健康的な生活習慣によりがんの死亡率が下がる可能性

英国医療サービス(NHS)

「全てのがん死の半数は、より健康的な生活習慣を取り入れるだけで回避できた」とデイリー・メール紙が報告した。

新たな研究により、生活習慣を少し変化させるだけで、がんによる死亡率が劇的に下がるというエビデンスに重みが加えられた。

研究では、10万人を超す米国内の医療従事者から、生活習慣とがんの有無や状態に関するアンケートを2年ごと、食事に関するアンケートを4年ごとに回答を集めた。

研究者らは、生活習慣因子が低リスクの被験者と高リスクの被験者の発症率を比較し、また低リスク群と米国内の白人全体との発症率を比較した。

研究によると、多くのがん発症例および死亡例で、過体重、喫煙、多量飲酒、運動不足といった高リスクの生活習慣と関連した可能性があるという結果であった。

研究者らは、この集団における全がん症例の4分の1から3分の1は不健康な生活習慣因子が関与した可能性があると推定した。

こうした結果は、より健康的な生活習慣によりさまざまながんのリスクが減少するという過去の研究や知見と一致する。

だがこの研究には、米国の白人医療従事者のみが参加した集団であることや推定値が正確でない可能性があるなど、研究の限界が存在する。

研究は禁煙など、どんな些細な生活習慣の変化でもがんの発症リスクを大きく減らせることを裏付けているのは明白である。当然ながら、そうした小さな変化を増やすほど効果は高まる。

生活習慣の変化がどのようにがん予防に役立つのかについての詳細はこちら(英語)。

研究の出典

研究はハーバード大学医学部の研究者らが行い、資金提供は米国国立衛生研究所が行った。

論文はピアレビュー誌であるJAMA Oncology誌に掲載されている。

デイリー・メール紙は研究についてかなり正確に報告していたが、研究上の限界については一切触れていない。

記事の中で、がんのリスクを下げる方法に関する研究チームの推奨事項が明確に記載されていたのはよいことである。

しかしながら、研究には、がんの種類によって数字に大きく差があることが記されており、見出しにある「全てのがん死の半数」という表現はいささか誇張である。

研究の種類

研究は大規模集団を長期にわたり追跡調査した前向きコホート研究であり、がんとその関連死の発生率を調査したものである。

研究者らは、こうしたがんの発症という転帰が各種生活習慣因子とどう関連があったのかを調べ、これらの因子が関与したと思われるがんの割合を求めた。

こうした観察による研究という性質上、因果関係を証明することは不可能である。だが関連性と可能性のあるリスク因子の特定は可能である。

こうした研究では、大多数の参加者を長期間にわたって追跡調査できるという長所がある。しかし、追跡調査で脱落する人が経過とともに増える可能性がある。

研究内容

研究では、2つのコホート研究から参加者を募集した。

・The Nurses’ Health Study – 1976年より。30歳から55歳までの女性看護師が参加。

・The Health Professionals Follow-up Study – 1986年より。40歳から75歳までの男性医療従事者が参加。

参加者は、研究開始時および2年ごとに病歴と生活習慣についてのアンケートに回答した。食事に関する情報は、公定法である食事摂取頻度調査票(FFQ)を用いて4年ごとに収集した。

研究者らは生活習慣による健康リスクの程度に応じて参加者を2群に振り分けた。

以下の条件を満たす参加者を低リスク群とした。

・喫煙歴なし、もしくは禁煙して5年以上経過

・飲酒しない、もしくは適度なアルコール摂取(女性は1日1杯、男性は2杯以内)

・Body Mass Index(BMI)が5以上27.5未満

・高強度の運動を週75分以上、もしくは中強度の有酸素運動を週150分以上

上記の条件すべてを満たさない場合を高リスクとした。

評価項目は、がんおよび関連死の総発生率、および主要ながんの各発症率とした。がんの報告はアンケートによる自己報告とした。参加者が回答不能な場合、National Death Indexを検索し死因を特定した。

研究者らは低リスク群と高リスク群のがん発症率を比較した。その後、全国的サーベイランスデータ(national surveillance data)を調べ低リスク群のがん発症率と白人全体における発症率を比較した。

