2021年ASCO年次総会(6月4-8日)注目の演題(続報)

6月4~8日にオンラインで開催される2021年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会において、多くのがん疾患部位にわたる幅広いテーマを扱った27の試験が発表される。

下記の試験について、複数の疾患領域のASCO専門委員が第三者の立場から解説および見解を述べることが可能。会見を希望する場合は、ASCOメディアチームまで連絡のこと。

【アブストラクト12029】アドバンスケアプランニングが進行がん患者の希望に及ぼす影響。

「進行固形がん患者を対象としたプライマリ緩和ケアのランダム化比較試験において、終末期医療についてがん専門医と話し合い、事前指示書を作成した患者は、希望を失わず、むしろ希望が増すことがわかりました。このようなむずかしい話し合いの場を持つことには意義があり、患者が心の準備をし、自分の人生を主導していく方法を再び手にする機会を提供することから、この試験はがん専門医に自信を与えるでしょう」と、緩和ケアのASCO専門委員であるLidia Schapira医師(FASCO(米国臨床腫瘍学会フェロー))は述べている。

【アブストラクト5577】無選別の子宮内膜がん(EC)患者で高率に認められるアクショナブルな(訳注:治療効果の期待できる薬剤が存在する)生殖細胞変異。

「生殖細胞系列のBRCA1/2病原性変異を有する女性の半数以上が、より悪性度が高く、治療がむずかしくなる傾向のあるII型子宮内膜がんでした。生殖細胞系列のBRCA変異に関する情報は、最終的に治療標的となる可能性があり、BRCAキャリアに悪性度の高い子宮内膜がんが多いことは、罹患していない人のリスク低減手術の意思決定に影響を及ぼす可能性があります。

本試験でアクショナブルな生殖細胞系列変異が高い確率で見られたことは、日常の臨床診療においてすべての子宮内膜がん患者に多遺伝子パネル検査を先行して実施することを支持する証拠になります。それによって、より多くの子宮内膜がん患者とその家族に対して、こうした精密医療の取り組みを実現できるからです」と筆頭著者のMonica Dandapani Levine医師は述べている。

【アブストラクト11524】イマチニブ(IM)、スニチニブ(SU)およびレゴラフェニブ(REG)耐性を示す進行消化管間質腫瘍(GIST)患者(pts)を対象とした、経口熱ショックタンパク質90(HSP90)阻害薬pimitespib[ピミテスピブ](TAS-116)のランダム化二重盲検プラセボ(PL)対照第3相試験

【アブストラクト6044】新たに診断された転移上咽頭がんを対象とした導入化学療法後のカペシタビン維持療法。非盲検ランダム化比較第3相試験

【アブストラクト509】HER2陽性早期乳がん患者におけるトラスツズマブ関連心毒性予防のためのリシノプリルまたはカルベジロール。正常値以下の左心室駆出率(LVEF<50%)の長期的変化

【アブストラクト11009】腫瘍学のリーダシップに見られるジェンダーおよび人種・民族格差

【アブストラクト1502】医療費負担適正化法(オバマケア)に基づくメディケイド(米国の公的保険)の拡大と新たに診断されたがん患者の生存との関連

【アブストラクト1503】COVID-19に感染したがん患者における遠隔患者モニタリング(RPM)の使用と入院減少との関連

【アブストラクト11505】転移または進行滑膜肉腫患者を対象としたAL3818(Catequentinib[カテクエンチニブ]、Anlotinib[アンロチニブ])塩酸塩単剤療法の第3相試験(APROMISS)

「カテクエンチニブは、第3相試験で実証された滑膜肉腫治療に有効な新しいチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)です。希少腫瘍の試験に対する支援は、必要性が高く、かつ試験の実施がむずかしい分野で有望な結果をもたらしています。試験ではパゾパニブによる前治療が認められていたため、サブセット解析では、患者は複数の経口TKIによる治療が可能であったことが示されています」と、筆頭著者のBrian Van Tine医学博士は述べている。

【アブストラクト10001】T細胞急性リンパ芽球性白血病に対するドナー由来CD7 CAR-T細胞

【アブストラクト100】5年に及ぶコミュニティへの働きかけと関与を行った前向きプロジェクト後のがん臨床試験における黒人参加者の増加

「ペンシルベニア大学のエイブラムソンがんセンターが、5年にわたり教育、コミュニティへの働きかけ、および関与を行った結果、がん臨床試験への黒人患者の組入れが増加し、黒人参加者の割合は12%から24%へと2倍以上に増加しました。この多面的な介入は、コミュニティレベルと施設レベルのプロジェクトから構成されました。

がん臨床試験に黒人患者が公平に参加することで、新たながん治療への黒人患者のアクセスが増加し、試験結果の一般化が促進されます」と、筆頭著者のCarmen E. Guerra医師(MSCE(Master of Science in Clinical Epidemiology)、(FACP(米国内科学会フェロー))は述べている。

【アブストラクト505】生殖細胞系列BRCA1/2(gBRCA1/2)変異陽性、早期HER2陰性乳がん(BC)患者を対象としたtalazoparib[タラゾパリブ]による術前療法。第2相試験の結果

