2012/10/30号◆クローズアップ「癌における遺伝子の複雑性と環境への取り組み」 | 海外がん医療情報リファレンス

2012/10/30号◆クローズアップ「癌における遺伝子の複雑性と環境への取り組み」

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2012/10/30号◆クローズアップ「癌における遺伝子の複雑性と環境への取り組み」

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NCI Cancer Bulletin2012年10月30日号(Volume 9 / Number 21)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇ クローズアップ ◇◆◇

癌における遺伝子の複雑性と環境への取り組み

癌やその他のよくみられる疾患は、わずかな例外を除き、遺伝的リスク因子と非遺伝的リスク因子の相互作用の結果だと考えられている。しかし、これらの複合的な結果を研究することは困難であり、環境内の物質への曝露などの非遺伝的リスク因子を特定・測定する手段のないことがその主な原因である。

それにもかかわらず、癌の生態を理解して癌を予防・治療するには、遺伝子と環境曝露との相互作用を研究することが不可欠であると多くの研究者らは確信している。これは一例ではあるが、米国国立衛生研究所(NIH)が主催した遺伝子と環境の相互作用に関する最近の科学会議の結論であった。

「遺伝子と環境の相互作用を理解することは極めて重要です」と米国疾病対策予防センター(CDC)の公衆衛生ゲノム学室長であるDr. Muin Khoury氏は述べている。「他の人よりも環境曝露の影響を受けやすい個人の集団を特定できれば、目標とする予防戦略を開発できるでしょう」。

遺伝子と環境の相互作用は多くの理由で研究する価値がある、と同分野における新たなアプローチについて著した南カリフォルニア大学ノリス総合がんセンターのDr. Duncan Thomas氏はつけ加えた。相互作用について調べることにより、癌における重要な生物学的経路が明らかになり、新たな治療戦略が示される可能性がある。「原理上は、遺伝子と環境の相互作用を利用する薬剤がデザインできるはずです」とThomas氏は述べた。

より良いエビデンスの必要性

しかし、現時点では、多くの研究者が相互作用に関して、もっと信頼できるデータを必要としている。

「癌における遺伝子と環境の相互作用が数多く提唱されてきましたが、科学的文献で厳密に裏づけを行っているものはほとんどありません」とスタンフォード大学医学部の疫学の教授であるDr. John Ioannidis氏は述べている。「これはまさに、これまでこの分野には体系的なアプローチがなかったことを意味しています」。

遺伝子と環境の相互作用という概念は新しいものではないが、それに再び関心がもたれるようになった。ひとつの理由として、遺伝的リスク因子についての新たな情報が豊富にあることが挙げられるであろう。いくつかの新しい研究で、環境的リスク因子および考えられる相互作用についての洞察を得るためにこの知識を活用できることが示唆されている。

「これらの相互作用によって、環境曝露による癌のリスクにおける集団間の多くの違いを説明できるとわれわれは考えています」とNCIの癌制御・人口学部門(DCCPS)副部長であるDr. Deborah Winn氏は述べた。「影響を受けやすい特定の集団に属する人々がいる可能性があります。また、遺伝子のみ、もしくは曝露のみを調べることでは、相互作用について調べたときほど多くを説明できないでしょう」。

遺伝子と環境の相互作用という従来の見解は、遺伝子Aをもつ人々は、環境内の何かに曝露されると疾患Bにかかりやすくなる可能性があることを示唆している。しかし、炎症のような、人体内の要素などの多くの「環境的」要因を評価するには、新たな統計手法が必要となる。

これらの統計手法の開発はごく初期段階にあることに国立環境衛生科学研究所のDr. Clarice Weinberg氏は言及し、相互作用の根底にある生物学的機序を理解することの重要性を強調した。

「2つのリスク因子が癌に関連していると明らかになっている場合、それらがどのように共に働くかを知るのは興味深いものになります」とWeinberg氏は言う。「しかし、基本的に、公衆衛生を進歩させるには、癌の生態とこれらの因子が行うことを理解しなくてはなりません」。

相互作用の探索

ほとんどの癌の「本当の生態」は、単一の遺伝子と単一の環境曝露よりはるかに複雑になる、とDCCPSにも所属しているKhoury氏は言った。そのため、「複数の遺伝子と環境の相互作用を創造的な方法で調べる必要があります」。

ひとつの戦略が、よく焼いた肉の消費と、癌の前駆物質となり得る大腸ポリープのリスクとの新たな研究によって例証されている。肉が高温で調理されると、DNAを損傷する可能性のある化学物質が形成される。これらの化学物質への曝露によって人々がリスクにさらされるかどうかは不明であるが、新たな知見は、遺伝子構造によって一部の人ではこれらの化学物質から生じるリスクが他の人より高い可能性がある、という考えを裏づけている。

この研究では、特定の遺伝子変異のある人々では、その変異のない人々よりも、赤身肉が大腸ポリープの強力なリスク因子となると考えられたことを、バンダービルト・イングラムがんセンターの研究者らがAmerican Journal of Clinical Nutrition誌で報告している。しかし、この研究の上級研究者であるDr. Wei Zheng氏は、結果の確認が必要であると注意を促している。

「この研究は、何かが起こっていると明言できるほど大規模なものではなく、これらのリスク変異を多くもつ人は、行動を変えることでリスク変異の少ない人より多くの利益を得るとは言えないだろう」と同研究に関与していないハーバード大学公衆衛生学部のDr. Peter Kraft氏は論評している。