こうした情報から人口寄与危険度(PAR)が算出された。

この数値は、不健康な生活習慣因子が寄与した可能性がある全てのがん、言い換えるとリスク因子(ここでは高リスクの生活習慣)を排除していたら発症しなかったはずのがんの割合を計算したものである。

PARを用いれば、例えばある集団で喫煙者が存在しなかったとすると肺がんで死亡しないと考えられる人数を推測することもできる。

結果

研究では計135,910人を組み入れた(女性89,571人、男性46,339人)。低リスク群は全参加者の21%(女性12%、男性9%)で、残りの79%(女性54%、男性25%)は高リスク群とした。

10万人あたりのがん発症率は低リスク群で女性463人男性283人、一方で高リスク群では女性618人男性425人であった。

このことから、研究者らは、高リスクの生活習慣因子が関与したと考えられるがんの割合は女性で25%、男性で33%と計算した。がん関連死については、高リスクの生活習慣因子が関与したと考えられるがんによる死亡の割合は女性で48%、男性で44%と評価した。

各種がんについては、高リスクの生活習慣因子によると推定されるがんの割合は以下の通り。

・肺がん 女性82%、男性78%

・大腸がん 女性29%、男性20%

・膵臓がん 女性30%、男性29%

・膀胱がん 女性36%、男性44%

上記とは異なる部位の癌である乳がん(12%)、子宮がん(49%)、腎臓がん(男性で48%)、喉頭がん(女性75%、男性57%)などにおいても関連性が認められたにもかかわらず、がん死の推定値も同様であった。

米国民全体でみると、本試験の被験者集団全体よりも高リスク状態にある、つまり不健康な生活習慣による上記のがんのPARは、例えば大腸がんのPARは50%と大きく上昇するなど、研究者らの推定値はさらに高い。

結果の解釈

研究者らは「今回行った一部の米国白人集団に対するコホート研究については、がんの20〜40%とがん死の約半数は生活習慣を変えることで予防できる可能性がある」と結論づけた。

「これらの数字は、米国の白人全体を対象に評価した場合40〜70%まで上昇し、また観察結果はより幅広い国民層にも適用できるのではないかと考えます」。

結論

この前向きコホート研究では、米国の医療従事者の一部を対象に、不健康な生活習慣因子に関連するがん、およびがん関連死の件数を評価した。

研究結果が示すように、男女とも多くのがんおよびがん関連死が過体重、喫煙、多量飲酒、運動不足といった高リスクの生活習慣と関連した。

残念なことだが、米国全体でみると不健康な生活習慣はさらに多くの人のがんの原因となっていると推測される。

こうした知見は、健康的な生活習慣がさまざまながんのリスクを減少させることを示した多くの研究と一致している。

研究には長所と考慮すべき限界が存在する。多くの人が研究に参加したこと、発症率が生活習慣よりも環境因子と関連するようながんは除外していることは、研究結果に重要性を与えるものである。

しかしながら研究には限界も存在した。

情報収集のためにアンケートを用いると、いま何をしているかではなく何をすべきだと考えているかを報告する人によるバイアスや、しばらく経つと情報を思い出すことが難しくなることによるバイアスが入りやすい。

研究に組み入れられたのは医療従事者のみである。こうした群は健康意識が高いことが考えられ、国民全体をあまりよく反映していないと思われる。このことは、高リスク群の人でさえ米国民全体の中では健康的であり、不健康な生活習慣因子によると推測されるがんのPARは米国全体では高かったという事実に裏付けられる。

白人のみ対象とした場合、得られた結果は他の人種に必ずしも当てはまらない可能性がある。

結果は推定値にすぎない。こうした集団および生活習慣因子とがん発症率に対する入念な分析を行って情報を得たとしても、不健康な生活習慣因子が関与するがんの割合は、特に大きな集団に対しては正確ではない可能性がある。

こうした限界はあるものの、不健康な生活習慣因子はがん以外にさまざまな健康問題の発生リスクを上昇させることは周知の事実である。どんな些細な生活習慣の変化でも、がんのリスクは大きく減らすことができるはずである。

【キャプション】週に数時間の運動でがんのリスクを下げる可能性がある

翻訳担当者 渋谷武道

監修 大野 智(補完代替医療/大阪大学・帝京大学)

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原文掲載日 

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