【アブストラクト8506】手術可能なステージI NSCLC患者を対象とした定位放射線療法。STARS拡大臨床試験の長期結果

【アブストラクト500】MINDACT試験における超低リスクの70遺伝子シグネチャーを有する患者の転帰

アブストラクトの発表は、6月6日(日)午前8時(東部標準時)から中継予定。「70遺伝子シグネチャーにより、遠隔再発のリスクが極めて低い患者を特定できます。MINDACT試験に参加したこれらの1,000人の患者は、臨床リスクにかかわらず99%以上の優れた8年乳がん特異的生存率を示し、遠隔転移の発生率も低かったのです*。

この大規模な前向き試験では、70遺伝子シグネチャー超低リスク患者において治療のさらなる段階的縮小を考慮し、過剰治療と副作用のリスクをより低減できることが確認されました」と、筆頭著者のJosephine Lopes Cardozo医師は述べている。

*年次総会では、超低リスク腫瘍患者と低リスク腫瘍患者における遠隔転移または乳がん関連死リスク(無遠隔転移期間(DMFI))の最新ハザード比を発表予定。

【アブストラクト503】HR-/HER2+早期乳がんを対象としたパクリタキセル週1回投与併用または非併用のペルツズマブ+トラスツズマブによる術前de-escalation療法。ADAPT-HR-/HER2+バイオマーカーと生存結果

「これらの試験結果は非常に有望です。特に、この試験の患者の大半はステージ 2または3であり、この試験以外ではより積極的で毒性の強い標準治療レジメンを受けることになるからです。この試験は、早期の病理学的完全奏効を転帰良好の予測因子として使用できる可能性があり、これを達成することで、治療のさらなる段階的縮小が合理的に可能になることを示しています。この試験は、HER2+集団の特定の集団を対象とした、化学療法薬を用いないレジメンの可能性にも光を当てます」と、乳がんのASCO専門委員であるJane Lowe Meisel医師は述べている。

【アブストラクト8503】第3相CheckMate816試験の手術成績。切除可能非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する術前療法としてのニボルマブ(NIVO)+プラチナ製剤二剤併用化学療法と化学療法単独

【アブストラクト2002】トロポミオシン受容体キナーゼ(TRK)融合遺伝子陽性原発性中枢神経系腫瘍の成人および小児患者を対象としたlarotrectinib[ラロトレクチニブ]の有効性および安全性

「ラロトレクチニブは、TRK融合遺伝子陽性原発性CNS腫瘍患者において、迅速かつ持続的な病勢コントロールを実現した忍容性の高い新たな分子標的薬です。今回の結果は、あらゆる年齢層の原発性CNS腫瘍患者を対象としたNTRK遺伝子融合の検査を支持するものです。

TRK融合遺伝子陽性原発性CNS腫瘍の患者は、複数の化学療法や放射線療法の前に、あるいはそれらの治療では効果が得られなかった場合に、ラロトレクチニブを用いることによって放射線学的改善と臨床的改善が期待できます」と、筆頭著者のSebastien Perreault医師(FRCPC(カナダ王立内科医協会特別会員))は述べている。

【アブストラクト5000】de novo転移去勢感受性前立腺がん(mCSPC)患者を対象とした酢酸アビラテロン+プレドニゾンまたは局所放射線療法、あるいはその両方の2×2要因デザインを用いた第3相試験。PEACE-1の初期結果 アブストラクトの発表は、6月8日(火)午前8時(東部標準時)から中継予定。

【2021年ASCO年次総会で発表されるASCO試験】

【アブストラクト6043】CDKN2A欠損または変異を有する頭頚部がん(HNC)患者(pts)を対象としたパルボシクリブ(P)。Targeted Agent and Profiling Utilization Registry (TAPUR) 試験の結果

【アブストラクト11565】CDK4遺伝子増幅を有する軟部肉腫(STS)患者(pts)を対象としたパルボシクリブ(P)。Targeted Agent and Profiling Utilization Registry(TAPUR)試験の結果

【アブストラクト10549】腫瘍科クリニックにおける食事、運動、体重への配慮。全国患者調査の結果

【アブストラクト9067】バイオマーカー検査を待つ間に肺がん治療が遅れることに対する医師の懸念。米国の腫瘍内科医を対象とした調査の結果

【アブストラクト6509】がん治療中の患者がSARS-CoV-2に感染した場合の死亡リスク。ASCOレジストリ

【アブストラクト6520】腫瘍診療における性的指向・性自認データ収集の個別的および制度的予測因子。ASCO調査

関連する【アブストラクトE18520】「性的指向・性自認(SOGI)データ収集の障壁と促進因子」も参照

【アブストラクト6547】COVID-19パンデミックにおける米国の腫瘍内科医療の混乱。CancerLinQ Discovery(CLQD)解析

【アブストラクト1504】COVID-19の遠隔患者モニタリングに関するがん患者の視点

【アブストラクト5508】ERBB2またはERBB3遺伝子増幅、過剰発現、変異を有する子宮がん(UC)患者(Pts)を対象としたペルツズマブ+トラスツズマブ(P+T)。Targeted Agent and Profiling Utilization Registry (TAPUR) 試験の結果。アブストラクトの発表は、6月7日(月)午前8時(東部標準時)から中継。

翻訳担当者 工藤章子

監修 高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学奈良病院)

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