OncoLog 2015年2月号◆HIVと癌の同時治療が生存結果を改善する

2015年2月号(Volume 60 / Number 2)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

HIVと癌の同時治療が生存結果を改善する

— Bryan Tutt

HIVと癌はそのどちらが先に診断されていても、同時に治療するには特有の問題点がある。患者の免疫機能が低下していること、HIVスクリーニングが必ず行われているわけではないこと、薬剤間に相互作用があることにより、HIVと癌の同時治療は複雑なものとなっている。テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの感染症専門家は癌患者に対してもHIVの治療を同様に行っており、これらの問題を克服する方法を検討している。

HIV と癌

HIVと癌の関係は十分に解明されていないが、ウイルスはさまざまな癌のリスクに関係することが知られている。

感染症科助教のHarrys Torres医師は以下のように述べている。「長年HIVと関連した癌、いわゆるAIDSに特徴的な癌と言われている子宮頸癌、カポジ肉腫、非ホジキンリンパ腫などをわれわれは経験してきた。しかし、HIV治療の発展とともに患者の生存は伸び、今やAIDSに特徴的と考えられていた癌以外の癌も問題となっている」。

一般の人に比べHIV患者は肺癌、黒色腫、頭頸部癌、肛門癌にかかる割合が高い。感染症科准教授のBruno Granwehr医師は、「臓器移植を受けた患者にみられるのと同様に、免疫不全状態により患者は癌を発症しやすくなっている」と述べている。HIV患者の高い癌罹患に関係して残念なデータが報告されている。「米国ではHIV患者の死亡の3分の1が癌に関連している。このことは、米国のがんセンターではHIV検査へのアクセスが限られており、癌が最初に診断された患者のHIV診断が遅れてしまうことに関係しているかもしれない」と、Torres医師は言う。

癌患者のHIVスクリーニング

HIVと癌の両方に罹患している患者の多くは、自分がHIV陽性であることに気付いていない。Torres医師と Granwehr医師は、HIV検査を癌患者の一般検査に含めるべきであると考えている。Torres医師は、「MDアンダーソンがんセンターに癌治療に来るHIV陽性患者のうち、16~33%は、ここで検査を受けるまで、自分がHIVに感染していることを知らない」と述べている。

MDアンダーソンがんセンターでは、HIVが危険因子と考えられている癌と悪性血液疾患の患者にはHIV検査を行っている。しかし、MDアンダーソンがんセンターを含むほとんどのがん病院において、現在すべての患者にHIV検査が行われているわけではない。Granwehr医師は次のように述べている。「がんセンターで癌患者のHIV検査が見過ごされている理由は多数ある。患者は癌治療のために紹介される前に検査されているだろうという憶測や、州により異なるなどの検査同意書の扱いの不明瞭さに加え、臨床医の中にはHIVは癌患者に多い高齢者ではなく、若者に限った問題であるという誤った認識を持つ者もおり、しばしば検査が行われていない。しかし、健康な高齢者が増加するにつれ、HIVと診断される50歳以上の新患者も増えている。50歳以上は、新たにHIVと診断される症例の増加率が最も高い年齢層の一つである」。

Granwehr医師はMDアンダーソンがんセンターのHIV検査のシステムを改善に取り組むグループのリーダーを務めている。「われわれは同意書にHIV検査を組み込むことを提案している」と彼は語っている。この方法によりHIV検査を促進し、スクリーニングが見逃される患者の数を減らすことができると考えられる。

Granwedhr医師はさらに次のように述べた。「もしあなたが癌患者の免疫をさらに抑制する化学療法や他の治療をするのであれば、できるだけ事前にHIV陽性か否かを知っておくべきである。HIV検査は肝臓や腎臓の機能のように、治療開始前の必要な検査と考えられるべきである。癌とHIVは同時にうまく治療することが可能であり、癌患者の検査の一つとしてHIV検査をすることが重要である」。

 INSTINNRTIプロテアーゼ阻害剤
タキサン系抗癌剤  ドキタキセル投与時は、ARV治療をダルナビル/リトナビルからラルテグラビルに変更
細胞傷害性抗癌剤  ドキソルビシン投与時は、ARV治療をエトラビリンからラルテグラビルに変更
骨髄移植前処置 フルダラビンとブスルファン投与時は、ARV治療をエファビレンツからラルテグラビルに変更フルダラビンとメルファラン投与時は、ARV治療をロピナビル/リトナビルからラルテグラビルに変更
AVBD療法 ARV治療をエファビレンツからラルテグラビルに変更 
ICE療法 ARV治療をエファビレンツからラルテグラビルに変更 
シクロスポリン  シクロスポリンをシロリムスに変更、ARV治療(ダルナビル/リトナビル)は変更なし
トリアゾール系 ボリコナゾール投与時は、ARV治療をエファビレンツからラルテグラビルまたはアタザナビルに変更ポサコナゾール投与時は、ARV治療をダルナビル/リトナビルからラルテグラビルに変更他の組み合わせへの変更なし

【表の原文ページへ】
水色:変更なし、黄土色:投与薬剤の調整または変更、白:不明

この表は、癌とHIVの両方の治療を受けた患者の薬物相互作用を避けるための治療の変更を示している。INSTIと抗癌剤の間に臨床的に重要な相互作用は見られなかった。
略語説明; ARV:抗レトロウィルス、AVBD:ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン、ICE:イホスファミド、カルボプラチン、エトポシド、INSTI:インテグラーゼ阻害剤、NNRTI:非核酸系逆転写酵素阻害剤
出典: Torres HA, et al. Clin Microbiol Infect. 2014;20:O672–O679.

