NEWS:新しい研究で抗癌剤の開発期間を短縮

2007年6月3日

国立衛生研究所(NIH)の一部である国立癌研究所(NCI)の研究者のチームによると、ABT-888と呼ばれている新しい化合物は、臨床試験の最初の段階を終えました。この臨床試験では、実験室から臨床までの抗癌剤の開発期間を最大6?12ヵ月も短縮できる可能性のある薬剤開発の新しい方法(モデル)を用いています。2007年6月3日、イリノイ州シカゴの臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で、この結果(演題#3518)は紹介されました。


薬物安全性と忍容性を調べる従来の第1相臨床試験でテストする代わりに、ABT-888は、早期第1相試験(別名第0相試験)といわれている新しいタイプの試験で検討されました。開拓的なNCI Experimental Therapeutics(NExT)プログラムの一部として行われたこの早期第1相試験は、 作用機序(薬が作用する細胞内の特異的な標的)への焦点を加えたアプローチを用いることで、早期の臨床試験に必要な患者数を減らし、薬剤の開発のために重要な情報収集に必要な時間を減らすことができることを示しています。

「癌研究と(開発)薬の発見の間の進行を短縮する初期の相試験のために足跡を残すことは非常に魅力的で、この試験を用いて,NCIは新しい介入を研究するだけでなく多くの検討を行っています。」と、NCIディレクターJohn E. Niederhuber医師は述べています。「ABT-888試験の実施は,新しい薬事規制プロセスに関する原案(プロトタイプ)について話し合うために、FDAとの密接な協力と協議も必要とします。」

「試験開始から,この概念の証明を与えることができるデータ分析の期間は6ヵ月未満でした。」と、試験を主導したNCI Center for Cancer Research (CCR)のShivaani Kummar医師が述べています。

試験は、NCI-Frederick、Md.、CCR、Division of Cancer Treatment and Diagnosis からの科学者のチームによって行われました。「この試験に登録された最初の6名の患者は、種々の癌があり、ABT-888が、数カ月後に開始されると予想されるNCIが資金提供するより総合的な第1相試験に進むべきであるということを示唆するために必要な情報を提供しました」とKummar医師は述べています。

ABT-888は、DNAの損傷を修復するために重要な酵素を阻害します。活性酵素が存在しない場合、腫瘍細胞は、いくつかの抗癌剤の作用により感受性を示します。早期第1相試験を実行するとこの薬剤の全体的な薬剤開発計画を早められるかどうか研究するためイリノイ州のAbbott Park にあるAbbott Laboratories社は NCIとの臨床試験協定の一部としてABT-888を開発しました。

この試験の独自性は、ABT-888により影響されるバイオマーカーを測定する綿密な分析の開発でした。この試験では、循環している白血球の働きと同様に、化合物が腫瘍細胞の中でその標的とされた酵素を阻害することを示しました。後者の(白血球の酵素を阻害するという)所見は,より容易に利用しやすい白血球を,この薬剤が仮定する標的(酵素)を変化させるかどうかを測定する簡単な方法として,次に行われる試験に使用される可能性があることを示唆しています。

この早期第1相試験は、この早期の薬剤試験への新しいアプローチが上手く行き、NExTの目標と上手く合致するかどうかを判断することを目標とした原理を確認するための試験でした。 「NExTプログラムは、抗癌剤の開発を行っている大部分の医療センターで容易に利用できない研究資源を必要とします」と、このプログラムの先導者、DCTD院長のJames H. Doroshow医師は述べています。「この研究を行うためには、NCIの科学と臨床基盤が必要です。」

「NExTプログラムは、ヒトでの臨床試験が行われるまでに進んでいる新しい抗癌剤の数がそれほど多くないという現実から始まりました。」と、Doroshow医師が述べています。化合物の臨床試験まで進んでも、予想外の毒性が出たり、効果的でなかったため、度々その開発が失敗しています。 NExTはヒトでの早期第1相試験を容易にすることだけではなく、可能性のある新しい抗癌剤の生物学的な作用を測れる検査を開発、実行するために必要な科学者のチームで行うこともあります。この検査は、期待される生物学的な作用を示さない開発薬をNCIの薬剤開発パイプラインから系統的に除去し、今後の臨床開発への情報提供と迅速な判断のできるツールを提供しています。

「NExTプログラムのゴールは、従来の10〜12年もかかっている薬剤開発サイクルから最大1年間の短縮です。」と、Doroshow医師が述べています。

NExTプログラムの基礎にある理論は、2006年に米国食品医薬品局によって発行されたガイダンスです。
このガイダンスでは,広範囲な非臨床毒性試験や薬剤の大量生産のように時間と膨大な費用が必要な新薬開発の前にヒトでの試験を行うことを認めています。早期第1相試験では用量制限や短縮されたコースしか行えないので、限られた毒性試験が許可されています。薬剤が早期第1相試験で上手く行けば、より広範囲な臨床試験を行う前に、より総合的な毒性試験を行うことができます。早期第1相試験データは今後の臨床試験の有効性と成功性を改善するものとして期待され、それにより全体的な新薬開発期間を短縮できます。

HAJI 訳
監修 済


参照
Kummar S, Kinder R, Gutierrez M, Rubinstein L, Parchment RE, Phillips LR, Low J, Murgo AJ, Tomaszewski JE, Doroshow JH, and the NCI Phase 0 Working Group. Inhibition of Poly (ADP-ribose) polymerase (PARP) by ABT-888 in patients with advanced malignancies: results of a phase 0 trial. ASCO Abstract 3518. June 3, 2007.
phase 0 とNExTのQ&A

NExTの詳細
For more information about cancer, please visit the NCI Web site at http://www.cancer.gov, or call NCI’s Cancer Information Service at 1-800-4-CANCER (1-800-422-6237).
癌の詳細は、http://www.cancer.govのNCIウェブサイトまたは、NCI’s Cancer Information Service に電話してください。(電話番号1-800-4-CANCER(1-800-422-6237))

原文

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