オンライン診療の向上は、がん患者のリスクを最小限に抑える

新型コロナウイルス感染症が世界中でまん延する中、感染拡大を抑える安全対策の一環として病院や診療所に出向くがん患者数を抑えなければならない。そこでオンライン診療が、がん治療における非常に現実的な問題の解決策となるかもしれない。各国のオンコロジーチームは現在、がん診療と患者支援が中断しないように、遠隔医療を実施または改善しており、これを日常診療に組み入れてがん治療が途切れないようにしている。患者との対話にデジタル技術を利用しているポーランドのグダニスク医科大学Rafal Dziadziuszko医師に、彼自身の経験について話を聞いた。

医療現場での新型コロナウイルス感染防止の安全対策と緊急時対策の導入は、腫瘍内科医の日常診療に影響を及ぼしている。現在の状況は医師と患者の関係にどう影響しているか。

医師も患者も現在の状況にストレスを感じており、今のパンデミック(世界的大流行)状態はがん患者の通常の疾病管理に甚大な影響を与えている。われわれは可能な限り患者ケアを計画通りに継続するようにしているが、コロナウイルスによる環境汚染の可能性を抑えながら質の高いがん治療を継続して提供するための重要なワークフロー変更も迅速に行っている。現在、ポーランドでは確認された症例数は多くないが、患者に対する遠隔診療の機会を増やし、この世界的大流行に立ち向かう準備を整えようと懸命に取り組んでいる。

現在、すべてのクリニックが遠隔医療への移行を進めている。これまでのところ、物理的接触を最小限にとどめて最大限の安全確保を希望する患者のみなさんから非常に肯定的なフィードバックを得ている。今日も私は遠隔医療で約20人の外来患者を診察したところである。私は患者の診察結果、放射線スキャン画像、検査結果をすべて見ることができ、この方法で私ができることの多さにかなり驚いている。ただし、遠隔で疾病管理を行う場合、特に初回は医師と患者のやり取りが難しい場合があると認識することも重要である。腫瘍専門医が築いてきた患者との前向きな関係は、遠隔では築くことができないものであり、それがのちに効を奏するのである。私たちが現在向き合っている困難な状況では特にそうである。

患者とのやり取りに利用しているツールとは

現在、電話またはSkypeを使用しているが、私の所属機関では新たなデジタルツールを整備している。まもなく、私たちはオンライン診察室をもてるようになり、遠方に住んでいる患者の通院回数が減るなどの利益が見込まれ、このパンデミックをしのぐことを期待している。心理学的観点から言うと、オンライン診察で必要なのは、対面診療で重要な役割を果たしている原則をそのまま実践することである。すなわち、患者と話す際に細心の注意を払うこと、患者の不安に耳を傾けること、患者がどの程度までの知識を求めているかを理解することなどである。

新型コロナウイルス感染症パンデミックによる心理的影響は、脆弱で感染リスクが高いがん患者では特に深刻であると思われる。がん患者が新型コロナウイルス感染症パンデミックを乗り切れるように腫瘍内科医から患者に伝えるべき重要メッセージとは

患者に伝えたい最も大切なメッセージは、「どうかパニックにならないで」。多くの国々で非常に難しい状況であるが、腫瘍専門医は確実にケアを継続し、患者にとって安全な環境を作り出すよう全力で取り組んでいる。今後1~2週間の間に腫瘍内科クリニックやがん放射線療法施設で治療を受けることになっている患者であれば、それをきちんと受けるべきであると理解する必要がある。感染にさらされるリスクをはじめ、そこで起こり得るあらゆる可能性を恐れて、クリニックに来るのを嫌がる患者もいるかもしれない。ほとんどの患者にとって、がん治療を受けることによる利益は、新型コロナウイルス感染に伴うリスクをはるかに上回ることを腫瘍学チームは強く説く必要がある。

治療スケジュールの変更が望ましいがん患者に対する最適なアプローチとは

治療延期で見込まれる利益と比較して実際のリスクはどうなのかについて、患者に率直に話すために、今の状況では難しいかもしれないが、十分に時間をかけることが大切である。たとえば、すでにホルモン治療中で、根治的放射線治療を受けなければならない早期前立腺がん患者の場合、その疾患の治癒可能性は今後3〜6カ月で大きく変わることはないため、どの治療法も安全に延期できることを患者に丁寧に伝えなければならない。リーフレットなどの情報資料も利用すれば、患者が落ち着いて情報を理解する助けとなり、じっくり時間をかけて新たな治療過程に適応することができる。私たち腫瘍専門医は、がん患者ががんに悩まされているだけではなく、このパンデミックに伴う不確実性への対応でも苦慮していることを忘れてはならない。

翻訳担当者 山田登志子

監修 小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人石川記念会 HITO病院)

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