腸内細菌叢で免疫チェックポイント阻害薬の効果がわかる可能性

・腸内に生息する細菌が免疫系と相互作用することが、研究で示されている。
 ・本研究は、その相互作用ががん患者の免疫療法への応答に影響を与えるかどうかを調べた。
 ・本研究は、免疫療法が患者に有効かどうかが腸内細菌叢からわかる可能性があることを示している。

オハイオ州立大学総合がんセンターのアーサー・G・ジェームズがん病院およびリチャード・J・ソロブ研究所(OSUCCC–James)の研究者らの新しい研究によると、腸内細菌叢を調べればがん患者に免疫療法が奏効するかどうかがわかる可能性があるという。

チェックポイント阻害薬と呼ばれる薬剤を用いた免疫療法は、多くのがん種の生存率を大幅に改善してきた。しかし、これらのがん患者が全員治療に応答するわけではなく、この治療が患者に奏効する可能性が高いかどうかを医師が判断するためにはバイオマーカーが必要とされている。

腸内細菌叢が免疫系と相互作用することが研究で示されているが、その相互作用が免疫チェックポイント阻害薬(ICI)療法に与える機構は不明である。

BMC Cancer誌に発表されたこの後向きモデル研究は、この疑問を解決し、細菌叢が免疫チェックポイント阻害薬療法の奏効を示すバイオマーカーとなるかを明らかにするために実施された。

この研究グループは、免疫チェックポイント阻害薬療法を受けた進行がん患者690人の生存率などのデータ、および医学文献のデータを用いて、他の疾患(併存疾患など)のために患者が服用し腸内細菌叢に影響する6種類の薬剤を関連付けるモデルを開発した。そして、このモデルを用いて、これらの薬剤が免疫チェックポイント阻害薬治療後の生存率にどのように関係しているかを検討した。

このモデルでは、細菌叢に有意な影響を及ぼすと予想される薬剤が生存率と強く関連していることが示された。この研究では、他にプロトンポンプ阻害薬、ヒスタミン受容体遮断薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、およびスタチンも対象とした。

「細菌叢が免疫チェックポイント阻害薬療法に有意に影響する可能性があることを示すエビデンスが増えてきています」と、研究の筆頭著者であり、OSUCCC-James分子発がん化学予防プログラム(Molecular Carcinogenesis and Chemoprevention Program)のメンバーであるDaniel Spakowicz博士は言う。

「それが本当であれば、われわれの研究結果は、細菌叢が、患者が治療に応答することを示すマーカーとなる可能性があることを示唆しています」

この研究を行うために、研究チームは文献検索を行い、細菌叢が予後予測に役立つ可能性があるがんを特定した。その後、2011年から2017年の間にオハイオ州立大学のジェームズがん病院およびソローブ研究所で進行がんに対する免疫チェックポイント阻害薬療法を受けた患者を後向きに解析した。

そして、患者の特徴、細菌叢に影響を与える薬剤、炎症、および免疫チェックポイント阻害薬後の生存率との関係を調べるためのモデルを作成した。

この解析では、年齢、身体活動、併存疾患、およびBMI(肥満度指数)などの患者変数を調整した。そして、これらの結果を、免疫チェックポイント阻害薬に応答する患者で増加または減少することが示された微生物と関連づけた。

「これらの戦略を組み合わせることで、がん免疫学の分野で急速に進化しているがんの免疫チェックポイント阻害薬治療中における細菌叢の役割を決定する何層もの裏付けをさらに補強しました」と、OSUCCC-James腫瘍内科助教でトランスレーショナル・セラピューティクス・プログラム(Translational Therapeutics Program)のメンバーであるDwight Owen医師は言う。「抗生物質と副腎皮質ステロイド薬は、身体活動、併存疾患、および病期などの複数の因子を調整した場合でも、全生存率と有意に関連していました」。

本研究の主な結果は以下の通り。

・免疫チェックポイント阻害薬療法の開始から28日以内に抗生物質または副腎皮質ステロイド薬を服用した患者は、すべてのがん種において生存率の低下を示した。
 ・β-ラクタム系抗生物質は、検査されたすべてのがんにおいて生存率と最も強い関連性を示した。
 ・その他の薬剤が、特定のがんとの有意な関連を示した。例えば、ヒスタミン受容体遮断薬および非ステロイド性抗炎症薬は、それぞれ肉腫および非小細胞肺がんにおける生存率の低下と関連し、プロトンポンプ阻害薬およびスタチンは、肉腫において全生存率と正の関連を示した。

「今回の結果は、特に数種のがんで、免疫チェックポイント阻害薬に対する応答において細菌叢が重要な役割を果たしていることを強く示唆していますが、どの微生物が重要なのか、また、これらの影響を緩和して免疫チェックポイント阻害薬に対する反応を促進するための解決策を明らかにするためには、さらなる研究が必要です」とSpakowicz博士は述べる。

このプロジェクトは、National Center for Advancing Translational Sciences(TR000090-05)および米国立がん研究所(CA016058-42)からの助成金によって支援されている。

オハイオ州立大学から本研究に参加した他の研究者は以下の通り:Rebecca Hoyd, Mitchell Muniak, Marium Husain, James S. Bassett, Lei Wang, Gabriel Tinoco, Sandip H. Patel, Jarred Burkart, Abdul Miah, Mingjia Li, Andrew Johns, Madison Grogan, David P. Carbone, Claire F. Verschraegen, Kari L. Kendra, Gregory A. Otterson, Lang Li and Carolyn J. Presley。

翻訳担当者 粟木瑞穂

監修 石井一夫(計算機統計学/久留米大学バイオ統計センター)

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原文掲載日 

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