リンチ症候群の遺伝子検査対象の選定を支援する簡易オンラインツール

ダナファーバーがん研究所は、リンチ症候群の遺伝子検査を受けるべき人を迅速に選定する新たなオンライン評価ツールを開発した。リンチ症候群は、大腸がん、子宮内膜がん、卵巣がん、胃がん、およびその他のがん生涯リスクを大幅に高める遺伝性疾患である。

279人に1人、米国ではおよそ100万人が、リンチ症候群の原因となる5つの異なる遺伝子のうち1つの遺伝子に変異を持つと推定される。これはいわゆる「ミスマッチ修復」遺伝子の変異で、DNAの損傷を修復する細胞の能力が損なわれ、遺伝的に損傷した細胞が異常な増殖をし、がんを発症しやすくなる。5つの遺伝子とは、MLH1MSH2MSH6PMS2、およびEPCAMである。

ダナファーバーの研究者と医師が開発した新たなオンラインモデルはPREMM5と呼ばれ、リンチ症候群に関連するこれらの遺伝子変異を持つ可能性を迅速に評価することができる。PREMM5については、本日付けのJournal of Clinical Oncology誌で報告された。

報告書の上級著者は、ダナファーバーの人口科学分門におけるがん遺伝学と予防センターの研究部長で公衆衛生修士のSapana Sygal医師。「乳がんと卵巣がんに関連するBRCA1BRCA2ような他のがん素因遺伝子と比べ、リンチ症候群の遺伝子検査率や変異に関する認知ははるかに低いため、リンチ症候群の遺伝子変異を持つ人のほとんどは自分が変異を有していることを認識していません」と、Sygal医師は話した。

PREMM5の質問項目は、対象者の性別、年齢、がんの個人既往歴、および親族における特定のがんの既往歴など10項。2分以内で答えられるこうした質問への回答をもとに、対象者が親から受け継いだ生殖系列細胞に、リンチ症候群を起こす5つの遺伝子のどれかに変異を持っている確率を計算する。PREMM5モデルによってリスクが2.5%以上と同定された人について、リンチ症候群の遺伝子変異の有無を確定するために、遺伝カウンセリングおよび検査を受けることを、研究者は推奨している。

リンチ症候群の人は、大腸がんの生涯リスクが最大で80%あり、女性では子宮内膜がん(子宮体がん)を発症する生涯リスクも40から60%である。リンチ症候群はさらに、膵臓、小腸、胆管、尿路、脳、および皮膚の皮脂腺のがんリスク上昇にも関連がある。

PREMM5ツールは無料で、迅速、簡単に使えるので、リンチ症候群の検査対象を広げるのに役立つ可能性があるとSyngal医師は述べる。「遺伝子検査の真の力は、がん発症の予防につながるときです。リンチ症候群はこれまでに考えられていた以上により広範に存在するため、プライマリケア診療の場や健康な人も対象に、このツール活用を広く活用すれば、予防的ながんケアに役立てることができます」。

リンチ症候群と診断された人は、早い段階からスクリーニングやサーベイランス(検査による経過観察)を頻繁に受けるとともに、予防的手術を行うことで、がん発症の可能性を大幅に低減できる可能性がある。大腸内視鏡検査および前がん病変を除去することで、大腸がんの死亡を60%以上予防できる。卵巣および卵管の除去を伴う予防的子宮摘出術は、リンチ症候群の女性にとって、子宮内膜がんと卵巣がんの予防戦略として有効である。

PREMM5は、リンチ変異を特定する生殖細胞系遺伝子検査を受けた18,734人のデータを分析して開発された。この中には、血縁者にがん患者がいるが、自身は健康でがんを発症していない人も多数含まれている。調査票から、対象者が遺伝子検査を受けた時の年齢、性別、本人および家族のがん既往歴と、がん診断を受けた人は診断時の年齢に関する情報が提供された。Syngal医師の研究チームは、これと併せて生殖細胞検査の結果を分析した。これら2つのデータセットを相関させることで、5つの遺伝子に含まれる遺伝子変異を受け継いでいる可能性を予測するアルゴリズムを作成した。このモデルはその後、ダナファーバーのサンプルレジストリに登録した大腸がん患者1,058人のコホートで検証された。その結果、PREMM5でリンチ症候群関連の遺伝子キャリアと非キャリアを効率的に区別することができることが示された。

PREM1,2,6と呼ばれる以前のバージョンでは、リンチ変異遺伝子を有するリスクが5%以上の人に遺伝子検査を受けるよう推奨していた。しかしPREMM5では、2.5%以上の閾値が最も有用であると判定された。PREMM5モデルは、ダナファーバーの以下のウェブサイトからアクセスできる。

リンチ症候群遺伝子検査の推奨を判定する簡易オンラインツール
http://premm.dfci.harvard.edu/ 

本報告の筆頭著者はコロンビア大学医療センターのFay Kastrinos医師である。

この研究は、国立衛生研究所からR01CA132829,K24CA113433,K07CA151769助成金を受けた。

翻訳担当者 片瀬ケイ

監修 花岡 秀樹(遺伝子解析/サーモフィッシャーサイエンティフィック)

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