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HPVワクチンが男性の口腔HPV感染に対する「集団免疫」をもたらす

  • 2019年11月6日
  • 発信元:米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

ワクチンの潜在的利益は2つあり、1つ目は被接種者の直接防御で、2つ目は未接種者の間接防御である。後者は集団免疫という現象で、ワクチン被接種者が多いほど生じやすく、病原微生物が伝播する可能性を更に低くする。

現在、新規研究から、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンが男性の口腔HPV感染に対する集団免疫をもたらしていることが示唆されている。米国において、口腔HPV感染は70%を超える中咽頭がんの原因となっており、また男性における中咽頭がんの有病率は過去数十年間にわたり急増している。

2009~2016年の間に、HPVワクチン接種率は男女とも上昇した一方で未接種男性における口腔HPV感染率が低下したことが本新規研究から示された。

本研究はAnil Chaturvedi博士とBarry Graubard博士(いずれもNCIがん疫学・遺伝学部門)が主導し、その結果はJAMA誌2019年9月10日号に発表された。

「この結果はHPVワクチン接種が口腔HPV感染を予防するという科学的根拠の蓄積に拍車を掛けます」とGregory Zimet博士(インディアナ大学、HPVワクチン接種に関する研究に携わっているが、本研究には不参加)は述べた。

「これは実に重要です」と言い添えた。その理由は、中咽頭がんは早期の治療可能な段階で発見することが困難なためである。50%以上の口腔がんは、発見されるまでに既に身体の他の部位に転移している。

現時点で口腔HPV感染を予防することにより、将来の中咽頭がんを予防することができるとChaturvedi氏は述べた。

口腔HPV感染と中咽頭がん

10年以上前、Chaturvedi氏らは、米国での中咽頭がんの有病率が特に若年男性で急増していることを発表した。この憂慮すべき急増の原因は口腔HPV感染の増加であることが分かった。中咽頭がんにおける他の主要原因は喫煙と大量のアルコール摂取である。

後続研究から、男性の口腔HPV感染率とHPV関連中咽頭がん有病率は女性の3~5倍であることが示された。

2009年、Chaturvedi氏らは米国疾病管理予防センター(CDC)と共同で、口腔HPV感染を米国全国健康・栄養調査(NHANES;米国内の成人・小児の代表標本に関する現行の健康調査)の主要対象にした。

それ以降、科学者たちは口腔HPV感染の疫学調査を行う際には、NHANESのデータを使用した。ここには、HPVワクチンが口腔HPV感染を予防するのではないかという、2017年のChaturvedi氏らによる予備的な科学的根拠を示す研究も含まれる。

集団防御を調査する

子宮頸部HPV感染に対する集団防御に関する科学的根拠が蓄積されているので、Chaturvedi氏らは同様の現象が口腔HPV感染においても存在するのではないかと考え、こうした着想を探求するために、NHANES のデータを再度調査した。

2009~2016年の間に18~59歳の男女約14,000人が NHANESに参加した。参加者はHPVワクチン接種歴を自己申告し、37種類のHPV検査用洗口吐出検体を提出した。

ガーダシルは2009~2016年に最も頻用されたHPVワクチンで、4種類の型のHPV(2種類は大部分のHPV関連がんを、別の2種類は性器いぼを引き起こす)による感染を防御する。HPVワクチンの定期接種は、女児に対して2006年以降、男児に対して2011年以降、推奨されている。

本研究の対象期間におけるNHANES参加者のHPVワクチン接種率は、男性で0%から6%に、女性で7%から15%に上昇したことが分かった。一方、本研究では、ガーダシルで予防可能な4種類の型による口腔HPV感染率は、未接種男性で37%低下した。しかし、ガーダシルで予防不可能な型による口腔HPV感染率は変化しなかった。

本研究におけるHPVワクチン未接種女性の口腔HPV感染率は、ガーダシルで予防可能な型と予防不可能な型のどちらの型も変化しなかった。口腔HPV感染は女性では稀なので、感染率が余りにも低く、長期にわたる変化の確実な評価はできないとChaturvedi氏は解説した。

「本研究では、参加者自身のHPVワクチン接種歴に関する記憶に基づいた情報に頼らなければなりませんでした」とZimet氏は指摘した。「HPVワクチン被接種者を評価することが最も効果的な方法ではありませんが、本研究は概ね正確で、このような研究ではそれをせざるを得ませんでした」と述べた。

これはHPV ワクチン接種に関して何を意味するのか

本研究は、HPVワクチン被接種者が未接種者に集団防御をもたらすことを示唆している。しかしながら、これはワクチン接種が不要であることを意味しているわけではないとChaturvedi氏は指摘した。

「本研究結果から、集団防御は限られた程度のものであり、ワクチン接種による直接的な利益に比べると著しく少ないものであるという、予備的な科学的根拠がもたらされたのです」と力説し、「HPVワクチン接種は数種類の発がん性HPVからほぼ完全に防御します」と解説した。

しかし、免疫系障害によりワクチン接種ができないまたはワクチンに対する十分な免疫応答が得られない人々などの、集団防御が非常に重要になる人々が一部存在するとZimet氏は指摘した。

「集団防御の確立は実に社会的責任です」と述べた。

また、「要は、ワクチン接種を受けることができる人はそうすべきです」とChaturvedi氏は述べた。CDC米国予防接種諮問委員会は11~12歳の全男女児、ならびに、未接種の26歳までの人々に対して、HPVワクチン接種を推奨する。

しかし、2018年のデータによると、10代の男女の内、HPVワクチンの3回接種を終えた人々は51%だけであるとZimet氏は指摘した。「健康人2020」(全米国民の健康状態の改善を目的とする政府主導構想)の目標は、2020年までにHPVワクチン接種率を80%に上昇させることである。

「この目標には程遠いです」とZimet氏は述べた。

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HPVワクチンは口腔HPV感染を防御するか

ガーダシル9(最新型のHPVワクチンで、さらに5種類の発がん性の型を予防できる)に関するNCIが資金提供する臨床試験で、ガーダシル9によるヒト免疫不全ウイルス(HIV)陽性男性における口腔HPV持続感染の予防の可能性が調査されることになる。口腔HPV感染とHPV関連口腔がんは男性とHIV陽性者で認められることが多い。

「ガーダシル9の有効性を明らかにできれば、男女ともにワクチン接種がHPV関連中咽頭がんの発生を減らすことになると私たちは考えています」とその臨床試験責任研究者の1人である Anna Giuliano博士(モフィットがんセンター)は述べた。なお、その臨床試験は、米国―ラテンアメリカ―カリブ海地域臨床試験ネットワーク(HIV陽性者におけるHPV関連がんの負荷の軽減を目的とするNCI主導の活動)に含まれる数件の中の1つである。

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翻訳渡邊 岳

監修朝井鈴佳(獣医学・免疫学)

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