2006/11/14号◆癌研究ハイライト「頭部放射線治療と脳梗塞」「HPVと子宮頸癌」「腫瘍溶解性ウイルス」など

同号原文

NCI キャンサーブレティン2006年11月14日号(Volume 3 / Number 44)
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癌研究ハイライト

頭部放射線治療が小児癌生存者の脳梗塞に関連

11月6日にオンラインでJournal of Clinical Oncology誌に発表された小児癌生存者調査(CCSS)における新しい発見によると、これからは脳梗塞のリスクの増加が、高線量の頭部放射線治療(CRT)を受けた小児癌の生存者に起こりうる遅発性の副作用リストに追加されるべきである。

論文の主執筆者University of Texas Southwestern Medical Center at DallasのDaniel C. Bowers博士らは、長期的なCCSS調査を用いて、小児期に白血病または脳腫瘍の治療を受けた人たちのリスクを、小児期に癌に罹患しなかった3846人の兄弟のコントロール群と比較して評価した。

治療後5年以上生存している小児のうち、脳梗塞が発生した割合は低かったが、このリスクに対するCRTの影響は有意であった。放射線が脳の特定の部位に照射された場合、脳梗塞のリスクは、放射線量が増加するにしたがいって増加した。化学療法は、白血病患者における脳梗塞のリスクにはほとんど影響を与えなかったが、CRTと化学療法の両方を受けた脳腫瘍患者ではリスクが倍増した。

この試験により、CRTを受けた小児白血病患者は、コントロール群に比べ、脳梗塞のリスクが6.4倍であったが、CRTを受けた脳腫瘍患者では、コントロール群に比べ、有意にリスクが大きく、29倍であった。

著者らはこの試験に関して、次のように結論付けた。「小児白血病および脳腫瘍の長期生存者では、脳梗塞の罹患率が有意に増加することが確認された。この試験はまた、CRTの使用が、用量依存的に脳梗塞のリスク増加に寄与することも確認し、白血病および脳腫瘍両方の治療において、可能であれば放射線の線量を減らしていく努力を正当化した。」


HPVが子宮頸癌に関連するという世間の認識は低い

癌予防会議のAACRフロンティア(AACR Frontiers)で今週発表されたNICの試験によると、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンが承認される前の2005年には、米国人女性におけるHPVと子宮頸癌との関連性に関する認識は低かった。

NCIの科学者らは、2005年健康情報の全国的傾向調査(2005 Health Information National Trends Survey (HINTS))に回答した18歳から75歳までの3000人以上の女性から集められたデータを分析した。研究者らは、HPVについて聞いたことのあるひとは40%だけで、そのうちの半分以下の人しか、そのウイルスが子宮頸癌に関係があると認識していなかったということを見出した。HPVと子宮頸癌に関する認識は、年配で、教育を受けておらず、健康情報に接する機会の少ない女性において、特に低かった。

この試験を指揮した、NCI癌予防特別研究員のJasmin A. Tiro博士は次のように発言した。「我々のデータはまた、女性は、異常な子宮癌(Pap)検査結果や、HPV試験での陽性結果が出た後で、HPVのことを知るということを示唆しています。当然ですが、HPVの伝播、予防、検知、子宮頸癌との関連に関する一貫した情報は、女性が感染する前に提供される必要があります。」

HPV診断検査およびHPVワクチンに対するマスコミ報道や製薬業界の営業努力が、「認識を高めるでしょう」と、Tiro博士は予測する。「NCIは、全ての女性が、HPVおよび子宮頸癌を早期に予防、発見する方法について正確な知識を持つようにするため、知識の普及を調査する試験を行っています。」HPV感染やその子宮頸癌との関係を理解することが、Pap検査、HPV DNA検査、HPVワクチンなど現在ある方法の中から、適切で科学的根拠に基づいた医療を選ぶために必要である、と科学者らは結論付けた。


白血病の新たな治療標的を特定

9番染色体および22番染色体間の転座は、フィラデルフィア染色体として知られ、キメラ化し、常に発現した状態のBCR-ABLタンパク質を発現させる。骨髄細胞でのBCR-ABL異常発現は、慢性骨髄性白血病(CML)やB細胞急性リンパ芽球白血病(B-ALL)を引き起こす。治療薬イマチニブ(グリベック)はBCR-ABLを阻害し、慢性期のフィラデルフィア染色体陽性白血病に対する標準治療薬となった。しかし、イマチニブはBCR-ABLを発現する全ての白血病細胞を排除することはできず、多くの患者が最終的にこの治療薬に耐性を示す。

