NCIが小児がんの分子特性解析プログラムを始動

米国国立衛生研究所の一部である米国国立がん研究所(NCI)は、がん研究におけるデータ共有促進に向けてバイデン大統領が打ち出したがんムーンショット目標を支持し、小児腫瘍に対する「分子特性解析構想(Molecular Characterization Initiative)」を開始した。このプログラムでは、新たに中枢神経系腫瘍と診断され、小児腫瘍学グループ(COG)に加盟する病院で治療を受けている小児、青年、若年成人患者を対象として、腫瘍分子特性解析(バイオマーカー検査)を行う。COGはNCIが支援する臨床試験グループで、米国でがんと診断された小児患者の大半を治療している200以上の病院や施設が加盟している。

分子特性解析構想は、小児がん研究者間における最新データの共有と収集を促進するために2019年に発足したNCIの小児がんデータ構想(Childhood Cancer Data Initiative)を通じて提供される。

米国内で中枢神経系がんと診断された小児、青年、若年成人は、この任意プログラムを通じて、自分の腫瘍の分子特性評価を無料で受けることができる。腫瘍および血液検体のDNAとRNAが解析され、正確な診断と、がんの原因や発生の解明のために活用される。分子特性解析構想は2022年後半に拡大され、軟部肉腫やその他の希少な腫瘍も対象となる予定である。

NCI所長の小児がん担当特別顧問であるBrigitte C. Widemann医師は、次のように話す。「究極の夢は、すべての小児がん患者が最先端の診断を受け、最も安全で効果的な治療を受けられるようになることです。分子特性解析構想は、小児がんコミュニティ全体を巻き込む変革的な取り組みです」。

患者の腫瘍の分子特性に基づいて正確な診断ができれば、医師は各患児にとって最も効果的であり最も毒性が少ないと思われる治療法を選択できるようになる。また、小児がん全体にみられる分子的変化に関するデータは、研究者が小児がんの分子的原因をより深く理解するとともに、特に治療選択肢が限られている希少な小児がんに対する、より効果的で毒性が少ない新規治療法の開発を加速させるのにも役立つ可能性がある。

COGのグループ長である Douglas S. Hawkins医師は、「これまでは病気について断片的にしか解明できない状況でしたが、正確かつ網羅的な理解が進むと患者の状況は一変するでしょう」と述べる。

以前は、網羅的な腫瘍分子解析は、一部の臨床試験に参加する小児患者や、そうした最先端の診断法を提供できる内部資源を備えた大規模施設で治療を受けている患者だけが受けられるものであった。また、腫瘍バイオマーカーに関するデータは、子どもが治療を受ける病院や施設にのみ保存され、施設間でデータが共有されることはほとんどなかった。今回の新たなプログラムにより、腫瘍の分子特性解析の対象が広がり、全国の小児患者が受けられるようになる。さらに、収集されたデータは一元管理されるため、小児がん研究者はデータから学び今後の研究に役立てることができる。

COGの中枢神経系腫瘍疾患委員会リーダーであるMaryam Fouladi医師は、次のように話す。「分子特性解析を全国で実施できるようにして、すべての小児患者が受けられる標準治療となればよいと思います。正確な分子診断によって、最適な治療法の情報をすべての小児患者向けに提供することができます」。

例えば、神経膠腫など一部の小児がんは誤診されることがあるとFouladi医師は説明する。「高悪性度神経膠腫と診断された子どもに分子診断学を適用すると、実は低悪性度神経膠腫であったり、まったく別の腫瘍であると判明することがあり、その場合は必要な治療法はまったく異なり、予後もまったく異なります。分子診断学は、正しい診断、最適な治療の提供、そして最終的には患者さんの予後向上に大きく貢献することができるのです」。

分子特性データは、がんに関する詳細な情報を提供して正確な診断を下す際に利用されるだけでなく、子どもが臨床試験の対象になるかどうかを判断する際にも使用できる。分子特性解析では、例えば、子どものがんの分子分類を識別して、それが新規治療法を評価する臨床試験の対象となる特定の分類のがんであるかどうかを明らかにすることができる。

分子特性解析構想への登録は、まずCOGが管理する小児がんレジストリ「Project:EveryChild」への参加を通じて行われる(APEC14B1)。最初の参加者として、新たに診断された小児、青年、および診断時点で25歳以下の若年成人が含まれる予定である。また、COG臨床試験参加の適格性を調べるための検査中である25歳以上の若年成人も含まれる可能性がある。

参加者から採取した腫瘍および血液検体は、解析のために認定ラボに送られ、その結果は21日以内に患者と家族に提供される。また、解析データはデータベース化され、研究者が将来の研究で利用できるようになる。例えば、一部の腫瘍は最初は奏効した治療法になぜ耐性を示すようになるのか、治療に関連する副作用のリスクを高める要因は何か、といった研究に活用できる。参加者を特定できるような個人情報は、データをデータベースに入れる前に削除される。

Widemann医師は、この分子特性解明構想は小児がんコミュニティが支持しやすいプログラムであると言う。「最高のツールを使って最も正確な診断を下し、最も効果的な治療を行なえること、それが医師や家族が一丸となって取り組める目標だと思います」と同医師は述べる。

翻訳担当者 山田登志子

監修 高光恵美(生化学、遺伝子解析)

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