2011/09/20号◆特集記事「コスタリカのHPVワクチン研究で癌予防への理解深まる」

同号原文

米国国立がん研究所(NCI)キャンサーブレティン2011年9月20日号(Volume 8 / Number 18)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~

PDFはこちらからpicture_as_pdf

____________________

◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇

コスタリカのHPVワクチン研究で癌予防への理解深まる

発癌性のヒトパピローマウイルス(HPV)持続感染を予防するワクチンに関する研究で、一連の新しい知見から同ワクチンの有効性が確認され、新たな研究に道が開かれた。これらの成果は異なる3本の報告として公表され、HPVワクチンは以前に考えられていたよりも投与が簡単かつ安価で、予想外の効果があることも示唆された。

3本の報告はいずれもコスタリカで進行中のサーバリックス(Cervarix)の臨床試験をもとにしたものである。これらの新しい知見は、世界各国の子宮頸癌予防ワクチン接種プログラム策定の取組みに追い風となるかもしれない、と研究者らは述べている。

「われわれの試験結果および他の試験結果は、ワクチンが非常に有望であることを示しています」と試験の代表の一人で、NCI(米国国立癌研究所)癌疫学・遺伝学部門のDr. Allan Hildesheim氏は述べた。「しかも、ワクチンの効果は子宮頸癌だけにとどまらない可能性も示唆されています」。

HPV感染は、子宮頸癌以外に肛門癌、膣癌、外陰癌、陰茎癌、口腔咽頭癌を発症させる可能性がある。サーバリックスは、感染予防に米国食品医薬品局(FDA)から現在承認されている2種のHPVワクチンのうちの1つで、もう一方がガーダシル(Gardasil)である。

1つ目の研究では、サーバリックスで規定となっている3回接種よりも少ない接種回数で同等の予防効果が示された。この結果が確認されれば、ワクチン接種がより簡便かつ安価となり、これは子宮頸癌発症率が高い途上国では特に重要な要素である。

コスタリカHPVワクチン臨床試験の2つ目の研究では、最終的に肛門癌の原因となる肛門のHPV感染が、同ワクチンにより予防される可能性が示された(2011年9月6日号キャンサーブレティン記事『臨床試験でHPVワクチンにより肛門癌予防の可能性が示される』(原文)を参照)。

ワクチンで他の型のHPVも予防できる可能性

3つ目の研究で、サーバリックスは、同ワクチンが標的とするHPV16型および18型の持続感染予防に非常に効果が高いことが確認された。また、従来ワクチンの効果対象となっていない発癌性HPV(31型、33型、45型)に対する「交差予防」効果のエビデンスも示された。

「今回示されたワクチン接種による追加効果の可能性については、当初は考えていませんでした」とHildesheim氏は述べ、以前に交差予防効果を示唆するエビデンスが報告されていたことに触れた。

本研究は9月9日付Cancer Discovery誌電子版に掲載されたもので、ワクチンの効果は性交渉を開始する前の若い女性に接種したときに最大となることも示した。

「HPVへの曝露は性交渉の開始と同時に起こるので、その時点以後のワクチン接種では感染予防の機会を失うことになります」。本研究の統括著者で、コスタリカでの研究の元代表で現在国際癌研究機関(IARC)のDr. Roland Herrero氏はこのように述べた。

年齢に関するこの知見は過去の研究と一致している、とエモリー大学医学部のDr. Kevin Ault氏は述べている。Ault氏はHPVの研究者で、今回の研究には関わっていない。「歳をとるにつれHPVへの曝露量が累積します。ウイルス曝露後にワクチン接種を受けても効果はないでしょう」。

接種回数が少なくても予防できる可能性

サーバリックスの2回接種、あるいは1回のみの接種でも感染予防できる可能性が発見されたのも、本研究が「現実の世界」で行われたからである。試験に参加した女性の多く(約20%)は、妊娠やその他の健康上の理由で1回または2回しか接種しなかった。

しかし、少なくともワクチン接種4年後までは、ワクチン接種を受けた女性すべてが等しく予防されたことがわかった。この結果は9月9日付Journal of National Cancer Institute誌電子版に掲載された。

「この研究はすばらしい概念実証となりました」、とマギル大学医学部のDr. Eduardo Franco氏は述べた。Franco氏もHPVを研究しているが、本研究には関わっていない。「推奨より少ない回数の投与でも病気に対する予防効果が維持されると推測されることから、多くの国でこの投与法が採用されるのではないでしょうか」。

4年後の研究終了時点で、研究者らは対照群の女性に対しHPVワクチンの接種を提案した。今後、試験参加者の追跡を行い、予防効果が何年持続するかを確認する。

今回の結果が確認されれば、ワクチン接種プログラムのコストは下がる。「われわれの結果は公衆衛生にとって非常に重要な意味を持つものですが、まだ解決されていない疑問も多くあります」と本研究の第一著者でNCI癌疫学・遺伝学部門のDr. Aimée Kreimer氏は述べた。

