小児の横紋筋肉腫にガニツマブ+トラメチニブ併用は有望も製造中止が障壁に

筋肉などの軟部組織を侵すがん種である横紋筋肉腫の小児患者に対する新しい治療法の可能性が、NCIのマウスを用いた研究で示された。

実験薬であるガニツマブと標的薬であるトラメチニブ(メキニスト)の併用療法を行なったマウスでは、横紋筋肉腫の腫瘍の成長が抑制され、さらに一部の腫瘍では縮小が認められた。

本研究結果は、11月2日発行のClinical Cancer Research誌に掲載された。

この有望な研究結果に基づき、研究者らはヒトでこの併用療法を試す第1相臨床試験を行いたいと考えている。しかし、ガニツマブを製造する会社は、ユーイング肉腫患者を対象とした大規模試験で効果を確認できなかったため、この薬剤の製造を中止しており、残った薬剤の供給も終了している。

「この種の障壁に対しては苛立ちを感じます」と、この研究を主導したNCIがん研究センターのMarielle Yohe医学博士は述べた。「われわれは、素晴らしい臨床試験になる可能性がある薬剤の組み合わせを特定したのですが、残念ながら、ガニツマブを入手できない立場にあることがわかりました」。

Yohe博士と共同研究者らは、現在、研究を継続するために、ガニツマブと同等の薬剤を調達する方法を探っている。しかし、このチームのような経験は、小児がん研究においてはよくあることなのだと、NCIが資金提供する小児がんグループのグループ長でもあるシアトル小児病院のDouglas Hawkins医師は述べた。

「毎年、開発を継続したいと思う薬剤数個が棚上げになるのですが、大人を対象とした試験が失敗したため、前に進む道がなくなってしまったのです」と、Hawkins医師は述べた。「小児がんは非常に稀な疾患であるため、製薬会社にとっては、小児向けの薬剤を開発しても採算が合わない場合があるのです。これが厳しい現実です」。


マウスでの有望な結果

横紋筋肉腫は、小児がん全体の約3%を占める。この病気は、転移する前に治療すれば、通常は治癒が可能である。しかし、治療後に再発、あるいは体の他の部位に転移すると、治療は極めて困難になる。しかし、標的薬は、特に併用することで、こうした転帰を改善する可能性があるとYohe博士は述べた。

2018年、Yohe博士は同僚らとともに、トラメチニブとBMS-754807と呼ばれる薬剤の併用で腫瘍の成長が遅くなることを、横紋筋肉腫モデルマウスで示した。トラメチニブは、がん細胞内で腫瘍の成長を促進するMEKと呼ばれるタンパク質の活性を阻害し、BMS-754807は、腫瘍の成長に関与する別のタンパク質であるIGF-1Rを阻害する。しかし、この薬剤の組み合わせでは、過度の体重減少を含む深刻な副作用がマウスで認められた。

ガニツマブは、同じくIGF-1Rの活性を阻害するモノクローナル抗体であるが、小規模な臨床試験の結果で、副作用が軽減される可能性が示された。研究者らは、トラメチニブとガニツマブの組み合わせの方が、トラメチニブとBMS-754807よりも、腫瘍が縮小し、副作用が軽減するのではないかと考えた。

今回の研究で研究者らは、最も一般的なタイプの横紋筋肉腫に酷似したモデルマウスの一部で、トラメチニブとガニツマブの併用により腫瘍が縮小したことを明らかにした。

研究対象となったモデルマウスのうち、併用療法を受けたマウスは、薬剤を投与されなかった、またはどちらか一方の薬剤のみを投与されたマウスよりも、大幅に長生きした。また、治療を一定期間中止した後も、一部のマウスでは腫瘍が再び増殖することはなかった。また、この併用療法では副作用も少ないと思われた。

Yohe博士は、これは初めて動物モデルで腫瘍を縮小させた、進行横紋筋肉腫に対する併用標的療法の1つであると述べた。トラメチニブやガニツマブのような薬剤では、一般的に、腫瘍の縮小ではなく、腫瘍の成長の抑制が認められる。

ガニツマブが製造中止に

しかし、この研究中に、ガニツマブを製造していたイミュニティバイオ社が、この薬剤の製造を中止した。この動きは、膵臓がんや肺がんなど成人がんの臨床試験で、この薬剤が期待はずれの結果を出したことに伴うものであった。

その結果、ガニツマブの他の研究にも影響が及んでいる。例えば、横紋筋肉腫に対するガニツマブとダサチニブ(スプリセル)の併用療法を対象としたNCI主導の第2相試験は、ガニツマブが入手不能になったため、早期に中止せざるを得なかった。

「このような薬剤の入手問題のために、新しい臨床試験を開始することが非常に困難になっており、患者への直接的な結果として、われわれは生存率を上げることができないのです」と、Yohe博士は述べた。「この2、30年間、この病気の進行型において、生存率を向上させることができませんでした」。