長年、大腸癌では肉の化学的変異原が役割を果たしているのではないかと考えられてきた。この研究の新たな点は、著者らが個々人に対する遺伝子「スコア」を編み出したことにある。このスコアは、複素環アミンの代謝と関連付けられている16種類の遺伝子変異に基づいている。複素環アミンは、よく焼いた肉にみられる化学的変異原である。

相互作用を調べるため、研究著者らは個々人の遺伝子スコアを、食事習慣と大腸ポリープの既往歴に関する情報と併せて解析した。「本研究は、過去20年にわたって行われてきた、赤肉の複素環アミンの代謝に関与する酵素に関する研究のよい一例である」とZheng氏は述べている。

遺伝子、ソーダ、肥満

別の研究では、遺伝子スコアを用いて、砂糖入り飲料の消費が肥満のリスクに及ぼす影響を調査した。研究者らは、個々人に関し、肥満度指数と関連付けた32種類のDNA変異に基づく遺伝的素因スコアを算出した。

特定の遺伝子変異のある人は、砂糖入り飲料の消費が肥満のリスクに及ぼす悪影響に対する感受性が比較的高いと考えられることを、ハーバード大学公衆衛生学部のDr. Qibin Qi氏らはNew England Journal of Medicine誌に報告している。

これは「遺伝子と環境の相互作用の明らかな例である」とエール大学医学部のDr. Sonia Caprio氏は付随論説で述べている。同氏は、複数の変異を用いて遺伝子スコアを算出したときにのみ、この相互作用が明らかであることを指摘した。

「これらの種類のスコアに複数の遺伝子変異を同時に組み込むことは、興味深くもあり、有用でもある」とKraft氏は述べている。「遺伝子と環境の相互作用を調べるというのは新しい考えではないが、10年前にはこれらの遺伝子の挙動は知られていなかった」。

いずれの研究も「環境曝露を評価できるより良いバイオマーカー」の必要性を強調しているとThomas氏は付け加えた。同氏は肉の化学的変異原の研究を行っているが、いずれの研究にも関与していない。人体の外部と内部のいずれに関しても、大半の曝露を正確に測定する手段はまだ存在しない。

曝露の追跡

肉の研究は相互作用がどれほど複雑になり得るかも示している。複素環アミンは高温で肉を焼いたときに形成されるが、この化学物質は初期には不活性状態にある。複素環アミンが体内で代謝されて初めて、DNAにとって有害となる可能性が生じる。同時に、人の体にはこれらの化学物質を解毒して無害なものにするタンパク質がある。

Zheng氏らが報告しているように、複素環アミンの代謝と解毒に関連する遺伝子変異が、これらの化学物質への内部曝露を決定する上で一役買っている可能性がある。「これらの毒性曝露の影響から逃れる手段が人体にはあり、一部の人は他の人よりそれが上手くできる」とWeinberg氏は説明している。

同様に、一部の人の体は他の人よりDNA損傷の修復を上手く行うことができ、これが複素環アミンのパズルの一片となる可能性がある。複素環アミンと大腸癌に関するもうひとつの最近の試験では、相互作用に関する洞察を得るには、多くの遺伝子経路を評価する必要があるかもしれないと結論している。

「われわれの知見は、複素環アミン代謝経路の他に、細胞情報伝達やDNA修復に関与する経路など、複数の経路を調べる必要があることを示している」とこの研究を率いたNCIの癌疫学・遺伝学部門(DCEG)のDr. Rashmi Sinha氏は述べている。

調べる経路の数が増すとともに、今後の研究では、一生とはいかなくても、長年かけて生じる曝露に関するデータを含めることも試みるべきであると複数の研究者らは述べている。

環境曝露は経時的に変化する傾向があり、どの曝露が最も重要かについてはほとんど明らかになっていない。平均で10年にわたる曝露か、最大曝露か、あるいは直近の2年間の曝露だけか。多くの疾患に関して、何も明らかになっていない。しかし、胎児発生や思春期など、人生の特定の時期が一部の曝露にとって重要となる可能性があると多くの研究者が考えている。

「その研究は複雑になる」とKraft氏は言う。「これらの問題は解決可能であるが、それには非常に大規模な研究が必要になる。データが複雑になるほど、研究の規模を大きくしなければならない」。

大規模研究、信頼できるデータ 遺伝子と環境の相互作用の研究における偽陽性に対する懸念は、はるかに大規模で厳密な全ゲノム関連研究が始まる以前の、初期の全ゲノム関連研究を彷彿させることにIoannidis氏は言及している。「われわれは、遺伝子と環境の相互作用の評価を大規模に行う必要があります」と同氏は述べた。「また、同分野における曖昧性を克服するため、エビデンスを正確に報告し、慎重に評価することが必要です」。Khoury氏はこれに同意した。「前進するには、長期的な曝露に関する正確な情報と大規模な疫学調査によるゲノムデータが必要です。そして、その情報は入手困難です」。

—Edward R. Winstead

【写真キャプション訳】
Miroslaw StuzikによるDNAの造形物(写真:Tomasz Gasoir) [画像原文参照

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川瀬真紀 訳
大渕俊朗(呼吸器・乳腺内分泌・小児外科/福岡大学医学部) 監修
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