たとえばワクチン1回接種または2回接種でHPV感染に対する予防効果がどれぐらい持続するかは不明である。さらに今回の知見は、異なるワクチンや、栄養状態がよくない、免疫力が弱いなど異なる集団には適用できないかもしれないと著者らは注意喚起している。

より安価で持続可能な子宮頸癌予防

「今回の研究はコスタリカのように子宮頸癌検診プログラムを実施している国にとってはさほど重要ではありませんが、子宮頸癌の発生率が高く検診を行っていない国にとっては非常に重要なものです」とFranco氏は話した。ワクチン接種回数を減らした女性で前癌病変の発生率が下がることを示すためには、さらなる追跡調査が必要、とFranco氏は付け加えている。

今回の研究は「より安価で持続可能な子宮頸癌予防プログラムへの重要な道筋をつけるもの」とニューメキシコ大学のDr. Cosette Marie Wheeler氏は付随の論説で書いている。

子宮頸癌の多い途上国でワクチン接種プログラムを実施できる国はほとんどない、とHerrero氏は話す。しかし、一部の集団だけでもワクチン接種ができるのであれば、どの集団がもっともワクチンの恩恵を受けられるかを知るべき、とHerrero氏は指摘している。今回の研究結果は、性交渉開始前の若い女性層がその集団と考えられることを示している。

「25年以上前にわれわれが研究を始めた頃は、HPVが子宮頸癌の原因であることがわかったばかりでした」とHerrero氏。「現在は非常に多くの手法と知識があり、子宮頸癌に対して介入できるようになりました」。

— Edward R. Winstead

「現実の世界」でHPVワクチンの試験をする

サーバリックスともうひとつのFDA承認HPVワクチンであるガーダシルの安全性および効果はワクチンメーカーの資金援助による臨床試験で確立されている。それにもかかわらず、NCIの研究者および長く協力関係にあるコスタリカの研究者は現実の世界で独立したワクチンの試験を実施した。

コスタリカというひとつの地域を設定して行った試験の目標は、子宮頸癌予防プログラムの導入に役立つデータを収集すること、とHerrero氏は話した。「われわれの結果は、この高価なワクチンを可能な限り有効に使ったワクチン接種プログラムを計画する人に役立つでしょう」。

このランダム化臨床試験は2004年に開始され、コスタリカの2地域で18歳~25歳の女性7,466人(その地域の女性の約3分の1)を登録して行われた。参加者にはサーバリックスまたはA型肝炎ワクチン(対照)を接種した。対照群女性には、4年後にHPVワクチンが提供された。

研究者は今後も参加者の追跡調査を継続する。「地域単位での臨床試験は、ワクチンの理論的な効果だけでなく、明確に定義された集団におけるワクチン接種の効果を調べる道を提供するものとなります」とHildesheim氏は話す。

******
橋本 仁 訳
原野 謙一(乳腺科・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院) 監修 
******

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

子宮がんに関連する記事

英国で、進行した子宮体がんに新薬ドスタルリマブの選択が可能にの画像

英国で、進行した子宮体がんに新薬ドスタルリマブの選択が可能に

Dostarlimab[ドスタルリマブ](販売名:Jemperli[ジェンペルリ])が、一部の進行または再発した子宮体がん(子宮内膜がん)の治療薬としてNICE(英国国立医療技術評価機...
アキシチニブ+免疫療法薬アベルマブ、子宮体がんに有望な結果の画像

アキシチニブ+免疫療法薬アベルマブ、子宮体がんに有望な結果

腎臓がん治療に使用される2剤の組み合わせが、治療が困難な型の子宮体がん(子宮内膜がん)患者を対象とした臨床試験で有望であることが、本日サンディエゴで開催される2024年婦人科腫瘍学会女...
子宮頸がん治療の画期的進歩ー導入化学療法で死亡率35%低下の画像

子宮頸がん治療の画期的進歩ー導入化学療法で死亡率35%低下

キャンサーリサーチUK(「2023年重大ニュース」より)
キャンサーリサーチUKの助成を受けた研究者らは、既存薬の使用方法を変えることで、過去20年以上の間に子宮頸がん治療に最大の改善を...
オラパリブ+デュルバルマブ追加で化学療法単独よりも子宮体がんの進行リスクが低下 -ESMO2023の画像

オラパリブ+デュルバルマブ追加で化学療法単独よりも子宮体がんの進行リスクが低下 -ESMO2023

MDアンダーソンがんセンターアブストラクト: LBA41

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らによると、抗PD-L1モノクローナル抗体デュルバルマブ(販売名:イミフィンジ)...