小児がんサバイバーでは、遺伝的要因が二次がんリスクに影響

米国国立がん研究所(NCI)ニュースリリース

高頻度でみられる遺伝的要因は、一般集団においてがんリスクを予測できるが、小児がんサバイバーにおける二次がんのリスク上昇も予測できる可能性があることが、米国国立衛生研究所(NIH)の一部門である米国国立がん研究所(NCI)の研究者らが主導した研究によって示された。2024年3月7日にNature Medicine 誌に発表された本知見は、小児がんサバイバーにおける二次がんの発生に遺伝学が重要な役割を果たす可能性があることを示す新たな証拠となり、受け継がれたコモンバリアント(集団全体のおよそ1%以上の頻度でみられる遺伝子変異)が非常にリスクが高いサバイバーの検診や長期的なフォローアップに影響を与える可能性があることを示唆している。

小児がんサバイバーは、がん治療の副作用やまれな遺伝的要因(レアバリアント:集団全体の1%以下の頻度でみられる遺伝子変異)により、後に二次がんを発症するリスクが高いことが知られている。今回の新たな研究で、研究者らはコモンバリアントと放射線治療歴の複合影響を評価した結果、がんのリスク上昇は、治療歴と遺伝的要因のそれぞれ単独での関連の合計より影響が大きいことを発見した。

「対象患者の遺伝子構造に関する知識は、二次がんのリスク管理に役立つ可能性があります」とNCIのがん疫学・遺伝学部門の臨床試験責任医師、Todd M. Gibson 医学博士は述べる。「将来的には、治療歴やその他の危険因子とともに遺伝的因子を組み入れることで、サバイバーのその後のがんリスクをより完全に把握し、長期的なフォローアップケアの指針とすることができればと思います」。

研究チームは、小児がんサバイバーの二次がんのリスクに対する、高頻度の先天的な遺伝的変異の役割を評価するために、健康な人の大規模集団で実施されたゲノムワイド関連解析(GWAS)のデータを用いた。そのような研究により、さまざまながんのリスクに関連する数千のコモンバリアントが同定されている。一つのコモンバリアントに関連するリスクは通常小さいが、多数のバリアント(変異)の影響は、ある個人の遺伝的リスクをより包括的に評価する要約スコア、もしくは多遺伝子リスクスコア(ポリジェニックリスクスコア)に一般化することができる。

多遺伝子リスクスコアは、一般集団におけるがんリスクの予測に有望であるが、そのスコアが小児がんサバイバーにおける二次がんのリスクとも関連しているかどうかは不明であった。

それを明らかにするために、研究者らは、2つの大規模コホート研究における小児がんサバイバー11,220人を対象に、多遺伝子リスクスコアと基底細胞がん、女性の乳がん、甲状腺がん、扁平上皮がん、メラノーマ、大腸がんのリスクとの関連を調べた。大腸がん以外のこれらすべてのがんについて、一般集団におけるGWASから得られた多遺伝子リスクスコアは、小児がんサバイバーにおける同種のがんのリスクと関連していた。

次に研究者らは、基底細胞がん、女性の乳がん、甲状腺がん(複合データの集合体において高頻度で発生し、放射線療法と強く関連している悪性腫瘍)を考察し、多遺伝子リスクスコアと治療歴の複合効果を検討した。その結果、高線量放射線被曝と高い多遺伝子リスクスコアの組み合わせに関連するリスクは、個々のリスク因子のリスクの関連性を単純に合計した場合に予想されるよりも大きいことを発見した。

基底細胞がんに関して、多遺伝子リスクスコアが高いと、小児がんサバイバーの場合、多遺伝子リスクスコアが低い場合と比較してリスクが2.7倍に上昇した。皮膚への高い放射線被曝歴は、皮膚への低い放射線被曝と比較してリスクが12倍に上昇した。一方、多遺伝子リスクスコアが高く皮膚への放射線被曝量が高い小児がんサバイバーでは、皮膚への放射線被曝量が低く多遺伝子リスクスコアの低い小児がんサバイバーと比較して、基底細胞がんのリスクが18.3倍に上昇した。

さらに、50才までで、多遺伝子リスクスコアが高く放射線被曝が多いサバイバーは、多遺伝子リスクスコアが低く放射線被爆の低いサバイバーと比較して、基底細胞がん、女性の乳がん、甲状腺がんの累積罹患率が高かった。たとえば、胸部への放射線照射を受けた女性サバイバーにおいて、50才までに乳がんと診断された割合は多遺伝子リスクスコアが高い人では33.9%であったのに対し、多遺伝子リスクスコアが低い人では21.4%であった。

本研究のひとつの限界は、解析の対象となった集団が主にヨーロッパ系人種であったことである。そのため、多様な集団におけるさらなる研究が必要とされる。さらに、多遺伝子リスクスコアは、将来的に検診のアプローチやその他の臨床判断に影響を与える可能性はあるが、まだ臨床で日常的に使用されていない。

「これらの結果は、多遺伝子リスクスコアが、放射線被曝した小児がんサバイバーの長期的なフォローアップのガイドラインを改善する役割を果たす可能性を示唆していますが、現時点では、それだけでは既存のガイドラインを変更するには十分ではありません」とGibson医学博士は述べた。

  • 監訳 河村光栄(放射線科/京都桂病院)
  • 翻訳担当者 山口みどり
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  • 原文掲載日 2024/03/07

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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