乗せ)であれば、進行性の癌にも効果があるかもしれない点に注目している。このモデルは、特に小児癌の分野に関するもので、最も進行性の高い疾患でさえ、しばしば寛解が達成されている。

補助療法の1種として、樹状細胞ワクチンがある。高リスク小児肉腫患者を対象として、NCI小児腫瘍科で研究されている。この治療では、患者はNCIが所属している米国国立衛生研究所(NIH)の臨床センターに出向き、そこでリンパ球を採取した後、自宅に戻り、地元の診療所で化学療法または放射線療法を受ける。最終的には、標準治療が終了した後にNIHに戻り、患者の免疫系を再構築するための治療と樹状細胞ワクチンとを組み合わせた治療を受ける。本治療によって、CD4(白血球の中のリンパ球の一種で、感染防御のために重要)の数が増加し、免疫の再構築に劇的な影響を与え、初期の研究結果から癌の長期コントロールが改善したことが示唆されている。

他にも、既に罹患している癌を治療する可能性を持ったより積極的な免疫療法として、養子細胞移植がある。患者からリンパ球を取り出し、活性化や培養下で改変させ、腫瘍と戦う能力を高めた後、患者に再注入する方法である。この方法は、一部の黒色腫患者の治療において、効果があることが示されてきた。現在は、NIHで実施中の臨床試験内で、急性リンパ芽球性白血病(ALL)の小児患者に対して適用されている。小児患者の95%以上は、最初に寛解を達成できるALLと診断されているが、かなりの患者が再発する。いったん再発するとその予後は不良で、小児癌の死亡原因のうち、ALLは最大の割合を占める。

細胞移植技術の域を超えて、患者のリンパ球をプログラムし直すために、遺伝子操作が用いられる。特定の標的タンパク質を細胞膜に発現している細胞を認識し、殺すように再プログラムするのである。小児のALLにとって、CD19タンパク質が、この方法を用いるのに効果的な標的であることが明らかになっている。小児白血病に対してCD19を標的とする治療は非常に強力で、悪性・健常細胞問わずB細胞を破壊する。B細胞とは白血球の一種であり、免疫系を構成している。健常なB細胞を失うことは好ましいことではないが、通常の医療現場では、相当な毒性がなければ、患者がこの副作用に耐えることを許容している。

(写真キャプション)NCI小児腫瘍科・臨床研究者補佐およびSt. Baldrick会員 Daniel Lee医師。

CD19を認識するためにT細胞(もう一つの免疫系細胞)の遺伝子操作に用いられる過程は、B細胞に悪性腫瘍を有する成人に有効であることが既に示されているが、小児への研究は現在も進行中である。2013年4月、米国癌学会(AACR)の年次総会において、NCI小児腫瘍科の臨床研究者補佐であり、非営利団体St. Baldrick’s 財団から特別研究員の称号を受けたDaniel W. Lee医師は、自身が現在実施中の臨床試験の結果について議論した。この試験から、難治性または治療に抵抗性を示す小児ALLの場合、CD19を標的として遺伝子操作したリンパ球を用いて、抗白血病効果がみられることが明らかになった。

Lee氏の具体的な方法としては、小児患者からT細胞を採取し、白血病細胞に発現するCD19に付着するよう研究室内で改変する。改変されたT細胞は、抗CD19 CAR T細胞と呼ばれ、患者の体内に戻されるまでに研究室内でその数60倍近く増加したのである。

研究者らは、治療反応性がない、または標準治療後に再発した患者を対象に、この手法を用いた。現在までのところ、この治療法は、同様に忍容性があり、多くの難治性ALLの小児が過去に受けてきている骨髄移植を、受けたか否かにかかわらず有効なようである。これは、つい最近まで、細胞の採取および増殖(細胞数の増加)に数カ月を要する成人に対して実施されてきた手法と異なっている。小児患者は、末期の疾患に罹患していることが多く、数カ月も待ってはいられない。そのため、Leeらは、細胞の採取および増殖を11日間で行う方法を開発した。この時間差が重大な意味を持ち、命を救うこととなる。

(写真キャプション)NCI小児腫瘍科の研究者らは、学会で新たな研究結果を発表し、その類まれなる尽力によって賞を受賞した。写真左から、Crystal Mackall医師、Daniel W. Lee医師、Alan Wayne医師。

NCI小児腫瘍科は、その免疫療法等の領域における類まれなる進歩によって、2013年AACR年次総会で特別賞を受賞し、「高リスク小児癌に対する新規治療を創出する免疫遺伝学」を指揮するStand Up 2 Cancer(訳注:米国の癌患者支援団体)小児ドリームチーム(Pediatric Dream Team)の共同責任者に選抜される。

この競争の激化する土俵への彼らの参加は、小児癌に関与する人々が、この困難な課題に取り組むNCIの研究を高く評価していることの表れ、とAACRは述べる。「小児癌の研究分野は、あなたたちのような高い専門性を持った研究者たちの献身によって、今後も恩恵を受けられることでしょう」。

小児への免疫療法の次なる一歩が何であれ、NCI小児腫瘍科や全国の研究者らによって、最近の臨床的進歩が、実に有望で、この先数年で多くの治療様式に組み込まれていくことは明らかである。また、成人の癌に対するより良い治療法を、臨床医に知らせてくれる可能性も秘めているのは意義深い。 

翻訳担当者 濱田 希

監修 大野 智 (腫瘍免疫学/早稲田大学・東京女子医科大学)

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