小児横紋筋肉腫の個別化治療につながる遺伝学的手がかり

小児の横紋筋肉腫(RMS)は筋肉やその他の軟部組織に発生するまれながんであり、TP53、MYOD1、CDKN2Aなどいくつかの遺伝子変異を伴うものは悪性度が高く、生存率が低いとみられる。この知見は、米国国立衛生研究所に属する米国国立がん研究所(NCI)のがん研究センター主導で行われた横紋筋肉腫を対象とした最大規模の国際共同試験により明らかとなった。

6月24日にJournal of Clinical Oncology誌に発表された本試験では、横紋筋肉腫患者の大規模コホートから得たデータを先例のない方法で検討し、これにより、横紋筋肉腫の小児患者に個別の治療効果を予測できる腫瘍遺伝子検査の普及、および横紋筋肉腫に対する標的治療の開発につながるであろう遺伝学的な手がかりを得ることができた。

「試験での発見は、こうした患者さんに対しわれわれができることを一変させるものです。また、横紋筋肉腫に生じる遺伝子変異を標的とした新たな治療法の開発について、極めて重要となる多くの研究が行われるきっかけとなるでしょう」とこの試験を主導したNCI遺伝学科のJaved Khan博士は言う。

同試験の筆頭著者であるNCI小児がん学科のJack Shern博士は「横紋筋肉腫の標準治療では、ほぼ1年にわたり化学療法、放射線療法、手術が施行され、横紋筋肉腫のお子さんには副作用を伴う治療がいくつも行われます」と話す。「治療がどの患者さんに効いてどの患者さんには効かないかが予測できれば、初めから、患者さん一人ひとりに合わせた治療を実施すること、あるいは、その患者さんに効果がないとされる治療を省くことができます。その治療が効かないと思われるお子さんには新たな治療法を検討することもできるのです」。

 横紋筋肉腫は小児の軟部肉腫のなかで最もよくみられる腫瘍である。転移がない限局期にあたる患者では、化学療法の併用により5年生存率は70~80%に達する。しかし転移または再発がみられる患者では、積極的治療を行っても5年生存率は30%未満と低く推移している。

通常、医師は腫瘍の発生部位や腫瘍の大きさ、転移の範囲などの臨床所見を用いて患者の治療効果を予測するが、この方法では正確な情報が得られない。最近の研究では、PAX-FOXO1融合遺伝子のある横紋筋肉腫患者は生存率が低いことがわかっている。現在患者はこの遺伝的危険因子の有無を調べるためにスクリーニング検査を受け、その結果を踏まえ、どの程度の強度で治療を行うべきかを決めている

また、低い生存率の指標となる別の遺伝子マーカーを調べるため、遺伝子解析を用いた横紋筋肉腫の分子的機序についてさらに綿密な調査も始まっている。今回新たに実施した試験では横紋筋肉腫における過去最大規模のゲノムプロファイル解析に取り組み、NCIおよび英国がん研究所は、複数の臨床試験に20年間にわたり登録された横紋筋肉腫の小児患者641人の腫瘍検体から採取したDNAを分析した。試験では、横紋筋肉腫との関連が予めわかっている遺伝子変異やその他の遺伝子異常をみつけ、その情報を臨床転帰と結びつけた。その結果、がん抑制遺伝子であるTP53、MYOD1、CDKN2Aのいずれかに変異が認められる患者は、これらの遺伝子に変異がない患者に比べ予後が悪いということが明らかになった。

次世代シークエンシングにより、1つの腫瘍につき1カ所(中央値)の変異が検出されたが、1つの腫瘍に変異が複数カ所ある患者の生存転帰はそれより悪いことがわかった。本試験ではRASに生じる変異と生存転帰との関連性はみてとれなかったものの、PAX-FOXO1融合遺伝子のない患者では50%を上回る確率でRAS経路に変異が認められた。

横紋筋肉腫の発症を誘発するまたは予後を予測できる可能性がある頻度の高い変異が特定されているとはいえ、これは氷山の一角にすぎず、発見されていない変異がまだ多くあると研究者はみている。こうした変異を標的とする薬をみつけるためにはさらに多くの研究が必要であり、また、これまで以上に正確に患者を治療群に層別できるよう、今後の臨床試験には遺伝子マーカーの導入が考えられるという。現在、NCIの資金提供を受け、米国小児腫瘍学グループにより2件の臨床試験が開発中である。これらの試験では遺伝子マーカーを用い、全参加者の腫瘍の分子プロファイルを解析する。

研究者は、乳がんなど一般的ながんと同じように、近い将来、横紋筋肉腫のようなまれながんにおいてもルーチンでの腫瘍遺伝子検査が治療計画の標準項目になることを期待する。

「遺伝子検査は標準治療になるでしょう」とShern医師は言う。「病理医だけがこうした腫瘍を診るのではなく、分子プロファイルが解析できるようになれば、飛躍的な進歩です」。

本試験は、NCIおよび米国小児腫瘍学グループ、ならびに、英国小児がん・白血病グループ(Children’s Cancer and Leukaemia Group)および英国がん研究所の若年発症型軟部組織肉腫サブグループ(Young Onset Soft Tissue Sarcoma Subgroup)の科学者から成る国際コンソーシアムにより実施された。試験のデータはclinomics.ccr.cancer.gov/clinomics/publicから入手できる。本研究はNCIおよび聖バルドリック財団(カリフォルニア州、モンロビア)の支援を受けた。

翻訳担当者 伊藤美奈子

監修 遠藤 誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院 整形外科)

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