若年急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群患者への強力な移植前処置が最善

今回の大規模第3相臨床試験の結果は同種幹細胞移植を受ける予定の若年急性骨髄性白血病(AML)患者または骨髄異形成症候群(MDS)患者に対しては、強力な前処置を使用することが望ましいことを示唆している。

本試験において、大量化学療法と放射線療法の両方またはいずれかを用いた標準的な「骨髄破壊的」前処置群は比較的強度の低い骨髄非破壊的前処置群に比べて幹細胞移植後に疾患を再発する割合が遥かに低かった。

骨髄非破壊的前処置群で再発患者数が多かったため、当初予定していた患者総数のうち約4分の3の参加登録が終わった時点で早期に本試験は中止された。

治療による死亡患者数については、骨髄非破壊的前処置群の方が標準の骨髄破壊的前処置群よりも少なかったと、本試験の責任医師でフレッド・ハッチンソンがん研究センターのBart Scott医師らが2017年4月10日にJournal of Clinical Oncology誌で報告している。しかし、その差は、骨髄非破壊的前処置群で高率に認められた再発率を相殺するまでには及ばなかった。

幹細胞移植後に疾患を再発した患者に対して、新しい治療選択肢となり得る方法を模索し、そのための試験実施に取り組む研究者がいる中で、幹細胞移植後再発の治療についてはほとんど進歩がみられないのが実情です。このため、本試験の骨髄非破壊的前処置群において再発率が高かったことは懸案事項です、Scott医師は述べた。

「移植後の再発は従来から治療が非常に困難であり、再発患者の予後は非常に厳しいものです」とScott医師は述べた。

Scott医師は、今回の試験結果は決定的なものであると考えた。すなわち骨髄破壊的前処置に十分に耐えられる健康状態の若年患者の場合、骨髄破壊的前処置を標準とするべきだということを明確に示していると述べた。

骨髄非破壊的前処置の傾向

 65歳未満で初回の寛解導入療法で寛解に入るAML患者およびMDS患者の大半はその後に幹細胞移植を受けることになる。これらの患者はかなりの割合で、同種幹細胞移植により疾患を治癒させることができる。

本研究に関わらなかった立場から「若年でもともと健康な患者には骨髄破壊的前処置を選択することが望ましいとこれまで考えられてきました」と述べたのはNCIがん研究センター実験移植・免疫学部門のSteven Pavletic医師である。

しかし、骨髄破壊的前処置は非常に毒性が高いだけでなく、わずかながらそれによる死亡もある。

骨髄破壊的前処置は、寛解導入療法後もなお残存している腫瘍細胞を死滅させ、移植された幹細胞を生着させるために使用される。生着とは骨髄内にもともとある細胞の代わりに健康な赤血球や白血球が産生し始められるようになることである。生着は長期生存の重要な予測因子である。

「高齢のAML患者数は若年AML患者の数に比べて多いです。高齢のAML患者に対しては骨髄破壊的前処置に関連する毒性や治療関連死亡リスクを理由に、骨髄非破壊的前処置が通常用いられます」と、Pavletic医師は続けた。

「しかし最近では、若年患者にも骨髄非破壊的前処置が用いられるようになってきています」とPavletic医師は述べた。

骨髄破壊的前処置群と骨髄非破壊的前処置群とで長期生存率が類似していることを示唆する研究もある。しかし、若年患者のランダム化比較試験は実施されたことがなく、決定的な証拠は得られていなかった。

試験の早期中止

本試験は、NCIが一部資金を提供している血液・骨髄移植臨床試験ネットワーク(Blood and Marrow Transplant Clinical Trials Network)により実施された。試験中止前に登録した272人の患者の大部分がAMLであった。本試験の全登録患者が寛解導入療法後に寛解状態にあった。

18歳以上の登録患者が、骨髄破壊的前処置、骨髄非破壊的前処置のいずれかに無作為に割り付けられた。本試験では1つの前処置レジメンのみを用いるように指定していたわけでなかったが、各参加センターで使用された骨髄破壊的前処置レジメン、骨髄非破壊的前処置レジメンは特定のものであった。

前処置に起因する死亡率について、18カ月の追跡調査時点では骨髄非破壊的前処置群は骨髄破壊的前処置群よりもずっと低かった(4.4%対15.8%)。この差は研究者らが想像していたよりも小さかったとScott医師は述べ、従来、骨髄破壊的前処置に関連した死亡率は20%に近かったことを指摘した。

Scott医師は、本試験の骨髄破壊的前処置群における死亡率の低さは、「大量化学療法と放射線療法を毒性が軽減される形で施行できるようになった」結果であると考えている。

再発率については骨髄非破壊的前処置群では67.8%であり、骨髄破壊的前処置群では47.3%であった。AML患者の再発率に限れば骨髄非破壊的前処置群で65.2%、骨髄破壊的前処置群で45.3%であった。

 本試験のデータ安全性モニタリング委員会は、治療群間の再発率の大幅な差を根拠に、試験を早期に中止するよう求めた。Scott医師は、骨髄非破壊的前処置群において再発率が非常に高かったことは研究チームにとって予想外であったと指摘している。

「このことは、第3相ランダム化臨床試験を行うことが必要な理由を示すものです。なぜなら、従来正しいと考えられていたことが正しくないことが証明される可能性があるからです」とScott医師は述べている。

骨髄破壊的前処置群の患者のうち多くが18カ月の追跡調査後に生存していた。生存率の差は全患者では統計的に有意ではなかったが、AML患者では有意であった、とScott医師は述べた。

両群間の生存率の差が拡大する可能性があるとScott医師らは指摘している。再発を経験しながら試験中止時点で生存している患者死亡率はこれから高くなると思われると述べている。

治療法の変更

本試験で得られた結果は治療法に変更をもたらすものであるとPavletic医師は述べ、若年の健康な患者に対して骨髄非破壊的前処置を用いる趨勢には終止符を打つべきであるという。

しかし、Pavletic医師はいくつかの点において注意喚起を促している。今回採用された骨髄非破壊的前処置レジメンと異なるレジメンで骨髄非破壊的前処置を施行した場合の評価は本試験の範疇を超えるということが例として挙げられる。

Pavletic医師はまた、寛解導入療法後に微小残存病変(がんの症状や他の徴候がないにもかかわらず微量の腫瘍細胞が存在する状態)が検出されていない患者で骨髄非破壊的前処置に伴う再発リスクが異なるかどうかを調べることは興味深いと指摘している。

複数の研究で、微小残存病変のある患者は移植後の疾患の再発リスクが高いことが示唆されている。Scott医師は、研究者らが微小残存病変などの要因を考慮した試験データの継続的な分析を計画していると述べた。

しかし、参加したすべてのセンターがこれらのデータを収集していたわけではなく、研究者らが再発リスクに対する患者因子の影響についてしっかりとした結論を導くことは難しいでしょう、とScott医師は述べた。

それでも、本試験の結果により、標的療法および免疫療法を用いる治療法も含め、「AMLに対する新世代の骨髄非破壊的前処置レジメンに対する試験開発の土台が作られた」とPavletic医師は述べた。

翻訳担当者 会津麻美

監修 佐々木裕哉(血液内科・血液病理/久留米大学病院)

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