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早期子宮頸がん患者に対する低侵襲手術が減少

  • 2021年6月29日
  • 発信元:米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

およそ3年前の大規模臨床試験によって、早期子宮頸がん患者に対する低侵襲手術の成果は従来の開腹手術より劣っていることが明らかになった。LACCと呼ばれるこの試験では、低侵襲手術(ロボット手術を含む)を受けた早期子宮頸がん患者は開腹手術を受けた患者よりもがんの再発率が高く、術後3年生存率が低かった。

最新の研究によると、米国で早期子宮頸がん患者の治療にあたる外科医は、LACC試験の結果を受けて治療法を変更したようだ。LACC試験結果が発表された後18カ月間のうちに、低侵襲手術により子宮およびその周辺組織を切除(広汎子宮全摘)した患者の割合は58%から43%に減少したとの報告が、4月29日付のNew England Journal of Medicine誌に掲載された。

この知見は、2018年のはじめに大規模な研究会議でLACCの結果が最初に報告されて以降、低侵襲広汎子宮全摘術を受けた早期子宮頸がん患者の数が同様に減少したことを示した、昨年発表された研究の知見と一致する。

またこの最新の研究により、大規模な大学附属医療施設における低侵襲広汎子宮全摘術の数が小規模な病院よりはるかに激減していることがわかった。

本研究の共同責任者であるニューヨークプレスビテリアン病院のPatrick Lewicki医師らは、まったくの予想外ではないが、この差は早期子宮頸がん患者の予後改善の可能性を示唆していると述べている。

LACC試験の研究責任者であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンター婦人科腫瘍学教授のPedro Ramirez医師は、他にも複数の大規模研究によって、低侵襲性広汎子宮全摘術は早期子宮頸がん患者の再発リスクおよび死亡リスクの上昇に結びついている、という。

結果として、欧米の多数の医療機関が作成した診療ガイドラインでは、早期子宮頸がん患者に対する広汎子宮全摘の標準的な治療法として現在では開腹手術(腹壁切開術)を推奨している、とRamirez医師は説明する。

現時点では、早期子宮頸がん患者に対して、「低侵襲手術は臨床研究以外で行われることははないと思います」と話す。

しかし、今後決して早期子宮頸がん治療に低侵襲手術が採用されないというわけではない、とノースカロライナ大学医学部の婦人科腫瘍医であるEmma Rossi医師はいう。

「LACC試験の知見は紛れもなく真実です」とRossi医師は述べた上で、次のように指摘する。低侵襲手術、特にロボットシステムを用いた手術は、数多くの婦人科疾患に対する治療効果および安全性が確認されているが、LACC試験その他の研究は一貫して子宮頸がんにおける低侵襲手術の成績不良を報告しており、「その理由を説明できていません」と述べた。

「したがって、問題点を排除した上で、今後も(低侵襲手術を)行っていく方法がないかを検討するためにさらなる研究が必要です」とRossi医師はいう。

開腹広汎子宮全摘術と低侵襲性広汎子宮全摘術との比較データ

米国では、効果的な検診と予防策のおかげで子宮頸がんは非常に少なく、診断数は毎年およそ14,000人である。子宮頸がんのほぼ半数は、腫瘍が小さく、子宮頸部以外に広がっていない早期の段階で診断される。

他にも治療法はあるが、早期の場合は広汎子宮全摘術が最も一般的な治療法であり、治癒率は約80%である。

低侵襲手術(腹腔鏡手術ともいう)は、数十年前から早期子宮頸がん患者の広汎子宮全摘に用いられてきた。低侵襲操作は、手を用いたりロボットシステムを使用して行われる。

2000年代後半から2010年代にかけて、 広汎子宮全摘に低侵襲手術を用いることが非常に多くなったとRossi医師は説明する。その背景には、ロボット手術が普及したことや、同手術に開腹手術と同等の治療効果と患者側のメリット(手術中の合併症リスクの低下、術後の入院期間短縮など)があることを示すデータが得られたことなど、いくつかの理由がある。

2018年11月にLACC試験の結果が発表された頃には、早期子宮頸がん患者の広汎子宮全摘はロボット手術によって行われる割合が高かったとRamirez医師は説明する。

しかし、LACC試験の対象であった低侵襲手術は、そのほとんど(84%)がロボット手術ではなく従来の腹腔鏡手術で行われていた。そのため婦人科がん治療の専門医の中には、この試験は治療の現状を反映していないと主張する者もいた。

スウェーデンおよびデンマークで行われた、地域住民を対象とする2件の研究は、こうした批判をある程度裏付ける。どちらの研究でも、早期子宮頸がん患者へのロボットによる広汎子宮全摘術がより高い再発リスクおよび死亡リスクをもたらすとの結果は得られなかった。

