予防的な頸部リンパ節手術で早期口腔がんの生存が改善

ASCOの見解
ASCO専門医Jyoti D. Patel医師
「この試験は、世界中の医師が悩み続けてきた疑問に対する待望の答えをもたらすものです。必要以上の外科手術をしたいとは決して思いませんが、早期口腔がん患者に関しては、より広範囲にわたる手術で寿命が延長することが今回明らかになりました」。

第3相ランダム化臨床試験は、早期口腔がん患者の頸部リンパ節手術の最適なタイミングに関する長年の疑問を解明している。この試験は、リンパ節転移の出現時に行う治療的頸部リンパ節郭清術(TND)よりも、選択的頸部リンパ節郭清術(END)と呼ばれる予防的アプローチによって、生存期間が改善し再発率も低下することを示している。

口腔がんの罹患者数は全世界で30万人以上であり、タバコ消費量の多い国では特に多い。[1] 喫煙とアルコールの過剰摂取が口腔がん診断の90%の原因であると推定されている。[2]

早期口腔がんは手術で腫瘍を摘出して治癒することが多いが、再発し頸部リンパ節に拡がることがある。口腔がんの初回手術時に周辺のリンパ節も摘出すること(END)が必須なのか、それとも患者が再発するまで待つ(TND)ほうが最適なのかについては、医師の間でも長く議論されてきた。

「今回の試験は、選択的頸部リンパ節郭清術のほうがより多くの命が救われることを初めて決定的に示すものです。医師が50年以上にわたって多数の患者の治療で問い続けてきた疑問に答えが出たのです」と述べたのは、インド・ムンバイ市のタタメモリアルセンター頭頸部外科部長であり試験主著者であるAnil D’Cruz教授(MBBS、MS、FRCS)である。「この試験結果を元に、医師は、初期治療に頸部手術を追加することは有用だと自信を持って患者さんに助言することができるでしょう」。

2004~2014年にタタメモリアルセンターで実施されたこの試験では、早期口腔扁平上皮がん患者596人をENDまたはTNDに無作為に割り付けた。最初の患者500人を対象とした中間解析では、ENDはTNDよりも死亡リスクを37%低下させたことが示された。3年全生存率はENDが80%、TNDが67.5%で、ENDで12.5%の絶対的増加がみられ、統計学的に有意だった。

また、ENDでは再発や死亡リスクも56%低下し、3年無病生存率には23.6%もの絶対的増加がみられた(END 69.5%対TND 45.9%)。実際、選択的頸部リンパ節郭清術を用いることで再発例の減少15件につき死亡例は8件減少したことから、この治療法が口腔がんの標準治療として十分に確立された。

著者らによると、頸部のリンパ節を摘出する手技である頸部郭清術で唯一好ましくない点は、肩部に多少の機能障害をもたらす可能性があることで、患者の5~40%に起こるものである。 これは肩の動きに関与する大きな筋肉を支配する神経が郭清術部位を横断しているためである。今後の研究で、この合併症を最小限にするような技術に注力する必要がある。

これまでは早期口腔がんに対する頸部リンパ節郭清術を支持する強力な臨床勧告はなかったので、実際の診療は世界中で大きなばらつきがあった。今回の試験は早期口腔がん患者に対して選択的頸部リンパ節郭清術を標準治療とすべきことを決定的に示している。

本試験はタタメモリアルセンターの施設内研究助成金による資金援助を受けた。

1. http://www.cancerresearchuk.org/cancer-info/cancerstats/types/oral/incidence/#geog
2. http://www.cancer.net/cancer-types/oral-and-oropharyngeal-cancer/risk-factors-and-prevention

翻訳担当者 久保 優子

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

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