セルメチニブにより小児神経腫瘍が縮小

小児患者24人が参加したBrigitte C. Widemann医師[NCI(米国国立がん研究所)小児腫瘍学分野長代理]主導による多施設第1相臨床試験を、NCIがん治療評価プログラムが出資した。米国国立衛生研究所(NIH)臨床センターならびに3カ所の医療施設で実施された本試験では、Widemann氏らが開発した治療法を用いた。なお、本治療法は叢状神経線維腫を極めて正確に評価することができる。シンシナティ小児病院 Nancy Ratner博士研究室にて、遺伝子組換えによる神経線維腫発症マウスを使用する実験がおこなわれた。NCIはNIHの一部門である。

1型神経線維腫症(neurofibromatosis type 1:NF1)小児患者は最大50%の確率で叢状神経線維腫を発症する。叢状神経線維腫の大部分は激痛や身体障害をもたらしたり、外観を損なう可能性があり、幼児期に診断されてから後、思春期を迎えるにつれて急速に増大する。外科的に腫瘍を完全切除することはほぼ不可能であり、切除不十分な腫瘍は再び増大する傾向にある。

本臨床試験の主要目的は、NF1および手術不能な叢状神経線維腫を有する患児におけるセルメチニブの毒性および安全性を評価することであり、幸いなことに、selumetinib(セルメチニブ)による毒性の大部分は軽度であった。現時点では、NF1に関連する大型叢状神経線維腫の有効な治療法は存在しない。しかし、本臨床試験で、部分奏効(すなわち、腫瘍容積の20%以上減少)が70%超の患児に認められた。

奏効は、かつて毎年20%超の割合で増大していた腫瘍でも、非進行性病変でも認められた。腫瘍縮小は長期にわたり(約2年間)維持され、2016年初頭時点で、どの患児にも病勢進行は認められなかった。また、腫瘍に関連する疼痛の減少、運動機能の改善、および外観の回復などの臨床症状改善に関する事例がエビデンスとして認められた。

「腫瘍容積の20%減少は少な過ぎて無意味だという人もいるでしょう。しかし私にとっては、こうした深刻な腫瘍の増大を抑えることこそ、重要な成果なのです。本試験の患児で認められた差異はまさに前代未聞です」とWidemann氏は述べた。

1990年、2つの研究チームがNF1に関する疾患遺伝子を最初に同定した。1つはNIH所長であるFrancis S. Collins氏(医学博士、当時はミシガン大学遺伝医学長)主導のチームで、もう1つはRay White氏(ユタ大学)主導のチームであった。遺伝子機能の理解を目的とする両チームの研究から、RASシグナル伝達経路の脱制御が腫瘍発生の原因になる可能性が最も高いことが示された。RASに関連するシグナル伝達経路を標的とする多くの薬剤がNF1患児に対する第1相および第2相臨床試験で調べられてきた。しかしいずれも不本意に終わり、その結果セルメチニブへの関心が生じたのであった。

セルメチニブ(本臨床試験用にアストラゼネカ社から提供を受けた)はMEK(RASシグナル伝達経路という複雑なネットワークの一部)選択的阻害剤である。セルメチニブは一部の進行がんに対する活性を示しているが、現在のところ米国でFDA(米国食品医薬品局)の承認を受けていない。セルメチニブは経口カプセル剤として製造されている。

本臨床試験登録は2011年9月に開始され、小児患者24人(女児11人、男児13人)が参加した。セルメチニブは1日2回継続投与され、治療期間中央値は 30カ月に及んだ。患児の大多数は現在もなおセルメチニブの継続投与を受けており、中には5年間も受け続けている患児もいる。また長期にわたる継続投与によって、患児の発育や健康全般に関する副作用は認められなかった。

同様に神経線維腫マウスを使用する実験から、神経線維腫におけるMEKの機能が阻害されることが確認された。MEK阻害はセルメチニブ投与の2時間後に早くも減弱した。また、この神経線維腫マウスには定期的にセルメチニブが投与され、現在もなお腫瘍反応が示されている。このことから、限定的とはいえMEKを阻害することで、神経線維腫において腫瘍が縮小する可能性があることが示される。

「将来的には、毒性を最小限に抑え、転帰を最大限に維持することを目的に、患児へ間欠的に投与を続けながら研究を進められたらと思います」とWidemann氏は述べた。

一部の患者では、緩徐に腫瘍が再増大するという、セルメチニブに対する反応の低下が、特に減量後に認められた。セルメチニブに反応しなくなる腫瘍の特定を目的とする臨床試験がさらに必要であるとWidemann氏らは確信する。NCIは現在、成人NF1患者に対するセルメチニブに関する現行の第2相試験に出資している。なお、その試験ではNF1組織検体が立て続けに採取されている。この試験で、考えうるセルメチニブに対する耐性の機序に関する情報が示される可能性がある。

また、小児を対象とする大規模第2相試験は患者を登録中で、小児に対するセルメチニブ投与の有効性の確立を促す可能性がある。この大規模試験で、腫瘍容積の測定に加えて、叢状神経線維腫に関連する外観、疼痛、生活の質、および機能に関するセルメチニブの効果の評価も実施されている。

本臨床試験は以下からの支援を受けた。

NCIがん研究センターおよびがん治療評価プログラム、小児腫瘍財団:Michael FisherがNCI以外の参加施設の支援、アストラゼネカ社:セルメチニブの提供および薬物動態解析への資金調達、ならびに小児腫瘍財団および(マウスを使用する前臨床試験を目的とするRatner氏に対する)神経線維腫症治療迅速化プログラムからの助成金

【図のキャプション】

NF1タンパク質の構造

新規経口薬セルメチニブの第1相臨床試験で、1型神経線維腫症(neurofibromatosis type 1:NF1)および叢状神経線維腫(いずれも高頻度で発生する遺伝性疾患である末梢神経腫瘍)小児患者はセルメチニブに忍容性を示した。また、大多数の患者はセルメチニブに反応し、腫瘍容積が減少した。NF1は3,000人に1人の割合で生じる。本試験結果はNew England Journal of Medicine誌2016年12月29日号に発表された。

翻訳担当者 渡邊岳

監修 東光久 (総合診療、腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)

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