しかし、他の大多数の研究ではLACC試験と一致する知見を報告している。2,400人の女性を対象とした米国の大規模研究と、メイヨークリニックの3病院が米国を拠点として行った別の研究は、ロボット広汎子宮全摘術を受けた早期子宮頸がん患者は、がんの再発リスクがより高く、生存率はより低いという結論で一致した。

LACC試験の知見は多くの婦人科腫瘍医にとって「衝撃的」であったとRossi医師はいう。しかし地域住民を対象とした研究の知見との一致性を放棄することはできない。また、医学界やニュース記事からのこの研究への注目を感じつつ、医師と患者は対応しようとしている、とRossi医師は指摘する。

急速だが不均一な外科治療の変更

今回の最新研究では、Lewicki医師らが、米国内の病院の約25%を網羅する大規模データベースから、早期子宮頸がん患者約2,500人のデータを調査した。

この調査は、2015年11月から2020年3月の間、すなわちLACC試験の結果が発表される数年前から約1.5年後にわたる期間に治療を受けた女性を対象としている。発表されたばかりの研究知見を臨床医が知るまでの時間を考慮して、結果発表直後の3カ月間は除外した。

LACC試験の結果が発表されるまでは、早期子宮頸がんに対する広汎子宮全摘術の58%は低侵襲手術によって行われていた。2020年3月には、低侵襲手術の割合は45%に低下した。

大学附属の医療施設では、小規模な地域病院と比較して治療法を変更する傾向が顕著であり、低侵襲広汎子宮全摘術が大幅に減少した。

研究チームの一員であるケースウェスタンリザーブ大学医学部のDavid Sheyn医師は、小規模な病院の外科医が治療法を変えるには時間がかかるだろうという。

「研究知見が地域社会に浸透するまでに5〜6年かかることもあります。それでも、ロボット手術で最高の結果が得られると考える外科医は、いつもの治療パターンを変えることに消極的になりがちであるか、少なくとも急いで変えることはない」、とSheyn医師は続ける。

大学附属以外の医療施設で変化のペースが遅いのは、小規模な病院では大学病院とは診療環境が異なり、継続教育や腫瘍委員会などの協働的な取り組みがあまり一般的でないことも反映しているかもしれない、とRossi医師はいう。

なぜ低侵襲手術では生存率が低下するのか

多くの研究者がいちばん疑問に思っているのは、なぜ子宮頸がんに限って低侵襲手術の成績が開腹手術より悪く、他の婦人科疾患(子宮体がんなど)ではそうではない、ということである。

最も有力な説の1つは、低侵襲手術の際に外科医が子宮および周辺部位にアクセスして手術操作の改善と手術視野を確保するために使用することがある、子宮マニピュレーターという機器に原因があるとするものである。マニピュレーターによって子宮に力が加わり、一部のがん細胞が押しつぶされ、隣接する部位に漏れてしまうのではないかと考えられている。

Ramirez博士とSheyn博士は、がん細胞の「漏出」というこの考えは、証明することは難しいが理論上成り立つ、という点で意見が一致する。

Rossi医師は、他の婦人科腫瘍医が提示した意見に同意する。

問題は術者かもしれない。薬剤は製造法や投与法に一貫性があるが、「手術はそうではありません」とRossi医師はいう。「たとえ同じ技術を使っても、術者によって結果が異なることもあります」。

また、開腹手術と比較して、低侵襲広汎子宮全摘術は技術的にはるかに困難な手術である。Rossi医師は「技術の巧拙が影響するのではないでしょうか」と疑問を投げかける。

これが、早期子宮頸がんに低侵襲手術を安全な方法で再導入するための研究テーマである、とRossi医師はいう。

小規模な病院で開腹手術は増えていくのだろうか

Ramirez医師は、早期子宮頸がん患者に対する低侵襲手術の治療成績は不良であるという確実な証拠がある以上、当分の間は治療法を変えざるを得ないと強調する。

そして、小規模な病院において低侵襲手術から開腹広汎子宮全摘術への移行が遅いことに懸念を示す。ペースを上げるためには何が必要だろうか。

「われわれは一般の人々を、そして医師を教育し続けなければなりません。また、病院が責任をもって、確実に標準的な治療が行われるようにしなければなりません」。

Sheyn医師は、小規模な病院の外科医が早期子宮頸がんに低侵襲手術を用いなくなるよう期待しているという。それでも様々な理由から「絶対にやめないという人もいるかもしれません」。

変化をもたらす重要な鍵は若手の外科医である、とRossi医師はいう。小規模病院の若手外科医の多くは大学附属の大規模医療施設で研修を受けることがあるため、そこで子宮頸がんに開腹手術を行うように教えられる可能性がある。

「その影響は次から次へと続くでしょう。大学附属の医療施設は、次代の(婦人科)外科医が研修を受ける場所ですから」とRossi医師はいう。

翻訳奥山浩子

監修喜多川 亮(産婦人科/総合守谷第一病院 産婦人科)

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