進行膀胱がんに対する免疫療法薬のタイミングが明らかに
2020年6月24日
最新情報:2020年7月1日、米国食品医薬品局(FDA)が白金製剤を用いた化学療法後に腫瘍が縮小したか又は増殖を止めた進行膀胱がんを有する患者に対し、アベルマブ(バベンチオ)を承認した。この承認は、転移していない(局所進行)または膀胱を超えて転移した進行疾患の維持療法にアベルマブを使用するためのものである。承認につながった臨床試験をJAVELIN Bladder 100 試験といい、その内容を以下で説明する。
進行膀胱がん患者の多くは、化学療法を用いた初回治療後すぐに免疫療法を開始する方が、がん治療後に長い治療休止期間を設けるよりも好ましいことが、新たな試験で示された。
本研究によると、免疫療法薬のアベルマブ(バベンチオ)を再発の徴候が現れる前から投与されていた患者は、再発するまで支持療法のみを受けていた患者よりも大幅に長く存命した。
上記の知見は2020年5月31日の米国臨床腫瘍学会(ASCO)20 バーチャル科学プログラムで報告された。
アベルマブを維持療法として投与された患者は、転移膀胱がん患者を対象とした臨床試験において、「これまでで最長の全生存期間を記録しました」と、この研究には参加していない、フォックスチェイスがんセンター膀胱がん研究長のElizabeth Plimack医師は、ASCOの会議で発言した。
「肯定的な結果がみられるのは素晴らしいことです」とNCIがん研究センタ―膀胱がん部門長のAndrea Apolo医師は述べている。しかし、進行膀胱がん患者に対する最良の治療の順序には不確かな部分があると、Apolo医師は注意を促した。
速やかな再発
他の部位に拡がった(転移を有する)膀胱がん患者の予後は不良であり、診断から5年間生存する患者はわずか5%に過ぎない。ほとんどの膀胱がんは、白金製剤(シスプラチンなど)を用いた化学療法に反応して増殖を止めるか、縮小する。消失することさえある。しかし、膀胱がんは多くの場合速やかに再発するのが常で、数週間か数か月で再発することもあり、成長速度が速い。
2016年以降、FDAは転移膀胱がんの治療用に5種類の免疫療法薬を承認した。これらの治療法は、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる薬物クラスに属する。免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫細胞に殺傷されるのを阻害するタンパク質に結合する。この作用により、免疫細胞が体内に広がったがん細胞を攻撃することが可能となる。
この5種の一部は、健康上のさまざまな理由で白金製剤を用いた化学療法を受けることができない一部の進行膀胱がん患者に対して、初期治療(一次治療)として承認された。
それ以外の薬剤は、白金製剤を用いた化学療法後に再発した膀胱がんに対して承認された(二次治療)。
しかし、再発時の膀胱がんには進行しやすい性質があるため、多くの患者は一度も免疫療法、あるいは他の二次治療を受ける機会を持たないと ロンドンのバーツがん研究所のThomas Powles医師は述べている。Powles医師はこの試験を主導し、ASCO会議で発表を行った。
「一次治療の化学療法の後、ごく少数の患者だけが二次治療を受けます。この疾患は活動的で急速に増殖するため、二次治療の成績は不良です」とPowles医師は述べている。
患者は勝ち目のない戦いに取り残されていると、ニューヨーク大学(NYU)ランゴーン医療センターPerlmutterがんセンターの泌尿器生殖器腫瘍内科部門長のArjun Balar医師は述べている。 Balar医師はこの試験に参加していない。白金製剤を用いた化学療法は重い副作用をもたらすことがある、と同医師は続けた。「患者は4~6サイクルの治療を受け、ひどく打ちのめされるのです。患者は(治療の)休みを求めます」
このような状況から、研究者が調査しようとしたのは、免疫チェックポイント阻害薬の使用をより早期にすることで、病気の再発を未然に防ぐことができるかどうか、かつ患者にとって許容できる治療であるかどうかであった。
【治療の定義】
一次治療:ある疾患に対して最初に行われる治療
維持治療:初回治療の後、がんが消失した後に再発しないように行う治療
二次治療:初回治療(一次治療)が効かないまたは無効になった際に行う治療
支持療法:重篤または生命を脅かす疾患を有する患者の、生活の質を向上するために行うケア
生存率の大幅な向上
