セルメチニブが神経線維腫症1型の小児患者で効果

治験薬セルメチニブは、遺伝性症候群である神経線維腫症1型(neurofibromatosis type 1:NF1)の小児および若年成人患者の腫瘍を縮小させることができるとともに、多くのNF1患者で発生する叢状神経線維腫という腫瘍に伴う痛みや運動機能低下などの症状を改善する可能性があることが、臨床試験の中間集計結果から明らかになった。

この第2相試験は、2~18歳のNF1および叢状神経線維腫患者50人を対象とし、セルメチニブには大きな腫瘍を縮小させる可能性があることを初めて実証した2016年の小規模試験の結果を確認するものである。

全NF1患者の最大半数は、神経細胞に生じる叢状神経線維腫を発症する。この腫瘍の大半はがん性ではないが、主に皮膚上または皮膚直下で増殖し、痛みのほか、呼吸困難、歩行困難、外観変形などの問題を引き起こす。

NCIがん研究センターのAndrea M. Gross医師は、「今回の試験結果はすばらしいものです。なぜなら、この疾患で大きな腫瘍が縮小するのを初めて確認した第1相試験での知見を裏付けるものだからです」と話す。同医師は、シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で6月2日にこの知見を発表した。

ツイッターでは、NCIディレクターのNed Sharpless医師もこの結果を「エキサイティング」と書き、「腫瘍が縮小する、子どもたちは気分が良くなる、薬の安全性は問題なさそうだ」と簡単にまとめた。

セルメチニブによる神経線維腫の縮小を裏付ける

セルメチニブは錠剤で服用する薬剤で、細胞内のRASシグナル伝達経路の一部であるタンパク質MEKを阻害する。NF1患者および特定の種類のがん患者では、この経路が異常に活性化され、腫瘍増殖の原因となる。

試験では、患者50人中36人(72%)がセルメチニブにより部分奏効を示し、腫瘍体積が少なくとも20%縮小した。この結果は、2年前に発表された小規模第1相試験とほぼ同じであり、同試験では患者24人中17人(71%)が部分奏効を示していた。

今回の試験で、叢状神経線維腫のベースラインからの体積変化中央値は27%減(50.6%減から2.2%増までの範囲)であったと報告された。試験参加患者の年齢中央値は約10歳であった。

叢状神経線維腫の増殖はNF1小児患者でもっとも速く、青年期に減速する、とBrigitte Widemann医師は話す。NCIの小児腫瘍学部長である同医師は、本試験のリーダーであり、この研究チームで腫瘍の体積測定方法も開発した。

治療前、患者に最も多くみられたNF1関連の健康問題は、外観変形(44人)、運動機能障害(33人)、痛み(28人)であった。

叢状神経線維腫の中には、数リットルの瓶くらいに大きくなり、体重の20%にまで成長するものもある。腫瘍が小さい場合でも、多くの腫瘍は健康な神経や組織と絡み合っているため、切除手術はできないことが多い。さらに、特に幼児では、手術で一部を切除された腫瘍が再び増殖する傾向がにみられる。

セルメチニブの副作用は概して対処可能であるとGross氏は言う。試験において最も多くみられた副作用として悪心、嘔吐、下痢、発疹が挙げられるが、これらの副作用は、薬剤を中断すると比較的少なくなり、改善した。12人の患者については、副作用のためにセルメチニブ減量を余儀なくされ、そのうち4人は最終的に治療を中止した。

神経線維腫に伴う健康問題の評価

セルメチニブは、一部の腫瘍を縮小させる効果に加えて、腫瘍に伴う健康問題の改善にも役立つとみられる。試験に参加した患者(またはその親)のほとんどが、治療1年後に疼痛スコア、体力、および可動域の改善を報告したとGross氏は述べる。

「本試験で私たちが証明しようとしていることは、セルメチニブが臨床的有益性をもたらすかどうか、すなわち患者がこの病気になってからと比べて気分が良くなり、より活動的になるかどうかということです」と説明した。

この目的のため、研究者らは複数の検査により、治療中の患者の健康および機能能力の変化を測定した。患者は定期的な評価のためにNIHキャンパスに戻り、研究者によるさまざまな健康測定を受ける。

「これは、患者の機能評価と患者報告評価の詳細度の観点で、ユニークで資源集約的な研究です」とGross氏は言う。患者は、臨床検査に加えて、治療によって日常生活がどう変わったかをより具体的に把握できるような逸話的情報を提供することになっている。

「ある患者は、薬剤治療を受けてから服が体に合うようになったと言い、別の患者は姉妹とまたレスリングができるようになったと言っていました」とGross氏は振り返る。「親を含む神経線維腫症1型患者団体は、この試験に胸を躍らせています。なぜなら、患者たちは初めて大きい叢状神経線維腫への治療効果がわかったからです」。

Gross氏がシカゴでこれらの結果を発表すると、ある試験参加者の母親はツイッターに次のように投稿した。息子の「腫瘍が気道を脅かすことはなくなり、彼ののどの奥がまた見えるようになりました。子どもたちが彼の首のことをもう聞いてこないという心理社会的な影響は言うまでもありません」。

別の試験参加者の母親はツイッターに、息子の腫瘍がだんだん小さくなり、痛みが軽減して元気も出て、気分が良くなっていると投稿した。 最大の副作用は「金髪になったこと」とも書いている。

答えが出ていない疑問の調査

2月、米国食品医薬品局(FDA)は、NF1患者の治療用としてセルメチニブを「オーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)」に指定した。 この指定により、医薬品開発者(この場合、AstraZeneca社およびMerck社)は、数年間にわたって税額控除および独占販売権などの奨励措置を受けられる。

第2相試験では、一部の腫瘍はセルメチニブへの反応が止まり、再び増殖し始めた。これは特に、副作用が生じた患者で薬剤を減量した後にみられた。叢状神経線維腫の縮小には、所定用量のセルメチニブが必要と思われる。なぜ一部の腫瘍はセルメチニブ適量投与しても増殖することがあるのかを解明するためには、さらに研究が必要である。

Gross氏によれば、NF1成人患者を対象とした、NCI助成によるセルメチニブ臨床試験から、手掛かりがいくつか得られそうだという。同試験の成人参加者は一連の組織サンプルを提供しており、研究者らが奏効機序や可能性のある耐性機序を探究する一助となると思われる。

Widemann氏、Gross氏らは、第2相小児対象試験に参加した若年患者および成人患者の追跡調査を継続する予定である。

Gross氏は言う。「私たちの集中的評価に全面的に協力してくれた患者とその家族には非常に感謝しています。私たちは今、多くの患者に臨床的変化をもたらしているところであり、前向き研究でこれらの変化を実証することができてうれしく思います」。

翻訳担当者 山田登志子

監修 遠藤 誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院 整形外科)

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