肝芽腫の化学療法、副作用軽減に向けた取り組み

一部の小児肝臓がん患者は、この疾患の治療に通常行われているより少ない量の化学療法で済む可能性があることが第3相臨床試験結果からわかった。

NCIが支援するChildren’s Oncology Group(小児腫瘍学グループ)の主導による本研究は、小児肝臓がんの中で最も多い肝芽腫の小児と乳児を対象としたものである。肝芽腫の患者は診断時に手術で切除され、その後、残っているがん細胞を死滅させるために化学療法を受ける。

肝臓がんは小児ではまれであり、診断時に腫瘍を手術で切除できるのは患者のうち約3分の1にすぎない。

診断時に腫瘍を切除し、化学療法を受ける小児患者の約90%がこの疾患を克服する。 しかし、その中には、薬剤シスプラチンによる難聴など、化学療法の永続的副作用を発症する人もいる。

そこで研究者らが研究課題としたのは、低用量での化学療法により生存に影響を与えることなく副作用を軽減できるかどうかであった。

本試験で化学療法薬を通常の半量投与された小児患者は、先行試験で全量投与された患者と同程度の生存期間であったとの結果が4月8日にThe Lancet誌で報告された。

試験担当医師のひとりであるHoward Katzenstein氏(フロリダ州ジャクソンビル、Nemours Children’s Specialty Care、Wolfson Children’s Hospital在籍)は、「標準用量である4サイクルの化学療法は不要であり、2サイクルで十分らしいことがわかりました」と述べた。

この試験は、Children’s Oncology Groupをはじめとするがん研究者による幅広い取り組みの一環であり、がん再発の可能性を高めることなく副作用リスクを軽減することができる小児がん患者向け治療法の評価を目的とする。

患者の生活の質に重点を置く

速やかに肝切除手術を受けた小児肝芽腫患者に対しては、病院で化学療法を行うのが一般的である。入院期間が長くなるのに加えて、化学療法は治療中に悪心、嘔吐、感染リスク、腎障害などの副作用を引き起こす可能性があるとKatzenstein医師は説明する。

「治癒率90%の患者群においては、これらの子どもたちの生活の質が可能な限り高くなるようにしてあげる必要があります」とKatzenstein氏は言う。本試験は、診断時に腫瘍を手術で切除できなかった患者も対象としており、患者の治癒に必要な術後化学療法の用量を「最適化」することを目的とした。

本試験では、診断時に手術を受けた肝芽腫患者49人に対して、3種類の化学療法薬(シスプラチン、フルオロウラシル、ビンクリスチン)を組み合わせた投与を標準の4サイクルではなく2サイクル行った。

追跡期間中央値42カ月後、試験参加患者の90%以上は肝臓がんの症状も再発もない状態(無病生存と呼ばれる転帰)であった。この結果は、外科手術と化学療法4サイクルを実施した先行試験の結果と比較しても遜色がないと研究者は述べた。

試験参加患者のうち難聴となったのは1人だけであった。追跡期間中央値4年後、患者の95%が生存しており、5年全生存率は91%であった。

「本試験の結果は、この疾患の今後の治療方法に関する決定に示唆を与えるものです」と、NCIがん治療評価プログラム・小児固形腫瘍治療学部長Nita Seibel医師は言う。Seibel氏は本試験には関与していない。

Seibel氏は注意すべき点として、本試験が小規模であること、そして、試験結果が適用されるのは診断時に腫瘍を手術で安全に切除可能な患者の治療に限られることを挙げた。腫瘍が進行期のものであるか、他の部位に転移している患者においては化学療法の用量を減らすことはできない。

「本試験は、一部の肝芽腫患者に対する化学療法の投与サイクルを6回から4回に減らした先行研究の成果に基づいています」とSeibel氏は続けた。「本研究の最終目標は、予後を悪化させることなく患者に必要な化学療法の用量を減らすことです」。

しかし、この目標達成に向けた進捗は、一つには小児肝臓がんが非常にまれであるという理由のため、これまでのところ「漸進的」であるとも言い添えた。北米で肝芽腫と診断される人は年間約100〜125人にすぎない。

「願わくは、この病気の子どもたちの一部が治療として手術だけを受け、化学療法を受けずに済むようになればよいですが、まだそこには至っていません」とSeibel氏は言う。

手術に適した患者を選定するためのガイドライン

今回の結果が示すように、診断時に手術で切除可能な小児肝芽腫患者の場合、肝臓がんは「十分に治る可能性がある」疾患であると、Greg Tiao氏(シンシナティ小児病院・小児外科医、本試験担当医師)は述べた。

小児肝芽腫患者のうち、診断時に安全に手術を受けることができる患児を医師が識別できるように、Rebecka Meyers氏(ユタ大学病院医師、本試験担当医師)が率いるチームで、画像解析に基づいて安全に切除できる腫瘍を識別するためのガイドラインを開発した。

例えば、腫瘍が肝臓全体ではなく肝臓の一部に影響を及ぼしている患者は、外科手術を受けられる可能性がある。

このガイドラインは本臨床試験にも取り入れられた。これまで、外科医は主に自分の知識と経験を頼りに、どの患者が腫瘍切除に適しているかを判断していた。

「しかし、小児がん患者を診る大規模医療施設の外科医でさえ、肝芽腫患者は年に1人か2人しか診ていないと思われます」とTiao氏は述べた。

今後、追跡調査と大規模研究を実施して、ガイドラインの使用が患者選定と患者転帰にどのように影響するかを見極める必要があると研究チームは説明する。

小児肝臓がん患者のための国際試験

肝芽腫と新たに診断された小児に対して、手術後の化学療法のサイクル数を減らす本アプローチは、北米、ヨーロッパ、日本、オーストラリアで進行中の大規模な国際臨床試験でさらに評価が行われている。

この試験では、約1,200人の子どもにおいてさまざまな治療アプローチを評価する予定である。

例えば、診断時に腫瘍を手術で切除することができない患者の一部に対しては、一次治療として化学療法を行うことにより腫瘍を小さくして、手術で腫瘍を切除する可能性を高めるという方法がある。

この試験は、将来的にすべての肝芽腫患者に対する標準治療の確立に役立つエビデンスとなるものと期待されている。

Katzenstein氏は、「これは肝芽腫について国際的に取りまとめられた最初の臨床試験です」と言う。「その成果は大規模な国際研究に基づくエビデンスとなり、患者さんに低用量の化学療法を安全に投与して化学療法に伴う問題を回避できる日が来るでしょう」。

翻訳担当者 山田登志子

監修 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院 消化管内科)

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