Powles医師らは、局所進行または転移膀胱がんを有する患者700人を、国際的な試験であるJAVELIN Bladder 100試験に登録した。同試験は 試験薬の製造元であるPfizerが資金を提供した。
試験参加者全員が、シスプラチンおよびゲムシタビン(ジェムザール)による化学療法、または健康上の理由でシスプラチンが投与できない場合はカルボプラチンおよびゲムシタビン療法を受けており、化学療法中に疾患の悪化は認められなかった。
患者はアベルマブによる維持療法および支持療法、または支持療法単独のいずれかに無作為に割り付けられた。維持療法群の患者は、がんが再度増殖を始めるかそれ以外の理由で試験参加を中止するまで、アベルマブの静脈内投与を2週間ごとに受けた。両群の支持療法には、疼痛管理、栄養支援、感染症の治療が含まれた。
がんが悪化した支持療法群の患者が、試験の一環としてアベルマブを投与されることはなかった。しかし、試験参加を中止した後は、アベルマブまたはその他の免疫療法薬を投与することができた。
化学療法後に行う、アベルマブを用いた維持療法には、大きな利益があることが明らかになった。がんが悪化するまで支持療法のみを受けた患者では、全生存期間の中央値が14カ月だったのに対して、アベルマブによる維持療法を受けた患者では21カ月を超えた。
生存率の向上は、被験者の腫瘍がアベルマブの標的であるPD-L1というタンパク質を高発現しているかどうかとは無関係に確認された。PD-L1レベルはチェックポイント阻害薬を用いた治療への効果予測因子として広く研究されている。
アベルマブ群の47%および支持療法群の25%が治療に関連すると思われる重篤な副作用を発現した。アベルマブ群で最も良く見られた重篤な副作用には、 尿路感染症 、貧血、疲労などがあった。
アベルマブを投与した患者の12%が、治療を中止するに至る副作用を発現した。試験中に生じた死亡のうち2人(1人は敗血症、もう1人は脳卒中)が、アベルマブによる死亡であると判断された。
細かな点と今後検討すべき疑問
試験の結果を解釈する際にはいくつかの要素を慎重に考慮する必要があると、Apolo医師は説明する。
検討すべき主要な要素のひとつは、この試験が、アベルマブを化学療法の直後に投与した患者と、がんが進行したときに投与した患者を直接比較したわけではないということである。最初に支持療法のみを受けた被験者の約半数のみが、がんが悪化した後に免疫療法を受けた。上記の結果には多くの理由が考えられるが、国によって免疫療法薬の入手が難しいことも挙げられるだろうと、Apolo 医師は述べている。
しかし、一部の被験者にとって、がんがあまりにも速く進行していたことも要素のひとつであるかもしれないと、Apolo医師は付け加えた。「膀胱がんが増殖し始めると、その速度は非常に速いです。ですから、進行が分かったときに、(免疫療法の)開始を待つと、手遅れになるかもしれません」
「すべての患者が二次治療のセーフティーネットにかかるとは限りません」と、Plimack医師も同意した。
現在の段階で、JAVELIN試験から学ぶべきメッセージは「化学療法の後、免疫療法を行うのを待ってはいけない」と、 Balar医師は述べている。
しかし、ますます多くの試験が、免疫療法を一次治療として受けるべきか否かを研究していると、Balar医師は続ける。「免疫療法は、われわれが過去30年で達成した最も重要な進歩です」
JAVELIN試験の結果は、白金製剤を用いた化学療法による一次治療で恩恵を受けるのがどのような患者であるかという知見を提供できなかった、とBalar医師は付け加えた。「この試験は、化学療法がどの患者にとっても必ず最良の選択であるかを問うためにデザインされたものではありません」と同医師は説明する。
膀胱がんで免疫療法薬を受ける患者の中には、数年間持続する寛解が得られる者もいると、同医師は続けた。「ですから、がんのケアにおいて免疫療法薬を導入する最良の方法はどのようなものかを見つけ出す必要があるのです」。
継続中の複数の試験は、上記の疑問の答えを得る手助けになるだろう。一方、その他の試験は、まだ転移していない膀胱がんを有する患者に免疫療法薬を投与すべきか否かを研究しているとApolo医師は述べている。
「膀胱がんに対して、多くの時間と労力が費やされていることに感動しています」と Apolo医師は述べている。「どの研究もうまく行かなかったため、誰も膀胱がんの研究に興味を示さない長い期間がありましたが、今は効果を示す免疫療法薬があります。私たちは免疫療法薬を足がかりとして、患者の生存期間を向上できるかもしれません」。
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