癌患者に対するHIV治療

HIVと癌の両方に罹患した患者に関する調査によると、HIVと癌の治療を同時に実施した患者は、癌治療のみの患者より生存期間が長かった。そのため、MDアンダーソンでは、HIVに感染している患者は、初めて診断された場合でも、すでに診断されていた場合でも、感染症外来で診察する。感染症専門医は、HIV治療の抗レトロウイルス剤のレジメンを個々の患者の癌治療と調整するために、癌専門医と密接に連携している。Granwehr医師は、さらに、「MDアンダーソンで化学療法を受け、HIV治療は他施設で受けている患者には、必要に応じて外部の担当医と連携して抗レトロウイルス剤を変更することもできる」と述べた。

Granwehr医師とTorres医師によると、癌とHIVの治療を同時に実施する際に最も重要な点は、HIV治療薬、抗癌剤、癌治療によく使用する薬剤(例えば抗真菌剤、抗ウイルス剤、免疫抑制剤等)等の意図しない相互作用と薬剤毒性を防ぐことである。

MDアンダーソンの医師は、何百人ものHIVと癌を併発した患者の治療に成功している。しかし、HIV治療薬の抗レトロウイルス剤と癌治療薬の抗癌剤や分子標的薬との間には、多くの未知の相互作用がある。

未知の部分を明らかにするため、Torres医師らは、HIVと癌の治療を実施し、その後もMDアンダーソンで定期的に診察を続けた患者154人の後ろ向き研究を行った。有害事象、副作用、臨床上問題となる薬剤相互作用、さまざまな抗レトロウイルス剤レジメンによる治療の効果を解析した。

この研究においては、広く使われているHIV治療薬の中で、インテグラーゼ阻害剤(INSTIs)の忍容性が最も高く、癌治療薬との相互作用が最も少なかった(図参照)が、非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTIs)も、忍容性が高く、薬剤相互作用が少なかった(図参照)。INSTI製剤やNNRTI製剤を基本としたレジメンの効果は同等であった。HIVプロテアーゼ阻害剤は、複数の抗癌剤に対して有意な臨床的相互作用が認められ、プロテアーゼ阻害剤ベースのレジメンは、INSTIベースやNNRTIベースのレジメンより効果が低かった。

Torres医師は、INSTIsを使わずに癌患者のHIV治療を試みることは、より困難なことであろうと述べた。「INSTIsは、免疫治療薬や他の抗癌剤との相互作用が事実上ゼロである」と、後ろ向き解析の共同研究者であるGrandwehr医師も同意した。

薬剤の相互作用やそれ以外に起因する毒性のために、HIVと癌を併発した患者に対する治療の変更を余儀なくされる場合は、通常、抗癌剤レジメンより抗レトロウイルス剤レジメンを調整する。Torres医師やGranwehr医師によると、癌治療を変更することは滅多にないが、極めて稀に抗癌剤の投与量を調整することがある。

Granwehr医師は、さらに、癌治療の時期がHIV治療による影響を受けることはほとんどないと述べた。しかし、新たにHIV感染が診断されウイルス治療を開始したばかりの場合には、患者の安定を確認するために癌の外科手術を延期するかもしれないと付け加えた。

癌患者に対するHIV治療のもう一つの試みは、患者の病状をモニターすることである。「HIVをモニターする際に広く使われている2つのマーカーは、ウイルス量とCD4細胞数である」とTorres医師は述べ、「しかしCD4細胞数は癌の治療に影響される。そのため、癌患者の場合は、ウイルス量をモニターするのが一番よい」と続けた。

検査と治療の向上

HIV感染のある癌患者の多くが、うまく治療を受けてはいるが、いまだ癌患者のHIV治療に関する標準的なガイドラインは存在しない。後ろ向き研究の報告書でTorres医師らは、そのようなガイドラインを作成するために前向き研究の実施を促した。

より多くのがんセンターに、癌患者のHIVスクリーニングの重要性を認識してほしいと、Granwehr医師は付け加えた。「HIVの検査と治療を行った癌患者は、癌治療とHIV治療を高い忍容性で受けている。癌治療医は、癌治療の利益を受けられなくなるかもしれないという理由で癌患者に対するHIV検査を躊躇すべきではない」。

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翻訳担当者 中村奈緒美、野川恵子

監修 高野利実 (腫瘍内科/虎の門病院)

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