11月7日にオンラインで、Proceedings of the National Academy of Sciences誌に発表された新規の試験が、イマチニブはBCR-ABLを阻害する一方、SRCキナーゼと呼ばれるBCR-ABLシグナル伝達経路の下流にあるタンパク質には影響を与えないことを示した。CMLおよびB-ALLのマウスモデルを用いて、メイン州Bar Harborにあるジャクソン研究所(Jackson Laboratory)の研究者らは、SRCタンパク質が、骨髄で細胞が悪性化するのに重要な役割を果たし、疾患の進行に寄与し、白血病細胞をイマチニブに耐性を生じるまで生き残らせている可能性があることを突き止めた。治療薬ダサチニブによるマウス治療は、BCR-ABLとSRC発現の両方を阻害し、この2つの阻害によって、B-ALLは抑制され、CMLマウスの生存期間を有意に延長した。しかし、ダサチニブは残存白血病細胞を完全に排除することはできなかった。

著者らは次に、B-ALLおよびCMLのマウスに幹細胞様の特徴を持つ白血病細胞群があることを特定した。これらの細胞はイマチニブ、ダサチニブのどちらにも障害されず、健常動物に移植すると、白血病を誘発する能力があった。ダサチニブが長期寛解をもたらすのに有効な可能性がある一方、「CML幹細胞の未知の経路を特定することが、この疾患の治癒的療法を開発するのに重要である」と著者らは説明した。


メラノーマ治験薬が初期の有望な結果を示す

ジフテリア毒素の一部を内包する薬剤が、皮膚癌であるメラノーマの進行期にある患者のうちの少数に有益である可能性がある。第2相臨床試験の予備的結果によると、ステージⅣの7人の患者のうち5人が、この薬剤の服用中、腫瘍および転移癌の有意な退縮または安定化に至った。

この試験は、致死的疾患の治療に対して、DAB(389)IL2やONTAKとしても知られる治験薬denileukin diftitoxの有効性を調べるものである。ステージⅣのメラノーマ患者の推定余命の中央値は、通常8ヶ月程度だが、12ヵ月後もなお、患者は全員生存している。メラノーマが進行した患者2人は、他の患者より薬剤の用量が少なかった。

この薬剤は、抗腫瘍T細胞の活性化を直接抑制すると考えられる抑制性T細胞の一部を除去することによって、免疫系が腫瘍を攻撃するよう促すと考えられている。マウスの研究では、denileukin diftitoxが抑制性T細胞を標的にし、除去すると、免疫系のCD8+Tリンパ球と呼ばれるT細胞が、メラノーマ細胞を攻撃、障害できるようになることが示唆された。

Louisville’s Brown大学がんセンターの試験責任医師、Jason Chesney博士は、この予備的な結果を11月9日にプラハで行われた分子標的と癌治療シンポジウム(Symposium on Molecular Targets and Cancer Therapeutics)で発表した。


腫瘍溶解性ウイルスが悪性グリオーマ細胞を障害

カナダの研究者らが、自身で開発した「腫瘍溶解性ウイルス」が、悪性グリオーマ細胞に感染し、障害するのに有効であり、静脈内投与すると腫瘍本体を標的とすることを示した。腫瘍溶解性ウイルスは、癌細胞だけに感染し、障害するように改変されたウイルスである。

カルガリー大学のPeter Forsyth博士らは、水泡性口内炎ウイルスの変異株である、組換え水疱性口内炎ウイルス(VSV△M51)の効果を14のヒトグリオーマ細胞株、グリオーマ・マウスモデル、ヒト腫瘍標本において試験した。彼らはまた、VSV△M51の効果と、ヒトグリオーマ細胞株において、脳腫瘍治療に対して試験中の別の腫瘍溶解性ウイルス、血清型3レオウイルスの効果を比較した。Journal of the National Cancer Institute誌の11月1日号に発表されたこの試験により、14のグリオーマ細胞株全てがVSV△M51による感染および障害の影響を受けたが、血清型3レオウイルスによる感染および障害では12の細胞株だけが影響を受けたことが分かった。VSV△M51と血清型3レオウイルスのどちらも、通常の細胞株には影響を与えなかった。生きたVSV△M51を静脈内投与されたマウスは、死んだVSV△M51を静脈内投与されたマウスと比べ、生存期間が改善された。このウイルスはまた、多発性グリオーマ細胞と侵襲性グリオーマ細胞の両方に感染した。

癌に対する理想的な腫瘍溶解性ウイルスとは、「腫瘍内の複数の部位に効率的に到達し、先天性免疫および獲得性免疫反応を回避し、急速にウイルス複製を行って、腫瘍内に拡散し、多発性腫瘍に感染するものである」と著者らは記述している。「これはまさに、われわれが構築した弱毒化生ウイルス(VSV△M51)を用いて、見出したことである。」

◆11/14号特集記事「膵臓癌の発見に有望な研究結果」へ

翻訳担当者 Oonishi 

監修 林 正樹 (血液・腫瘍科) 

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原文掲載日 

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