Hawkins医師は、他の多くのIGF-1R抗体でも、成人がんに対して有効性を示せなかったと指摘している。

「この類の薬剤の開発は断念されています」と、同氏は述べた。「小児がんで活性がないから断念されたのではなく、一般的な成人がんで活性がないから断念されたのです」。

しかし、小児がんと成人がんは遺伝的に異なっており、成人がんでは効果がない薬剤でも、小児がんでは、特に併用することで非常に有効である可能性があると同氏は述べた。例えば、IGF-1Rが中心的な役割を成す細胞内のコミュニケーション経路の過活動は、成人がんよりも小児がんにおいてはるかに一般的であると、同氏は指摘した。

Yohe博士とこの研究を行う共同研究者のJaved Khan医師は、研究を計画する際には、ガニツマブで直面しているような薬剤の入手問題を避けるために、成人がんで有効性が示されている薬剤を使用するようにすると述べた。

しかし、薬剤開発がどのように展開されるかを予測することは不可能であるとKhan医師は付け加えた。彼らが研究を始めたときは、IGF-1Rが成人がんの良い標的になるように思われたと同氏は述べた。

販売中止になった薬剤への不満が広がる

不満を抱いているのは、Yohe博士とKhan医師だけではない。

「この問題は蔓延していて、さまざまな形で常に起こっています」と、スローンケタリング記念がんセンターのEmily Slotkin医師は述べた。同氏は、若い人に多い稀な進行性の肉腫である線維形成性小円形細胞腫瘍に対する有効な治療法の研究において、幾分似たような困難を経験したことがある。その研究には、現在ACR-368と呼ばれている薬剤が用いられている。

Slotkin医師が主導した小規模臨床試験で、ACR-368と化学療法薬イリノテカンの併用により一部患者の腫瘍の縮小が確認されたことから、この併用療法をさらに研究したいと研究者らは考えている。当初イーライリリー社がACR-368(当時の名称はプレキサセルチブ)を開発したものの、同社は2019年にこの薬剤の開発を中止した。その後、アクリボン・セラピューティクス社がイーライリリー社からこの化合物のライセンスを取得した。

「アクリボン・セラピューティクス社がACR-368のライセンスを取得したことから、将来、われわれがこの化合物を入手するチャンスがまだあると期待しています」と、Slotkin医師は述べた。

全般的に見て、有望と思われる薬剤の入手が制限されている問題は、新しい小児がん治療法の開発や、小児がんの新薬研究に興味を持つ研究者のパイプライン(供給経路)に影響を与えていると同氏は続けた。

「この種の障壁は、研究者らがアイデアを実現しようとするときに感じる徒労感の一因となっています」と、同氏は述べた。「障壁に直面すればするほど、患者を救える可能性のある研究をしようという意欲が削がれていくのです。全員の士気に影響を与えるのです」。

小児がんに対する医薬品開発の障壁を取り除く

小児がんに対する医薬品開発を奨励するために、米国食品医薬品局は優先審査バウチャー制度を設けており、生命を脅かすような希少疾患の小児を治療する医薬品を開発した企業には優先審査バウチャーが発行される。

しかしそれでも、企業が比較的少数の患者にしか使われない薬剤に、たとえ効果があるとしても、挑戦する十分な動機にはならないかもしれないとHawkins医師は述べた。

NCIは過去に、民間のスポンサーを持たない医薬品の開発を継続するため、一時的に介入したことがある。神経芽腫の治療薬であるジヌツキシマブ(ユニツシン)の場合がこれに該当し、継続的な開発と製造を引き継ぐ企業が見つかるまで、当初はNCIが製造を行なっていた。Khan医師は、Yohe博士と一緒にこの選択肢の検討を行なっていると述べた。

しかし、険しい上り坂を登るようなもので、このような提携はめったにないと同氏は続けた。
また、もう一つの可能性のある道としては、小児用医薬品の開発を理念とする製薬会社と研究者が提携することも考えられるが、こうした会社は非常に小さく、資金が限られている傾向にある。

研究者にとってより現実的な選択肢は、他の薬剤を探して試すことである。しかし、それも理想的なものではない。

「別の薬剤で研究を再開することは、コストがかかり非効率的ですが、時にはもう一つの有効な道である場合もあります」と、Slotkin医師は述べた。「しかし、何度もやり直せば、それだけ遅くなります」。

別の薬剤であれば、同様の入手問題に直面しないという保証があるわけではない。「多くのことに手を出したいところだが、先に進める道はそれほど多くないかもしれません」と同氏は述べた。

横紋筋肉腫の試験に関してKhan医師は、まだガニツマブを諦めたわけではなく、別の選択肢を模索し続けていると述べた。「良好な結果であり、患者にとって可能性のある治療法かもしれません」と同氏は語る。

Slotkin医師も希望を持ち続けている。「今のところ、前に進むためには、忍耐と努力が必要なのです」と述べた。「研究が終わるまで、少しずつ取り組み続けていくつもりです」。



監訳 遠藤 誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院)

翻訳担当者 田村克代

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原文掲載日 2022/12/09

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